日本でも話題になりつつあるClubhouseを総ざらい

公開日
2021/01/24
今とにかく米国のテック界隈を賑わせている消費者向けサービスがClubhouseです。
 
Clubhouseとは、ひとことで言うなら音声版Twitterであり、同期的(ライブストリーミング)であることがポッドキャストとの大きな違いの1つになっています。
 
Clubhouseは現在招待制をとっているため、その高い知名度の割に実際にアプリを使用した人は限られています。そのため発祥の地である米国においても「どうやったら招待リンクをゲットできるか」といった類のYouTubeの動画がアップされています。
 
日本のテック界隈でもここ数日大きな話題の1つになっており、招待を待ち望む声が日に日に大きくなってきています。
 
そこで、今このタイミングでClubhouseのこれまでの道のりを総ざらいしていきたいと思います。
 

 
目次

Clubhouseとは

 
Clubhouseをひとことで表すと音声版Twitterだと書きましたが、それではいまいち実態を示しきれていません。
 
Clubhouseは「ドロップインオーディオチャット(drop-in audio chat)アプリ」と自称しており、これを意訳すると「気軽にのぞきに行ける音声チャット」となります。
 
「気軽にのぞきに行ける」について説明します。
 
Clubhouseには他のSNSと同様に、フォロー機能がついています。 またユーザーは、各々で自由にルームを立ち上げることができ、友達とのクローズドなルーム(=他の人は入れない)を立ち上げて他愛もない会話をしたり、テーマを決めてオープンなルーム(=誰でも入れる)を立ち上げ、n対nのディスカッションを交わすことも可能です。
 
ホーム画面には、自分がフォローしている人が参加しているルームが表示され、タイトルと参加メンバーを見て面白そうだったら気軽に入室できます。これがドロップインオーディオチャットと言われる所以です。
左:ホーム画面。Start a roomを押せば誰でもすぐにルームを作成できる 右:roomは公開度合いに応じてOpen, Social, Closedの3種類から設定できる
左:roomに入ってすぐの状態。デフォルトではミュートになっている 右:挙手ボタンを押すとモデレーターに発言権を求めることができ、承認されるとスピーカーになれる
 
 
 
カテゴリーは美術やスポーツ、テックなど幅広く用意されており、興味のあるカテゴリーをタップすると関連人物が出てくるので、彼らをフォローするとタイムラインに関連イベントが表示されるようになっています。
 
 
そして数あるカテゴリーのなかでも特に盛り上がっているのがテックです。
詳しくは後述しますが、Clubhouseは超名門VCのAndreesen Horowitzからの全面的バックアップを受けており、その一部としてマーク・アンドリーセンやベン・ホロウィッツのルームは頻繁に開催されています。
 
とりわけベン・ホロウィッツの妻フェリシア・ホロウィッツが主催するVirutal Dinner Partyには毎回超豪華ゲストが集まり、お金を払っても聞けないようなトークが繰り広げられています。
Felicia Horowitzが主催するVirtual Dinner Partyには3,000人以上が同時接続する。1/24開催のルームにはベン・ホロウィッツ、ナバル・ラビカント、MCハマーなどが出席していた。
 
他にも平日毎日開催されるGood Timeというルームでは、マーク・アンドリーセンやギャリー・タン(Initialized Capital創業者)などがレギュラーで出演しています。
 
彼らは限られた人としか喋らないということはなく、テクノロジー好きの17歳の少年がProduct Hunt創業者のライアン・フーヴァーと1時間以上話をしたり、マーク・アンドリーセンやほかのエンジェル投資家ともディスカッションしたことを語っていました。
 
他のSNSと比較した際のこのような親密さも、ユーザーをとりこにしている理由の1つです。
 

ファイナンスと数字

 
ClubhouseはシリーズAラウンドを2020年5月にクローズしており、シリーズBの投資を虎視眈々と狙う投資家がうごめいているのが現状です。
 
■シード(2020年2月) 調達額:$1M以上 バリュエーション:不明 投資家:Housepartyの共同創業者Ben Rubin、AngelListの共同創業者Naval Ravikant、Color Genomicsの共同創業者Elad Gilなど
 
2020年4月、β版をローンチ
 
■シリーズA(2020年5月 / 現在ラウンド) 調達額:$12M ($2Mはセカンダリ。共同創業者の2人で$1Mずつ売却) バリュエーション:$100M 投資家:Andreesen Horowitz この段階でClubhouseはベータ版の状態で、利用を希望する人はGoogleフォームで申請する必要があった。関係筋の証言によると、$10Mは第三者割当増資で、加えて創業者の2人はセカンダリで$2Mをa16zに売却した模様。 現在の登録ユーザー数は200万人以上、DAUは80万人以上
 
