ゼロからPMFまでの道のり

公開日
2021/04/04
真っ白なキャンバスからスタートするのは絶対的に難しいことです。ありえないほどに難しいです。それでも、テック業界の勇敢な起業家たちは何度も何度もそれを実行し、毎年数人が成功しています。上手くいけば素晴らしいことです。
 
新しいプロダクトに取り組んでいる人なら誰でも疑問に思うことがあります。
 
どうやってプロダクトマーケットフィットするのか?砂漠をさまようように迷走していて、ユーザーが定着しない場合、何か手立てはないのか?ひどくランダムに見えるものに仕組みを加える方法はあるのか?自分が迷走していることをそもそもどうやって知れるのか?
 
今日ご紹介するのは、私が数年前に作成してスタンフォード大学の学生に向けて発表した、短くてシンプルなデックです。これは、シンプルなアイデアに焦点を当てたものです。つまり、「ゼロからプロダクトマーケットフィットするまでの道のりは、どのようなアイデアを選ぶかによって、直線のようにも、風が吹き付けられるようにもなります」というアイデアです。私は、プロダクトを既存のものよりほんの少しずつ改善するのと、より画期的なものを作ることには、トレードオフがあることを示しています。
 
このデックは主にコンシューマー向けおよびコンシューマー向けのエンタープライズ製品に焦点を当てていますが、『ブルー・オーシャン戦略』などの本からアイデアを得ており、かなり一般的な内容になっています。
 
どうぞお楽しみください。
 
 
プロダクトマーケットフィットは難しいですが、今日はそれを簡単にするためのトレードオフについてお話しします。
 
トラクションがすべてです。それは投資家が求めるものです。将来の社員やチームが求めるものでもあります。しかし、トラクションを得ることは、実際のところプロダクトが「機能している」ことの反映であり、ユーザーがエンゲージし、定着し、オーガニックな顧客獲得があることを意味します。プロダクトマーケットフィットとは、あなたのプロダクトを必要としている人々が、あなたの提供するプロダクトに満足していることです。もっと詳しく知りたい方はa16zのブログをご覧ください。
 
 
重要なのは、プロダクトマーケットフィットが得られれば、フォーカスを初期のプロダクトからディストリビューション(流通)へ、そして市場を勝ち取ることへ移すことができるということです。この順番でやることが重要なのです!市場参入を急ぐあまり、パートナーシップやペイドマーケティングなどに時間をかけすぎてしまうチームがあります。そんなものは大規模ローンチを準備するときのことです。
しかし問題なのは、バケツから水が漏れているような状態では、ファネルのトップにいるユーザーは何の役にも立たないということです。
ではプロダクトマーケットフィットは、メトリクスの観点からはどのように見えるのでしょうか。おそらくもっとも適している指標はリテンションで、コホートを使って分析することになるでしょう。それはつまり、定着しているということであり、どう獲得するか把握する必要があります。すべてを把握した後は、ホッケースティックが手に入ります。私たちみんなが求めているものですよね?
変曲点に到達したということは、成長をスケールさせることに集中できるということです。ここでやることの多くは、ファネルの最適化、新規ユーザーの活性化、通知やメールキャンペーンの作成など、私がブログで書いてきたことです。
 
しかし、これらは別々の活動だと考えることが重要です。
 
プロダクトが機能していなければ、成長のための活動をしたところでそれは解決しません。
 
そのため新しいコンシューマー企業を作ることは、ある種不可能に近いのです。
 
 
だから20代の若者がシリコンバレーで素晴らしい会社を立ち上げることが多いのです。彼らはたくさんものを作り、そのうちプロダクトマーケットフィットに到達し、ベイエリアの資本と才能が彼らのスケールアップを助けてくれるのです。
 
若い起業家は、「昔からこうだった」とか「こういうのはうまくいかない」という概念にはとらわれません。挑戦し、失敗し、繰り返し、きわめて新しいものに向かって進むことができます。
 
コンシューマー向けプロダクトがPMFしているかどうかを迅速に判断するための具体的な方法をいくつか紹介します。
 
DAU/MAU(訳注:MAUに対するDAUの比率)が25%以上であることが望ましいです。世界トップレベルのDAU/MAUは50%を超えていると思います。
 
オーガニックの顧客獲得には一定の基準があります。1日に何百、何千もの登録があり、D1(訳注:1日目で継続する人)が30%以上であることが望ましいです。70%以上であれば、世界レベルです。
 
そして、PMFを示す究極の指標があります。100,000DAUあればきっとPMFしているでしょう。
SaaSプロダクトの場合なら、エンゲージメントではなくマネタイズに焦点を当てた別のメトリクスが必要になるでしょう。しかし、中には両方のメトリクスを使って評価できるプロダクトもあります。
 
そういうプロダクトを持っているなと思ったら、私にメールを送ってください :)
 
 
 
上記のメトリクスを比較すると、ほとんどのスタートアップはプロダクトマーケットフィットしていません。たいていはうまくいかないのです。
 
では、どうするか?
 
