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Tiger Globalは他のVCとは異なるゲームをプレイしている

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2021/6/8 5:34
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2021/06/08
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Tiger Globalは他のVCとは異なるゲームをプレイしている
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ちょうど今、シリコンバレーのどこかでのこと...
 
「Tigerの連中はどんな感じだ?」
「ハッ!そういえば、彼らはデューデリジェンスのための損益計算書しか手に入れていないのに、24時間で【ディールX】を実行し、創業者の希望価格を25%上回ったそうだよ!」
「彼らは2日ごとに新しいディールを実行していると聞いたよ。完全にクレイジーだな。」
「まったくだ。自分のことに専念していてよかったよ。このヘッジファンドは正気じゃない。」[1]
 
もし、あなたが急成長する未上場テクノロジー企業に積極的に投資しているのであれば、過去1年間で上記のような会話をしたことがあるかもしれません。また、そうでなくても、Twitterで投資家がスタートアップの資金調達環境を嘆いたり、ヘッジファンドのベンチャー業界での活動について冗談を言っているのを見たことがあるでしょう。私はもちろんあります。
 
 
この最も注目されているヘッジファンドとは、Tiger Globalのことです。Tiger Globalはハイテクに特化した「クロスオーバー」ファンドであり、記録的な取引ペースアグレッシブなスタイルにより、この1年間メディアの見出しやVC界の噂話を席巻してきました。外部の視点から見ると、Tigerの投資戦略は大まかに次のようにまとめられます。
 
  • 優れたハイテクビジネスを(きわめて)積極的に先取りする
  • デューデリジェンスとタームシートの発行を(きわめて)迅速に行う
  • 過去の基準や競合他社に比べて(きわめて)高い価格を支払う
  • 投資後の会社への関与は(ほとんど)しない
  • 何よりも、資本を投下し、資本を投下し、資本を投下する
 
このような戦略を採用しているファンドはTigerだけではありません。Addition(元Tiger GlobalのパートナーであるLee Fixelが率いている)、Coatue(Tiger Globalと同じ「Tiger Cub」)など、他のファンドも程度の差はあるもののこうした戦略を採用しており[2]、「伝統的」なVCから同様の不満が寄せられています。
 
10人のベンチャーキャピタリストにTigerらについて意見を求めれば、ほとんどの人が否定と嫌悪の入り混じった反応を示すことでしょう。クロスオーバーはラウンドの価格を大幅に引き上げているとか、投資に対する十分なディリジェンスを行っていないとか、あるいはその他の方法で、ベンチャー企業の自明 / 暗黙の「ルール」を破っていると彼らは言うでしょう。では、何が問題なのでしょうか?Tigerを代表する新しいクロスオーバーファンドは、10年以上にわたるハイテクの強気相場の恩恵を受けた、あるいはその恩恵に酔いしれた馬鹿の集まりなのでしょうか?
 
まったくそんなことはありません。それどころか、私たちは、ベンチャー/グロース[3]アセットクラスにおいて、ベンチャー資本の調達方法を根本的に変えるような、速度にフォーカスした新しい戦略の出現を目の当たりにしているのです。Tigerは、ベンチャー/グロース投資において、長年維持されつつも時代遅れになっている多くのルールや規範を破ることで、投資先の創業者たちが競合他社よりも多く稼ぎながらも、より良い、より速い、より安いプロダクトを提供できる弾み車を開発したのです。TigerはVCを食い尽くしつつあるのです。その理由は、適切な文脈から見れば明らかなことです[4]
 

異なるゲームをプレイしている

ゲーム・オブ・スローンズの1期では、ブロンという傭兵がサー・バーディスという騎士と「決闘裁判」で戦うという素晴らしいシーンがあります。ブロンは、問題を抱えた主人公の1人であるティリオン・ラニスターを死刑判決から救うために、そして何よりも、ティリオンの命を救うことに成功すればティリオンから高額な報酬を受け取れるので戦います。
 
 
見ての通り、2人の戦い方は対照的です[5]。サー・バーディスの戦い方はまさに騎士のようである一方で、ブロンは生き延びるための殴り合いをしています。最終的にブロンはサー・バーディスを串刺しにして、ガラクタ処理場へ放り投げます。
 
