ビットコインのネットワーク効果

 
人々が過小評価しているものの1つに、ネットワーク効果があります。ツイッターはネットワーク効果があったから、サイトが常にダウンしていたフェイルホエール期を乗り切ることができました。
 
Twitterの黎明期にはサーバーが頻繁に落ち、そこで表示されたのがFail Whaleというキャラクターだった
Twitterの黎明期にはサーバーが頻繁に落ち、そこで表示されたのがFail Whaleというキャラクターだった
 
Facebookはグローバルな競争を勝ち抜き、AirbnbやMicrosoftはネットワーク効果によって成功しました。Ethernetのようなオープンソースは、ネットワーク効果によって今日まで生き残っています。
 
クリプト(暗号資産)の世界では、ビットコインは変化が遅く、技術的に不便なもので、ガバナンスが悪いと認識されています。これらは事実かもしれませんが、ビットコインには強力なネットワーク効果があり、短中期的には主要な価値貯蔵手段としての地位を維持するでしょう。5~10年後にEthereumや他の新しいプロトコルが価値貯蔵手段としてのユースケースを引き継ぐ可能性は常にありますが、ネットワーク効果は短期的にはその可能性を低下させます。
 

ビットコインのネットワーク効果

 
  1. ユーザー、ファンド、投資家による導入 ビットコインは、その時価総額に反映されているように、最大のユーザー数を擁しています。何百万人もの人々がビットコインを保有しているため、大規模集団がその導入を広めるインセンティブとなっています。さらに、大規模な機関投資家がビットコインを購入し始めており、GBTCのようなファンドは、ビットコインのみを保有して時価総額が10億ドルに達しています。
 
  1. 取引所に上場していることとネットワークの流動性:「基軸通貨」としてのビットコイン ビットコインはあらゆる主要な取引所に上場しており、その大規模なユーザー基盤と相まって大規模な市場流動性を生み出しています。この流動性により、大規模な機関投資家がクリプトの世界に足を踏み入れ、買い付けを行い、さらに流動性を高めています。 実際、ビットコインは不換紙幣(フィアット、法定通貨)とともにクリプトの世界の基軸通貨となっています。取引所での価格は、多くの場合、ビットコイン建てで表示されます。また、ビットコインの他のコインとの取引量は法定通貨に次いで多くなっています。
 
 
  1. デリバティブやその他の金融インフラ ある資産クラスで流動性が達成され始めると、起業家はそれをサポートするためのインフラを構築し始めます。ビットコインは、デリバティブ、カストディソリューション、機密情報管理を備えた最初の暗号通貨です。デリバティブのような追加のソリューションは、大規模な金融機関による(ビットコインの)採用を促進し、ネットワーク効果を促進します。 もちろん、他の暗号通貨も金融インフラをビットコインから拡張していくでしょう(あるいはすでに拡張しているでしょう)。しかし、ビットコインによるファーストムーバー効果は、ビットコインの市場規模と流動性をさらに高めるでしょう。
 
  1. 主流の報道機関と注目 ビットコインの大規模なユーザー基盤、ファンドによる投資、継続的な時価総額の増加、金融インフラの構築は、すべて継続的な報道につながります。報道されることで、ビットコインのユーザー基盤やファンドの参加者が正のフィードバックループで増加します。大衆的には、ビットコインは今や暗号通貨とほぼ同義語になっています。
 
 

再帰性資産とネットワーク効果

 
基本的に、ビットコインや金のような価値貯蔵手段は再帰性資産であり、他の人が評価することで価値が高まる資産です。価値の貯蔵は究極の調整ゲームであり、再帰性資産にとっては価格そのものがネットワーク効果となります。上記のような好循環が起こると、ビットコインの再帰性はその価値を加速させます。ジョージ・ソロスの再帰性に関する記事はこちらです。(ソロスの言う再帰性の日本語での解説はこちら
 

配当としてのフォーク

 
ビットコインが圧倒的な地位を占めていることから、ビットコインでは来年(2018年)10回以上のフォークが計画されています。ビットコインコミュニティで内戦が起こらない限り、これらは投資家コミュニティでは事実上の配当として認識されています。ビットコインは市場を支配しているため、エアドロップの格好の標的となり、これによって投資家の支配力を再び強めているのです。
 

ビットコインの変化の遅さは特徴なのか、それともバグなのか?

