キャリアに寄り道を加えよう。クリス・ディクソン流、高い山の登り方

公開日
2021/11/23
私の知り合いに、1年前に大学を卒業して今は大手投資銀行で働いている優秀な若者がいます。彼はウォール街で働くことに嫌気が差し、テックスタートアップで働きたいと考えています。(素晴らしい!)
 
最近、彼は上司に辞令を出したのですが、上司は彼を引き留めるために手の込んだ宣伝をしました。銀行に残れば給料は上がり、より大きな責任を担えると言います。一方、テクノロジー業界に入れば、彼はゼロからスタートしなければなりません。彼は今、「金融業界での長期的な野望はない」と宣言したにもかかわらず、現在の職場に残ることを考えているのです。
 
私は長年にわたり、同じような状況に置かれている多くの採用候補者に出会ってきました。私は彼らに、ごく当たり前の質問をします。
 
10年後には何をしていたいですか?
 
その答えは決まって「テックスタートアップで働く、または起業する」です。しかし、そう答えた人の大半は、スタートアップには参加せず、現状のレールを歩み続けています。そして長期的な野望に向かって進むことはなく、自分が楽しさを感じることもない業界で何年も過ごし、数年経ってからようやく仕事を辞めるのです。
 
賢くて野心もある人が、長期的な野心を持つことができない分野で働き続けることなんてありえるのでしょうか?彼らが犯している過ちは、コンピュータサイエンスを使って上手く例えられます。
 
コンピュータサイエンスの古典的な問題に「山登り法 (hill climbing)」があります。丘陵地帯のランダムな場所に落とされたと想像してみてください。霧がかかっているため、各方向は数フィートしか見えません。目標は、最も高い丘に到達することです。
 
 
最もシンプルなアルゴリズムを考えてみましょう。どんな時でも、自分の位置が高くなる方向に一歩踏み出すのです。この方法におけるリスクは、たまたま低い丘の近くからスタートした場合、高い丘の頂上ではなく、その低い丘での頂上にたどり着いてしまうことです。
 
このアルゴリズムをより洗練してみましょう。歩き方にランダム性を加えるのです。最初はたくさんのランダム性を持たせ、時間の経過とともにランダム性を減らしていきます。 これにより、(最終的に)ランダム性のない集中的な丘登りを始める前に、より大きな丘の近くで蛇行する可能性が高くなります。
 
その他の一般的に優れているアルゴリズムとしては、地形のランダムな部分に繰り返し身を投じ、単純な丘登りを行い、そのような試みを何度も行った後、いったん戻ってきて、どの丘が最も高かったかを決めるというものです。
 
ここで採用候補者の話に戻ります。彼は自分の地形においてあまり霧がかかっていないという利点があります。 彼は、今登っている丘とは別の丘の頂上に行きたいと思っています。 自分が立っている場所から、その高い丘が見えているのです。
 
しかし、今いる丘の魔力は強いです。人間には、上り坂に踏み出したいという自然な傾向があります。彼は、行動経済学者が揃って強調する罠に陥っています。つまり、人は長期的な報酬よりも短期的な報酬を過大評価する傾向があるということです。この効果は、野心的な人ほど強く現れるようです。野心があるからこそ、すぐ近くにある確実な上り坂を見送ることを難しく感じるのです。
 
キャリアの浅い人たちは、コンピュータサイエンスから学ぶことがあります。(特に初期の段階では)多少寄り道しながら歩き、新しい部分にランダムに身を落としてみて、いざ最も高い丘を見つけたら、現在の延長にある上り坂がどれほど優れているように見えても、現在の丘でこれ以上時間を無駄にしてはいけません。
 
 
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
 
Chris Dixon@cdixon
Andreessen Horowitz(a16z)のGPを務め、シードおよびグロースステージの投資家として活躍している。現在はa16zのクリプト・ブロックチェーン投資をリードしており、Crypto Startup Schoolなどで講演も行う。