ブロンはサー・バーディスをムーンドアから放り出す
ブロンはサー・バーディスをムーンドアから放り出す
 
そのシーンは、リサ・アリン(そもそもティリオンに死刑を宣告した人物)がブロンの戦い方を叱り、シリーズ屈指の一発芸を仕掛けるところで終わっています。
 
リサ・アリン:あなたは名誉を持って戦っていない!
ブロン:ええ、しかし彼はそうしましたね。
 
自分の命がかかっているにもかかわらず、バーディスは騎士道と名誉のルールに則って戦いました。一方でブロンは生き延びて報酬を得るために必要なことは何でもしました。バーディスとブロンは、2つの異なるルールに基づいた2つの全く異なるゲームをプレイしていたのです。バーディスは「騎士であれ」ゲームを、ブロンは「生き残れ」ゲームをしていたのです。その結果は?ブロン:1、サー・バーディス:0、そしてムーンドアから5,000フィートの高さで自由落下。
 
このシーンを見ていると、私たちが今、ベンチャー / グロース市場で目にしていることとほぼ完璧なアナロジーが見てとれます。多くのVCファンドはサー・バーディスに酷似しており、パートナーたちはここ数ヶ月、リサ・アリンのような不気味な声を発しています。[6]
「Tigerは投資先で仕事をしているのか?」
「彼らの動きが速すぎて、私たちはデューデリジェンスプロセスさえ通過することができない。」
「Tigerに負けたのは、彼らが私たちより多く支払ったからに過ぎない!」
一方でTigerは平然と続けており、最近では史上2番目に大きなVCファンドをクローズし、最近の投資家向けレターによると未上場株ファンドのネットIRRは26%だとしています。世界のサー・バーディスファンドにとって不幸なことに、資本市場は残酷なまでに競争が激しく、もし彼らが「生き残れ」ゲームではなく「VCであれ」ゲームをやろうとするものなら、ブロンがムーンドアから放り出すのを止めることはできないでしょう。
 
ここで疑問が浮かんできます。ベンチャー / グロースをゲームとして捉えた場合、参加者は(もしあるのなら)どのようなルールに従わなければならないのでしょうか?
 

ベンチャーのルール

ベンチャー / グロースゲームのステイクホルダー
ベンチャー / グロースゲームのステイクホルダー
 
ベンチャー / グロースファンドは、LP(ファンドに投資資金を提供する)、創業者(ファンドに投資させる)、そしてGP / マネージャー(彼らを金持ちにしたい)という3つのステイクホルダーに対して義務を負っています。
 
  • ファンドのLPに対する義務は、許容できるリターン、すなわちLPの目標ベンチマークや期待値を満たす投資リターンを生み出すことです。その結果としてLPに満足してもらい、次回以降のファンドにも投資してもらいます。
  • ファンドの創業者に対する義務は、創業者が他の競合ファンドの現金ではなく自分のファンドの現金と彼らの会社の株式を交換することを選ぶような、十分魅力的な「商品」を提供することです。
  • ファンドのパートナーやマネージャーに対する義務は、キャリーによって彼らの利益を最大化することです。
 
ベンチャー/グロース投資をゲームと捉えると、上記のLPと創業者に対する義務はゲームの2つの不変のルールであり、ゲームをするためには両方に従わなければならず、さらに成功しなければなりません。失敗すれば負けとなり、資金調達ができなくなったり、すでに調達した資金を効果的に活用できなくなったりして、ゲームに参加できなくなります。
加えて、(合法的な範囲内で)必要な戦略や手段を用いてキャリーを最大化するのは自由です。あなたや他のプレイヤーが従うことを選択したその他のルールは架空のものであり、実際に従う必要はありません。
 
このフレームワークを一旦受け入れると、このゲームには数え切れないほどのやり方があり、ゲームに勝つための最良の戦略や戦術は、時間とともに大きく変化し、進化していくことが明らかになります。この無数のプレイスタイルというパラダイムの中で最大の敗者となるのは、次のように考えている人たちです。
 