 
ビットコインに対する批判のひとつに、そのコミュニティにおけるイテレーション(反復的な改善)とテクノロジーの進歩のペースが遅いというものがあります。新しい形のイノベーションが起きれば、価値貯蔵というユースケースにおいて、ビットコインから他のブロックチェーンへの移行を引き起こすという議論があります。例えば、zk-SNARKs(STARKs)が提供するプライバシー機能、ネットワークのスケーラビリティの向上、取引手数料の低下などが、ビットコインからイーサリアムへの移行、あるいはまだ定義されていないプロトコルへの移行を促すはずだというものです。
 
基本的な価値貯蔵のケース(Buy & Hold)は単純なものです。プライバシー機能は特定のアプリケーションにとっては価値があり、低い手数料は特定のユースケースにおいて大きな違いをもたらします。例えば、決済ネットワークは大規模かつ低コストである必要があります。しかし、価値貯蔵のユースケースでは、「パフォーマンスで転ばない、内戦を起こさない」ということ以外に、ビットコインに必要な追加のイノベーションはほとんどないと言えるでしょう。多くのお金が何かに紐づいている場合、状態が一定に保たれているのは良いことです。ビットコインはおそらく、JavascriptのソーシャルメディアアプリよりもC++のアビオニクスソフトウェアのようなものであるべきだと思います。「2回計って1回で切る(Measure twice cut once)」 VS 「素早く行動し破壊せよ(Move fast and break things)」です。
 

ビットコインの失敗シナリオ

 
上記のネットワーク効果を考慮すると、ビットコインは以下に挙げる理由のいずれか、または複数で失敗する可能性があります。
 
  1. ソフトウェアの性能悪化や手数料の高騰によるネットワークの劣化 ビットコインにおけるイノベーションのペースが遅いため、規模が大きくなるにつれてパフォーマンスが低下し、最終的には別のコインに取って代わられる可能性があります。同様に、手数料も高くなりすぎる可能性があります。
 
  1. コミュニティ内部の内乱や外部の政府による攻撃 期待されていたSegwit2Xフォークは11月に実現しませんでした。しかし、ビットコインの破滅的なシナリオは、開発者とマイナーの間で争いが起こり、フォークの一方が協調してビットコインのインフラに攻撃することだと考えられます。同様に、政府関係者がビットコインのノードを攻撃して、ネットワークを無力化することも考えられます。 政府による攻撃は、規制措置、サイバー攻撃、プロトコルを乗っ取るのに十分なハッシュパワーの追加などが考えられます(例えば、中国がビットコインの採掘者を国有化した場合など)。
 
  1. 「ビットコイン」の意味の希薄化 フォークを重ねるごとに、ビットコインのブランドは混迷を極めていきます。ビットコインキャッシュ、ビットコインゴールド、ビットコインダイヤモンド、ビットコインゼロの世界では、どれが本当のビットコインなのでしょうか?フォークするたびに、一部の人が新しいコインのマイニングに切り替えることで、ハッシュパワーが希釈化されるとしたらどうなるでしょうか?
 
