シンプルさはマーケティングの武器だ
公開日
2021/02/16
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シンプルなプロダクトはデザインに優れているだけではなく、マーケティングもしやすい
マーケティングとプロダクトUXは相反するもののように思われていますが、実際には、この2つが一緒に機能する機会はたくさんあります。メトリクスを向上させるための最良のツールのいくつかは、効果的なインタラクションデザインを作成するために使用されるものと同じです。これらのテクニックには、「ソフトな」オンボーディング体験の追加、不要な機能の削除、明確に見える階層構造と行動喚起(Call To Action)、その他多くの戦術が含まれます。究極的には、こうした戦術は、望ましくもあり最適化もされたシンプルなプロダクト体験を生み出すのに役立ちます。
デザイナーとマーケターの両方にとってシンプルさが美徳である理由を他にも探ってみましょう。
高度に最適化されたフローは、「私は次に何をすればいいのか」を簡単に理解させることができる
すべてのプロダクトは、新しいユーザーがどれだけうまくサインアップすることができ、そしてプロダクトのコアバリューに興味を持ってくれるかで生きるか死ぬかが決まります。高いサインアップ率とオンボーディング率は、多くのユーザーが各ステップを完了しているかどうかにかかっています。
そのため、各ページは可能な限りシンプルで、次に何をすべきかが常に明らかになるように方向づけられていることが重要です。もし各ページがユーザーに多くの選択肢を与えすぎて、ファネルの主要な目標から気をそらすようなことがあれば、パーセンテージ(訳注:サインアップ率など)は減少します。その結果、最高のランディングページやファネルのいくつかは、根本的に非常にシンプルで、余計なものが削ぎ落とされたデザインになっています。ここでは、ナビゲーションクロームや余計なリンクなどを削除することで、よりシンプルになるだけでなく、メトリクスの観点から見てもパフォーマンスが向上します。
より多くのデータとより速い学習サイクル
メトリクスに精通したチームは、A/Bテストを展開し、その結果を評価することをプロダクトのイテレーションプロセスの中核に据えています。しかし、初期の段階では、テストを迅速に評価するのに統計的に有意なレベルで十分なユーザーがいないことがよくあります。複雑な機能セットを持っている場合は、ユーザーのごく一部のユーザーしか各選択肢を使っていないため、このデータの価値はさらに薄まってしまいます。しかし、ほぼ100%のユーザーがサインアップ、招待、シェアのフローを行うようなシンプルなプロダクトの場合は、より早くデータを収集することができるので、意思決定もより迅速に行うことができます。
例えば、A/Bテストを9日ではなく3日で実行することができれば、学習が3倍速くなり、プロダクトのブレイクスルーをより早く見つけることができるので、これは非常に大きなアドバンテージになります。これを銀行の利息の複利のように考えてみてください。10%の改善点をより早く見つけることが、指数関数的にパフォーマンスを向上させることにつながります。
シンプルなプロダクトほど、最適化やピボットが容易
究極的には、プロダクトを通じて最適化されたフローこそが勝つのです。複雑さなど何の賞賛も受けることはありません。最適化されたファネル1つは、最適化されていないファネル複数よりも優れています。なぜなら、全ファネルの平均的なコンバージョン率から評価されるからです。したがって、ファネルの数が多くなればなるほど、現実的なレベルでは、すべてのファネルを最適化しておくのがどんどん難しくなるということです。
少数のサインアップフローをユーザーに行わせる方がより簡単でより優れており、良いデザイン、よく最適化された状態を維持できるので、全体のクオリティが高く保たれます。
これは、いわゆる「ピボット」でプロダクトにいくらか変更を加えたり、サインアップファネルにFacebookサインオンを追加するといった重要な新規追加をテストする場合に特に当てはまります。オンボーディングフローの数が少ないシンプルなプロダクトであれば、それがうまくいくかどうかを実験し、素早くデータを収集し、全新規ユーザーの体験に追加することは簡単です。これとは対照的に、複雑なプロダクトでは、プロダクト内のさまざまな場所をアップデートしなければならないため、デザインの変更に多くの時間がかかります。
影響の少ないアドオンではなく、ファネルのトップに焦点を当てよう