  • ゲームには2つの不変のルール以外にもルールが存在すると考えている
  • 自分は「正しいやり方」でゲームをプレイしており、異なるやり方でプレイしている競合は「間違ったやり方」でプレイしていると考えている
  • マクロ環境や他のプレイヤーの行動などが変化したとしても、ゲームは移り変わらないものであり、時間が経過しても同じであると考えている
 
一方で、野心的で適応力のあるネコ科に属するプレイヤーにとっては、このゲームにはチャンスが溢れています。Tigerはマーケットをディスラプトし、陳腐なルール / 規範に固執する競争相手の傾向を利用するために、速度を中心とした新しいプレースタイルを導入しました。
 

Tigerのゲーム

Tigerはこの2年間で、最大の資本投入速度創業者のためのより良い、より早い、より安い資本をベースに、ベンチャー / グロースにおける全く独自の投資プラットフォームを開発しました。この2つの柱は、グロースファンド[7]の登場以来、ベンチャー戦略において最も大きな発展を遂げたものであり、その意義を説明するには、これらの柱がディスラプトしているファンドがとっている「通常」のアプローチと比較するのが一番です。
 

最大の資本投入速度

通常のファンド:「私は、調達したこのファンドを今後3年間で資本投入する予定です。なぜならファンドというのはそういうものですし、LPにもそう伝えたからです。この3年間でできる限り最高のディールを行い、MoM / IRRを最大化したいと考えています。」
(訳注:MoM; Multiple of Money, 投資した資金が何倍になったか)
 
Tiger: IRR18%のハードルレートで、物理的に可能な限りの資本を投入するつもりです[8]
 
ほとんどのファンドは、投資ペースを投入スケジュールで考えます。つまり、「調達したばかりのこのファンドを完全に投資するには、どのくらいの期間が必要か?」ということです。通常、この投入期間は2〜4年であり、ファンドマネージャーはこのスケジュールに沿って投資するように最善を尽くしています[9]。投入スケジュールを決定した後、ファンドはその期間における各投資のリターンを最大化することに注力します。
 
投入ペースとリターンというこの2つのレバーが、任意の1年の資本投入の結果生み出されるファンドの最終的な利益を構成しています。
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つまり、10億ドルのファンドを組成し、そのうちの1/3を毎年投資し(3年間の投入スケジュール)、イグジット時には投資リターンがブレンドで3倍になるように設定した場合、これが1年間の資本投入におけるキャピタルゲインの方程式となります[10]
 
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好調です!1年間の投資で$700M近い合計キャピタルゲインを得られたのは素晴らしいことです!
 
しかし、3年の投入サイクルで投資を行う代わりに、たとえ平均的なリターンが低くなったとしても、もっと早く資本を投下したとしたらどうでしょうか[11]?年間のキャピタルゲインの方程式は次のようになるでしょう。
 
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Wow!ポートフォリオの最終的な利益が3倍から2倍に減少したにもかかわらず、資本投入時の1年あたりのキャピタルゲインが1.5倍になっています!つまり、LPの口座に入る利益が1.5倍になり、パートナーがパームビーチの豪邸に使うために持ち帰るキャリーも1.5倍になるのです。あなたのLPがIRR/MoMベースで現在生み出しているリターンに満足している限り、この高速度戦略によってLPはより多くの資金を得ることができるのえす。なぜなら、LPは年2%の利回りを誇る地方債マネージャーの代わりに、あなたに多くの資金を投資できるからです[12]
 
これが既存のVCをディスラプトするためにTigerが使っている1つ目のレバーです。
ほとんどのファンドがまだ資本投入スケジュールの世界に住んでいるのに対し、Tigerはスケジュールを窓から放り出し、速度ダイヤルを11にしたのです。
 