引用:Off Topic
 
他のSNSが$100Mのバリュエーションに到達したタイミングと比較すると圧倒的にユーザー数が少なく、さすがに過大評価だという声も見受けられます。
 
また、セカンダリーで創業者が$1Mずつ株を売ったことについても「5,000人のβユーザーがいるだけなのに、$100Mのバリュエーションがつき、もう$1Mも稼いでやがる」といった批判が出ているようです。
 
SNSアプリ創業者によるセカンダリでの売却で思い出されるのがSnapchatです。SnapchatはシリーズBで$800Mのバリュエーションをつけ、共同創業者の2人は$10Mずつセカンダリで売却しています。
 
Snapchatに関して創業者による売却で心配されていたのは、彼らは20代前半の若者だったため、現金を得るとハングリー精神がなくなるだろうということでした。
 
しかし実際はそうはならず、当面の現金を得たことで売り焦る必要がなくなり、IPOに向けて長期の経営をできるようになったようです。
 
 
正式ローンチ前にセカンダリで売却するのは異例ではありますが、そもそもClubhouseの創業者は2人ともシリアルなので多額の現金を持つことには慣れているでしょうし、音声チャットという未開拓の市場であることを踏まえれば、当面の懐事情を安定させるという意味でも筆者としては批判することではないと感じています。
 
シリーズAはa16zによる独壇場となっていますが、関係者の証言によると、このラウンドはa16zとBenchmarkの一騎打ちでした。
 
Paul Davisonの昔からの友人であるAndrew Chenが、a16zのパートナーだったこと、a16zの持つハリウッドとのネットワークが他を圧倒していることなどが選ばれた理由だと言われています。
 
ここで面白いのが創業者Paul Davisonの経歴です。彼にはa16zではなくBenchmarkを選ぶ十分な理由もあったのです。
 

創業者の経歴

 
 
Paul Davisonの経歴は以下のようになっています。(Linkedinより)
 
■2002年〜2005年 Bain & Company(シニアアソシエイトコンサルタント) ■2006年 Google(ビジネスオペレーション) ■2007年〜2010年 Metaweb Technologies(Googleが買収。Paul DavisonはVP) ■2010年〜2011年 Benchmark(*Entrepreneur in Residence) Metawebの立ち上げを手伝っていた。 *EIR(Entrepreneur in Residence)とは、「in Residence(居住して、住み込み)」という文字通り、起業家が既存の企業に入り、その中で新規事業(スタートアップ)の立ち上げを行う仕組みのこと ■2011年〜2016年 Highlight(ファウンダー) 近くにいる人を見つけることができる位置情報スタートアップ。Benchmark, DFJ, その他複数から出資を受けており、Pinterestに買収された。Pinterestにはa16zが出資していた。 ■2016年〜2018年 Pinterest ■2018年〜不明 CoinList(CEO) ■2020年2月〜現在 Clubhouse(親会社Alpha Exploration Co.)共同創業者兼CEO Google時代の仲間で、同じようにシリアルのRohan Sethと組んで共同創業
 
これを見る限りはBenchmarkとの繋がりの方が古く濃く思えます。
 
それでもa16zを選んだあたり、相当タームシートの条件が良かったのではないかと邪推してしまいます。
 

今後の展開

 
次回ラウンドにあたるシリーズBでは、この段階でのSNSアプリとしては異例の10億ドルの評価額がつくかもしれません。もし実現すれば、8ヶ月前のシリーズAから評価額が10倍に跳ね上がることになります。
一世を風靡したSnapchatでさえシリーズBでは$800Mの評価だったことを考えると、海の向こう側での熱狂具合もわかるのではないでしょうか。
 
先述したように、招待制かつiOS限定の現在で、登録ユーザー数は200万人以上、DAUは80万人以上と言われています。
 
a16zは引き続きシリーズBをリードすることが期待されていますが、Sequoia Capital、Benchmark、Lightspeed Venture Partnersも次回ラウンドでの投資を検討しています。
 
また、ClubhouseがシリーズAで世間を騒がせた後、同社以外の音声スタートアップでも資金調達が増えています。
 
 
Paul Davisonは自身のルームにて「ルーム参加者にチップを渡す機能など、ユーザー向けの有料機能の導入を計画している」と述べています。
 
また、2020年12月には、Clubhouse上で多くのフォロワーを持つインフルエンサーを育成する「クリエイターパイロットプログラム」を開始する報じられています。
 
まだまだ始まったばかりのClubhouseの物語。今後も注目していきたいと思います。
 
P.S. 本日(1/24)の21時からstand.fm中川綾太郎さん、BASE鶴岡裕太さん、メルカリ山田進太郎さん、CAMPFIRE家入一真さんによる「Internet Dinner Party -音声サービスの第一人者が斬る-」が開催されます。
 
すでにClubhouseに登録している方はぜひチェックしてみてください。
 
 
参考資料