プロダクトがうまく機能していないとき、機能をもっと追加することでプロダクトを「完全に焼き上げる」というのがよくある反射的な反応です。しかし、新しいスタートアップ企業のデータを調べてみると、問題はプロダクトの最初の数ページにあることがほとんどであることがわかりました。たいてい、魅力的でない価値提供、新規ユーザーの体験をぶち壊しにするようなお粗末なサインアップフローになっています。シンプルなプロダクトにメトリクスを追加することで何が起こっているのかが明確になり、ほとんどの場合、修正する必要のある根本的な問題は最初のページにあります。
このようにして、「正しい」提供価値を持つシンプルなプロダクトは、より良いサインアップ率となるでしょう。これにより、プロダクトの将来を10倍にしないようなインパクトの低い機能アドオンよりも、ファネルのトップの問題に注意を向けることができます。
短いファネルはより多くのコンバージョンをもたらす
重要なプロダクトフローに対してできる最も強力なことの1つは、そのフローを短縮することです。一般的に、各ステップでユーザーの何%かを失うことになるので、開始までの作業量を減らすことは非常に効果的なツールです。複雑なホームページを提示してユーザーに大量の情報を求めるよりも、Facebookに登録させた方がステップ数が減り、よりシンプルなプロダクトとより良いメトリクスにつながるかもしれません。
結局のところこれらはすべて、多くのオプションを平等に提示するのではなく、ユーザーが最も頻度高くやりたいことを優先するという、非常にいろいろな意見がある設計思想と一致しています。"Designing Interactions"という本の中のPalmのストーリーで議論されているように、プロダクトの機能はべき乗則にしたがって使われています。つまり、少数のプロダクト機能がコンスタントに使われ、残りの機能はロングテール(訳注:大半の機能の使用頻度が低いという意味合い)になります。その結果、最もよく使われる機能を便利にしながら、使われていない機能は利用可能ではあるものの隠れているようにしたいものです。
(*正しいステップでサインアップフローを長くすることも役に立つといういくつかの外れ値もあります)
価値の低いアクションを削除することで、価値の高いアクションを目立たせる
メトリクス指向のプロダクトによく見られる(悪い)デザインパターンの1つは、共有や他のバイラルな仕組みのために、より目立つ行動喚起(Call To Action)を重ね続けることです。これは、初期のFacebookアプリでは特にひどかったことです。問題は、ユーザーのアテンションはすぐに薄まり、それぞれの機能どうしで競合してしまうことで、何度かこうしたことを繰り返した結果、ごちゃごちゃと散らかったフランケンシュタインみたいなプロダクトに簡単に陥ってしまいます。
その代わりに、機能を削除して、残ったものをより目立つようにするのが説得力のあるツールです。価値の高いアクションを太字にして黄色で強調するのではなく、不要になったアクションをただ単に削除するだけです。これは、よりシンプルなプロダクト体験につながり、強調したいアクションの目立ち具合を高めることにもつながります。
結論:デザインとメトリクスを両立させよう
結局のところ、上記のツールの鍵は、UIの有効性を高めると同時にメトリクスを向上させることにあります。高度に最適化されたプロダクトは驚くほどシンプルに使えるから、こうしたことが起こりうるのです。説得力のある価値を伝えるランディングページ、ソフトなオンボーディングフロー、明確な行動喚起、そして多くの価値を生み出すシンプルな仕組みがあるのです。きわめてマーケティングしやすいプロダクトにすることはすなわち、デザイン性の高いプロダクトにすることであり、これはすべてのプロダクトが努力すべき素晴らしいことなのです。
これらのツールを効果的に使用したいなら、メトリクスに精通している人は、デザインにも精通していなければなりません。点滅させたり、赤くハイライトしたりすることで対象物の目立ち具合を高めることができるのは明らかですが、視覚的な乱雑さを減らしつつもさらに大きなメトリクスのメリットを提供してくれる、もっとセンスの良いツールがたくさんあります。これはデイブ・マクルーアでさえも例外ではありません!
※この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文:Simple is Marketable by Andrew Chen