  1. マイニングパワーの集中化 マイニングパワーは、引き続き少数のネットワーク参加者に集中しています。マイニングブロックがビットコインネットワークの50%を超えると、マイナーはネットワーク内での地位を悪用することができます。極端な例としては、国家機関がビットコインネットワークを支配し、資産を差し押さえたり凍結したりすることが挙げられます。それほど極端ではない例としては、大規模なマイニング企業がその地位を悪用して、自分の利益のためにブロックチェーンを検閲したり変更したりすることが挙げられます。これは実際、中期的にはビットコインにとって最大の脅威となるかもしれません。
 
  1. 未知 このテクノロジーと市場が、まだまだ進化していく初期の段階にあることを考えると、予想していなかった多くの問題が起こる可能性はまだまだあります。
 
上記のようなことが起こらない限り、ビットコインは短期的には、クリプトの世界における主要な価値の貯蔵手段として繁栄し続けるはずです。Twitterは文字通り何年もの間、フェイルホエールを生き延びましたし、ビットコインも多少の荒波を乗り越えられるはずです。長期的には、新しいチェーンによるイノベーションによってビットコインがその地位を追い抜かされる可能性もありますが、ネットワーク効果に打ち克つのは難しいでしょう。
 

ポストビットコインの世界

 
価値貯蔵手段としてのビットコインが短期的に代替されることはないと私は思いますが、ビットコインを代替する候補としては以下のようなものが考えられます。
 
  1. ビットコインの派生物 価値貯蔵手段としてのビットコインに代わる可能性がもっとも高いものは、ビットコインのフォークです。ビットコインのフォークは、新しいチェーンをすべてのビットコイン保有者にエアドロップすることで、ビットコインのネットワーク効果を維持しつつ、ビットコインのパフォーマンスとガバナンスを修正することができます。将来のビットコインのフォークに参加する最善の方法は、現在のビットコインを保有しておくことです。
 
  1. イーサリアム イーサリアムは、開発者の関心が非常に高く、時価総額も2番目に大きいです。また、優れた決済ネットワークとなりうる特徴を持っています。最低でも、イーサリアムはビットコインの「金」の地位に対する「銀」である可能性が高いでしょう。ビットコインが崩壊して、イーサリアムが主要な価値貯蔵手段としての地位を引き継ぐシナリオもありえます。
 
  1. プライバシートークン ZcashとMoneroには、ビットコインにはないプライバシーと匿名性のための追加的な機能があります。いくつかのユースケースにおいては、これは魅力的な機能です。Bulletproofsのようないくつかのアプローチは、税金やその他のビジネス上の目的のために監査可能な匿名の取引を可能にするかもしれません。
 
  1. ステーブルコイン 決済手段として使うなら、通貨の安定性が必要です。価値貯蔵手段として使うなら、資産価値の上昇を求めますが、インフレ調整後で見て安定していたら満足するかもしれません。Basecoinのようなステーブルコインのプロジェクトは、価格の変動が最小限に抑えられたトークンを作るために取り組んでいます。
 
  1. パラチェーン CosmosやPolkadotのようなパラチェーンは、クロスチェーンでのトランザクションを可能にします。ビットコインやイーサリアムなどのブロックチェーン間の移動が容易になれば、個々のブロックチェーンはパラチェーンに価値を譲る可能性があります。
 
  1. まだこの世に存在しないもの 世界の変化は速いです。
 
原子の世界に金、銀、プラチナがあるように、デジタルの世界にも複数の価値貯蔵手段が存在する可能性があります(ただし、1つが独占的になるでしょう)。そのため、ビットコインを筆頭に、今後数年間で複数のトークンが継続的に価値を集約していくことに私は強気です。
 
 
 
原文:Bitcoin Network Effects (2017年12月11日公開)
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
 
Elad Gil(@eladgil
 
Airbnb、Coinbase、Instacart、Pinterest、Square、Stripe、Wishなどシリコンバレーにおける有名企業の投資家・アドバイザーを務めている。2013年から2016年12月までカラージェノミクスの共同創業者兼CEOを務め、現在は会長に就任。カラージェノミクスの創業前はTwitterでコーポレート戦略バイスプレジデントを務め、M&Aや事業開発チームの担当を務めた。過去にはGoogleにも在籍しており、さまざまな買収案件に携わった。
 
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