 
最近では、ほとんどのスタートアップが失敗する理由は、技術的なリスクではなく、PMFの欠如です。つまり、もしあなたを殺すものが1つあるとしたら、それはプロダクトがまったく機能しないことであり、それにともなってあらゆる問題が引き起こされるのです。それは投資家が関心を示さないこと、従業員の離職、共同創業者の喧嘩などです。上手くいかない時はストレスが溜まります。
 
プロダクトマーケットフィットはたいていすぐに達成されるか、そうでない場合は、非常に慎重にイテレーションを行わなければなりません。
 
では、どうやってそこに到達するのでしょうか?
 
これを考えるための1つのフレームワークを提示し、どのようなトレードオフが可能かを考えてみたいと思います。
 
ここにコーヒーカップがあります。コーヒーカップの場合、プロダクトマーケットフィットは実に簡単に得られます。コーヒーが入ればいい。それだけでいいのです。カップのデザインにはあまり多くの変数がないので、失敗することはあまりありません。
 
 
それに比べてデジタルプロダクトは、100万個の変数があります。コーヒーカップとは比べ物にならないほど複雑です!何かを台無しにするのは簡単ですね。
 
(上の写真は、Facebookの実験プロジェクト「Paper」ですが、まったくうまくいきませんでした。)
 
ソフトウェアの媒体は非常にリッチなので失敗しやすいのです。どんなものでも作ることができますが、ユーザーが理解できないものができてしまうことがよくあります。最悪なのは、一旦うまくいかないと、機能を追加してもどうにもならないことです!土台がしっかりしていないのです。
 
これらの例を頭の中で、両極端のものとして考えてみてください。コーヒーカップと、ぐちゃぐちゃでランダムなデジタルプロダクト。
この問題について考えれば考えるほど、新製品と既存製品のカテゴリーには大きな違いがあることに気付きました。
 
新製品のカテゴリーには多くのリスクがありますが、これについては後述します。
 
既存製品のカテゴリーは、リスクは少ないですが、競争が激しく、期待も大きかったりします。
 
この両極端の間のどこかにポジショニングしたいところです。
 
 
まず第一に、私は時間が経つにつれて、プロダクトは既存製品のカテゴリーに入っていた方がいいと考えるようになりました。Googleは最初の検索エンジンではなく、Facebookは最初のソーシャルネットワークでもなく、Microsoftは最初のOSでもありません。
 
しかし、これらの企業が市場を独占するようになったのは、まだダイナミクスが発達していない時期に参入したからです。そして、市場はどんどん成長していきました。とはいえ、彼らが何を提供し、どのようにしてキラープロダクトを開発したかは明らかでした。
 
 
もっと正確に言うと、「市場が大きい」というよりも、「市場でこのカテゴリーを引っ張っているユーザーがたくさんいる」ということです。引っ張っているというのは、そのプロダクトを積極的に探している人たちのことを意味しています。Google Trendsを見ればわかります。彼らはこのカテゴリーのプロダクトに言及しているリンクをクリックしています。すでに消費されているのです。
 
これを、起業家がよく陥りがちなフェイクな大きい市場規模と対比してみましょう。確かに大学生はたくさんいますし、それがあなたのターゲット市場かもしれません。しかし、その中で実際にこれを欲しがっている人はどれくらいいるでしょうか?あなたのプロダクトの先行バージョンをすでに所有していたり、そのカテゴリーについてググったり検索したり話したりしている人は?これが需要の本当の評価です。
上記の点に関連して、最高の市場にはすでに競合がいます。そして、それらはかなりまともな競合かもしれません。その市場でプロダクトを作ってまともに稼げる人がいればそれは良い兆候ですが、あなたはまず、参入するためのくさびを見つけなければなりません。あるいは、なぜ、どのようにして市場が急速に大きくなるのかの明確な仮説を持っているかもしれませんね。
 
最良のケースは、市場が大きいのに断片化されている場合です。競合他社にそれほど競争力がないか、規制問題などの構造的な問題があって市場が小さくなっているからかもしれません。
 
 
競合他社がいて、既存の需要がある既存の市場にいるのであれば、くさびが必要です。市場を分析し、セグメントを理解し、どうやって参入するかを考えなければなりません。
 
このテーマに関する私の愛読書は "Different: Escaping the Competitive Herd"(以下、日本語版) です。一読の価値ありです。
 
自分自身のためにプロダクトを構築することには大きなメリットがあります。なぜなら、素早くイテレーションすることで得られる直感的な優位性は素晴らしいものだからです。これは常に可能なことではありませんが、できるのなら素晴らしいことです。
 
