イノベーションこそが成長の源泉である|ARK Investとは何者か
公開日
2021/08/16
著者
ARKとは何か
ARKは2014年に設立された、破壊的イノベーションへの投資に特化した運用会社です。資産運用残高(AUM)は2021年2月時点で500億ドルとされ、比較的若いファンドとしては多額の資金を運用しています。
上場投資信託(ETF)の運用会社が投資対象として「破壊的イノベーション」を挙げるという点でも十分珍しいですが、ARKはリサーチの手法、それを手がけるアナリストのバックグラウンドといった点でも特異なファンドとなっています。
最近は日本でも非常に注目を浴びていますが、それはひとえにリターンの高さからです。以下はARKが運用するETFのうち、最も有名な銘柄であるARKKの組成以来のNAV(純資産総額)推移です。(対SPX, M1WO)


見ての通り、他のインデックス指数を組成以来大きく上回っています。特にここ1年ほどの上回り方が大きいため、話題に上がることが多くなっています。
実際に2020年には、同社の7つのETFのうち5つのETFが平均141%のリターンを達成し、3つのETFが米国の全ファンドの中でトップの成績を収めました。
この大幅なリターンを生んでいる構成銘柄を見てみると、より他のファンドとの違いが浮かび上がってきます。
ARKの旗艦ファンドであるARKKを構成比率順に見てみると、テスラやCoinbase、Unity、Zoom、SquareにShopifyなどが並んでいます。

一方で、その他のインデックス指数を構成比率順に見てみると、それらの存在はなく、いわゆるGAFAなどが並びます。(2020年12月21日付でテスラはS&P500に組み入れられたので、S&P500の構成比率第5位にランクインしています。)

「ARK」と「その他指数」の構成銘柄を比較したとき、極端に言うと「今後成長余地の大きい企業か、これまで大きく成長してきた企業か」という考え方もできます。
ARKのCEO兼CIOのキャシー・ウッドはこれを次のように表しています。
We're all about finding the next big thing. Those hewing to the benchmarks, which are backwards looking, are not about the future. They are about what has worked. We're all about what is going to work. 私たちは、Next Big Thingを見つけることだけに注力しています。ベンチマークに忠実な人たちは、後ろ向きであり、未来のことは考えていません。過去に上手くいったことを考えているのです。私たちは、これから何が上手くいくのかだけを考えています。
S&P500のようなインデックスファンドは時価総額で組み入れ比率を重み付けします。つまり、構成銘柄のうち、過去の実績から高く評価された銘柄から順番に買っているのと同じです。
ARKはその手の投資にはまったく興味がなく、むしろ次の時代のGAFAになりうる企業に早期から投資しておくことに興味があるということですね。
それでは、そんなARKの投資対象となる「破壊的イノベーション」とは彼らにとって一体何なのでしょうか。
ARKが考える「破壊的イノベーション」とは
ARKは以下の3つを破壊的イノベーションと捉えています。
#01 Experience dramatic cost declines and unleash waves of incremental demand. 劇的なコスト削減を実現し、需要拡大の波を呼び起こす。 ある技術がコストや性能の限界を超えたとき、その技術が対応できる市場は劇的に拡大し、多様化します。ARKは、ライトの法則を用いて変革をもたらす技術の潜在的な範囲を把握しています。
#02 Cut across sectors and geographies. 業界や地域を横断する。 業界や地域を横断するテクノロジーは、さまざまな事業セクターでアプリケーションが「発見」されるにつれてアクセス可能な市場が飛躍的に拡大します。また、セクターをまたぐことで、プロダクトマーケットフィット(PMF)が向上し、ビジネスサイクルのリスクを回避し、複数の専門分野から注目を集めることができます。
#03 Serve as a platform for additional innovations. 次のイノベーションのプラットフォームとしての役割を果たす。 テクノロジーの上に他のイノベーションを構築することができれば、そのユースケースは想像できないほど拡大する可能性があります。その結果として、イノベーションのプラットフォームは、長期的には過小評価される可能性があります。なぜなら予測を成功させるためには、新製品や新サービスの広がる範囲を予測しなければならないからです。
ARKの定義する破壊的イノベーションを見たところで、次にARKがどうやって破壊的イノベーションを起こしうる企業をリサーチしているのか、その手法を見ていきます。
ARKのリサーチ手法
- 破壊的イノベーションを正しくリサーチするための組織図
ARKは2021年8月現在、38人のメンバーで運営されており、そのメンバー構成も一般の資産運用会社と比べると特徴的です。
一般的に資産運用会社で働く人のバックグラウンドといえば、投資銀行などファイナンスのプロフェッショナル職が多いように思いますが、ARKではそれらに加え、テクノロジー業界の人材も採用しています。例を挙げると、自らスタートアップを立ち上げていた人材や、LyftのPMを務めていた人材。特にベンチャーキャピタルで働いていた人材が多く在籍しています。
そして、アナリストの多くがセクター割りで企業分析をしている一方で、ARKは次のイノベーションのプラットフォームとしての役割を果たす企業を見つけるために、セクター割りではなく技術テーマ割りを採用しています。