コーヒーカップの話と同じように、プロダクトマーケットフィットを迅速に得るための1つの方法は、何かをコピーすることです。
 
しかし、この戦略には多くの問題があります。同じプロダクトを持っている2番目のプレイヤーであれば、ずっと2番目のプレイヤーのままです。あなたのチームはこの戦略を嫌うでしょう。投資家はこの戦略を良いものとはしません。
 
市場が大きくてこの戦略が有効な場合もありますが、そうあることではありません。
より良い方法は、ひねりを加えることです。既存市場から新しい市場までの範囲において、その中間に位置するものを選ぶのです。消費者が根本的に理解しているものを作りつつ、市場に出せるような明確な革新性を持たせるのです。
 
プロダクトマーケットフィットを高めるには、カテゴリーや差別化の軸などを熟考することが重要です。
 
よくある失敗例をご紹介します。
 
 
私たちは「X for Y」タイプの企業が大好きです。そして、それはクールなアイデアを生み出す方法でもありますが、根本的な市場規模や市場での引き合いの存在についてはあまり語られません。
 
例えば、「犬用のPinterest」と「ビジネス用のPinterest」はどちらもX for Yのアイデアですが、Pinterestのセグメントは犬だけです。ビジネスをターゲットにしたプロダクトは、プロダクトの仕組みを説明したものであり、もっと大きいPinterest市場の中の小さなセットではありません。また、先ほど述べたように、既存の市場におけるくさびを見極めることが重要です。
 
そのため、既存市場と新規市場を比較する際には、「代替テスト」を用いて考えることができます。あなたが作っているこの新製品を使うと、他の製品からエンゲージメントやドルを奪うことになりますか?もしそうであれば、それはまさにセグメントであり、真っ向勝負の競合製品です。直感に反しますが、私はそれを良いことだと考えています。なぜなら、彼らとは既存の枠組みの中で競争しているのであり、勝つためには適切な機能が必要なだけだからです。
 
あらゆる既存の市場には、プロダクトの品質や機能などの最低基準があります。MVPを作りたいのはやまやまですが、カテゴリーが十分に進化しているために最低限の機能以上のものが必要な場合もあります。
 
人々はある種の技術を好むことがあります。今日はクリプトかもしれませんが、明日は何か他のものかもしれません。そして彼らは、人々のコアニーズを根本的に解決するのではなく、技術を適用できる製品やカテゴリーを探しているのです。これは、技術者が簡単に犯す間違いです。
 
ご存知のように、私は新しい消費者の行動が嫌いです :) これはうまくいくこともありますが、まれです。
最低でもプロダクトは、10万年前から人間を突き動かしてきた人間の根本的なモチベーションを利用しなければなりません。
これはサンフランシスコに限ったことですが、起業家たちはしばしばお互いにだけクールに聞こえるようなものを作っています。他の誰も気にしていないが、楽しくて、SOMAバブルに限定された技術トレンドを捉えています。私はこれを「アーティストのためのアート」と呼んでいます。
 
これはよくあることです。迅速な反復、優れた技術、優秀な人材など、すべてを正しく実行することは可能です。しかし、究極的に言えば、プロダクトや市場において大きなリスクを冒しても、実際には成功しないことがあります。
PMFしたプロダクトを手に入れたとして、それが軌道に乗り始めたとしましょう!贅沢な悩みですね。さて、どうしますか?
幸いなことに、ベイエリアの力を借りることでこの問題を解決することができます。
 
ベイエリアには、企業のスケールアップに関する多くの研究成果と専門家がいます。資金調達して、スケール経験のあるオペレーターを雇えば道は開けるのです。
 
軽視しているわけではありませんが、ゼロからプロダクトマーケットフィットするまでの部分はとても難しいので、次のステージは最初のステージよりもずっと簡単になるだろうと言いたいのです。言ってしまえばうまくいく成長チャネルは限られていて、最適化の問題です。
有料広告チャンネルの場合、最終的にはLTV対CACの問題として見ています。ブレンドやオーガニックのトラクションもそうですね。
 
Eコマース企業、OTA、マーケットプレイスなどは、このようにして成長していくことが多いです。
あるいは、バイラルループを構築したい場合 - プロダクトがソーシャルであったり、コラボレーションの性質を持っている場合 - は、招待やコンテンツ共有などのループに最適化することができます。これは、これだけで複数回に分けて連載できるほど深いテーマです。
 
このチャネルは、ソーシャルネットワークや動画共有プロダクトだけでなく、職場での生産性/コラボレーションプロダクトでも使用されています。
もし、あなたの成長ループが多くのUGCを含むものであれば、Googleで構築することができます。地域のビジネスや企業・プロダクト、あるいは不動産に関するレビューを本当に重視しているプロダクトの場合、このループを利用しているのを見かけます。
 
プロダクトマーケットフィットがあるならば、私はあなたの意見を聞きたいです。いつでも私にメッセージを送ってください。ありがとうございました :)
 
※この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。