質問:企業や業界の分析をする際に、大多数のアナリストが理解していないことを(ARKは)見抜かれています。他のアナリストとは違う分析ができるのは何故だと思いますか?
私たちの調査の取り組みの方法がその理由です。
これは他の調査組織や金融サービス業とは特に異なるやり方をとっています。従来の世界では、セクターごと、サブセクターごと、サブ・サブセクターごとに責任が切り離されていました。極めてサイロ化されており、専門化されています。それは今日のイノベーションを分析するための正しい方法ではないと考えています。
私たちは、アナリストは全員がテクノロジーに慣れていなければならないと考えています。ですから、彼らは全員がテクノロジーアナリストでなければならないし、同時にジェネラリストでなければならない。
そこで私たちは、アナリストが責任を分担できるように「イノベーション・プラットフォーム」に分割しました。つまり、イノベーション・プラットフォームのエキスパートは、セクター別に見るジェネラリストということになります。そう、これは現実の世界、あるいは伝統的な世界とは全く違うやり方です。イノベーションの収束が次から次へと起きている時代においては今までのやり方の分析では、非常に困難になっていくことでしょう。
テスラの分析は3つのプラットフォームの融合からなっています。自動運転配車ネットワークはロボット工学、これまでになく費用対効果の高い電気自動車はエネルギー貯蔵、そしてこれらの自動車の動力源となっている人工知能の3領域です。当社のアナリスト3人が1つの企業について協働しているのは、それぞれの専門領域を融合させるためなのです。従来の調査部門で私たちが目にしてきたものは、ある銘柄をカバーしたいアナリストと別のアナリストとの綱引きです。アマゾンを思い出します。テクノロジーアナリストはアマゾン株の調査をしたいと言っていましたが、小売アナリストはノーと言いました。ところがアマゾンはAWSのおかげで、テクノロジー企業としての評価が高まったのですから、本当ならば小売とテクノロジーのアナリスト両方でリサーチをするべきだったのです。
このように私たちは、従来のリサーチ組織にはなかったような形で、アナリスト同士のコラボレーションを可能にし、また奨励するように組織されています。
(中略)
私たちは、テスラは世界最大級のタクシープラットフォームの一つになると信じています。テスラは、米国の主要な自動運転タクシー会社になれると信じています。
もし自動運転が成功してテスラの評価額が大幅に上昇するとしたら、それは自動運転の粗利益率が高い為です。電気自動車のグロスマージンは25〜30%くらいだと思います。テスラはそれを40%に押し上げることができるかもしれませんが、私たちは念のため25〜30%と想定しています。
ただし、自動運転といっても、「サービスとしての輸送(TaaS)」であり、そのモデルは「サービスとしてのソフトウェア(SaaS)」のようなものです。これは、80〜90%のグロスマージンが得られる構造になりえます。したがって、テスラ全体としてのグロスマージンは、おそらく60%台半ばから後半になるでしょう。
テスラの価格モデルにそのような混合グロスマージン構造を設定しているアナリストは他にいないと思います。なぜかというと、彼らは自動運転としての価値を考えているのではなく、今そこにある電気自動車としての価値しか見えないからです。
(中略)
テスラのような企業の価値を算定するのはとても難しいのです。なぜならテスラは旧来の業界には存在しないからです。
そのため伝統的な自動車アナリストたちは、テスラをどう評価すれば良いかわからないのです。彼らはソフトウェアアナリストでもなく、ロボティックスアナリストでもなく、エネルギー貯蔵アナリストでもなく、人工知能アナリストでもありません。
私たちはそれを、4つの異なる領域の専門知識のモデルに落とし込んでいます。1つの銘柄に、4つの領域の専門知識を持った3人のアナリストがついています。自動車アナリストがテスラを理解するのが難しいのは分かります。テスラは単なる自動車株ではありません。それが最大の問題だと思います。
(インタビューはここまで)
- ARKのリサーチを支える三本柱
①従来の金融リサーチ
②オンライン・ソーシャルメディア(ARK特有)
イノベーション発掘のためには、もはや従来の金融リサーチ手段だけでは十分ではありません。私たちはソーシャルメディアを活用し、コミュニティにリーチし、これまで金融の世界では決して出会わなかった各業界の専門家と繋がる必要があります。彼らは当社のリサーチを活用し、自らのリサーチも共有してくれます。
一方で、一般投資家からの意見も吸い上げます。私たちは多数の投資関連ブログに対して当社が公開したリサーチ結果を転載可能としており、私たちの研究を自由に取り入れて自分のサイトに掲載することができます。これによって活発な議論が巻き起こります。人は、面識のない誰かのリサーチについては容赦無く批判するものです。それらの批判は当社にとっては好都合なのです。なぜなら、我々が間違っている場合はそれを知りたいからです。
③クラウドソーシング(ARK特有)
「リサーチイントラネット」は当社のアナリストやファンドマネージャー、リサーチ責任者が意見交換を行う場ですが、そのなかにはそれぞれ「テーマ開発者」向けセクションがあります。テーマ開発者とはARKの活動に興味を持っている外部の専門家で、当社から情報を得る代わりに、当社もテーマ開発者からの情報を得て知識の交換を行っています。

ARKを率いるキャシー・ウッドの経歴

キャシー・ウッドは1955年12月、アイルランド移民の娘としてロサンゼルスで生まれました。父親はアイルランド陸軍とアメリカ空軍に所属し、レーダーシステムのエンジニアとして成功していました。彼は細部にこだわる性格で、物事の間にあるつながりを見つけることの大事さをキャシーにたびたび説いていたと言います。
1977年には師の紹介でCapital Groupにアシスタント・エコノミストとして3年間勤務。 1980年になるとニューヨークに移り、3人の子供を育てながらもJennison Associatesにチーフ・エコノミスト、アナリスト、ポートフォリオ・マネージャー、マネージング・ディレクターとして18年間勤務します。
1998年、ウッドはLulu C. Wangと共同でヘッジファンドのTupelo Capital Managementを設立した。
2001年にはAllianceBernsteinに入社し、グローバルテーマ戦略のCIOとして12年間勤務。50億ドルを運用しました。2014年になると、AllianceBernsteinに「破壊的イノベーションに基づくアクティブ運用のETF」というアイデアを提出するも、リスクが高すぎると判断されます。
この時点でウッドは同社を退社し、ARK Investを設立しました。
とはいえ、最初から順風満帆だったわけではなく、設立から3年間はARKには外部の投資家がいなかったため、ウッドは個人的に会社全体を支え、給与や製品登録費用などの運営費を負担していました。(2017年には日興アセットマネジメントが一部出資)
オフィスはなく、公共スペースで自分のパソコンを使って仕事をしていたため、ウッドを疑う人も、心配する人もたくさんいましたが、彼女の自信は決して揺るがなかったと、ARKの最初の社員の1人で現在はCOOを務めるトム・スタウトは当時を振り返って語っています。
ウッドにはイノベーションへの信念の他に、透明性に対する信念もありました。多くの金融機関では、ポートフォリオマネジャーやアナリストがソーシャルメディアを使ってリサーチ結果を共有したり、情報を収集したりすることを認めていません。
AllianceBernsteinの同僚で、現在はARKのリサーチディレクターを務めているブレット・ウィントンは情報の開示について以下のように語っています。
情報は情報を呼び寄せるものです。我々のリサーチを世界に提供することで、意見の相違や誤解があった場合、それを反映させることができます。そうすれば、何が起こったのかをよりよく理解することができるでしょう。
ここまでで彼女の信念の強さが伝わったように思いますが、最後にもう1つ、元同僚からのウッド評をご紹介します。
彼女は今でも揺るぎない論客であり、強力な思想家です。彼女は、私がこれまでに会った誰よりも多くのファクトや数字を覚えている。その頭脳の純粋な馬力のおかげで、どんな議論でも彼女は圧倒的に有利な立場に立っています。
ARK Investmentとキャシー・ウッド。どちらからも目が離せません。
なお、キャシー・ウッドの推薦図書は以下からご覧いただけます。