これは重要なことです。なぜなら、ファンドが最大速度戦略に移行することは非常に困難だからです。そのためには、以下のことが必要になります。
 
  • LPの賛同 - より速く投資するということは、他のすべての条件が同じであれば、より緩く、より低い規律で投資するということであり、IRRとMoMが低くなる可能性が高い戦略にLPが賛同することはほとんどありません。このような方法で資本を投入する許可や裁量を与えてもらうには、LPとの圧倒的な信頼関係が必要です。Tigerには2つのアドバンテージがあります。1つは、15年以上のプライベートファンドの素晴らしい実績があること。もう1つは、Tigerの社員が最大のLPであることです!これは、パートナーやファンドマネージャーの利益とLPの大部分を結びつけるものであり、パートナーやマネージャーの投資資本がファンドの1~2%しか占めていない一般的なベンチャーファンドとは大きく異なるものです[13]。TigerのGPは、設立以来26%のネットIRRを示すだけでなく、外部のLPに対して、彼らの資金の大部分が一緒にリスクを負っていることを身をもって示すことができます。
  • 速度に合わせてスケールできるファンドオペレーション - 通常、投資とは小切手を切るだけではありません。典型的なベンチャー投資では、プレタームシートでのデューデリジェンスプロセス、1人または複数のパートナーによる継続的な取締役会への参加、その他様々な形でのポートフォリオ企業への関与があります。直感的には、パートナーが参加できる取締役会の数は限られていますし、チームが処理できる仕事の量も限られています。「ベンチャーはスケールしない」という言葉があるように、多くの企業は、高速度戦略に対応できるようには作られていません。一見すると、Tigerは人数的に大きなファンドではないため、高速度戦略に対応できるタイプのファームには見えません。Tigerは、未上場株ファンドと上場株ファンドを合わせて約20名の投資プロフェッショナルを抱えており(これはAndreessen Horowitzの投資チームの人数の1/3強に相当)、投資をリードするパートナーは実質的に3名しかいません(Chase ColemanScott ShleiferJohn Curtius)。そのためTigerは、彼らの速度に合わせるために、一般的なVCよりも大胆にスケール可能な投資商品を開発しなければなりません。これが、Tigerのプラットフォームの2つ目の柱です。
 

創業者のためのより良い、より早い、より安い資本

通常のファンド:「ビジネスに投資するときは、取締役会に参加して、創業者を指導したり、我々が発言権を持っていることを確認したいと思っています。また、LinkedInを充実させることも大切ですよね ;-) そして、大規模な投資は年に数回しか行わないので、機会を広く精査する必要があります。とはいえ、これは5年以上続く関係性になるので、創業者は気にしないでしょう。」
 
Tiger:「VCはグロースステージでは(全くではないにせよ)ほとんど役に立ちません。そのため、私が創業者に提供できる最高の商品は、高い価格(つまり、より安く、より希薄化しない資本)、迅速かつ気を散らすのを最小限にする資金調達プロセス、そしてキャップテーブルに乗れば彼らの邪魔をしないことです。このアプローチにより、私は少数のチームにもかかわらず、高速で投資を行うことができます。」
 
スタートアップがプロダクトを作って顧客に販売するのと同じように、ベンチャー / グロースファンドもプロダクトを開発し、資金調達の際にスタートアップの創業者に「販売」します。ファンドがこのようなことをしなければならないのは、基本的には、彼らが提供するものはお金というコモディティだからです。ファンドは、創業者たちが他ではなく自分たちのファンドを選ぶ理由が他にも必要になります。「我々はお金を売るビジネスをしている」と言われたりします。
 
ファンドのプロダクトは、ファンドの投資プロセス前 / 中 / 後に創業者やビジネスに影響を与えるすべてのもので構成されています。今日における、典型的なベンチャー / グロースファンドのプロダクトは次のようなものです。
 
  • 2~4週間のデューデリジェンスプロセス(経営幹部およびファンクションリーダーとの複数回の電話会議、3~5件の顧客紹介、反復的なデータ要求などを含む)
  • ファンドの主要事例となる強力なリターンとホームランの可能性を提供するバリュエーション
  • ファンドの評判がもたらすシグナリング / ブランディング
  • 取締役会メンバーを1人派遣する(または複数人)
  • その他、多方面にわたる投資家の「付加価値」 - ファンドのネットワークへのアクセス、採用の支援、インハウスのオペレーション / コンサルティングチームなど
 
一見すると、これは悪いことではないように思えます!もちろん、問題のファームが強力な市場 / ブランドシグナリングを持たず(ほとんどがそうです)、付加価値が存在せず(たいていはそうです)、取締役は中立的であるか、あるいは取締役会 / 事業にダメージを与える(かなり一般的です)場合は除いて。ここに、2つ目の時代遅れの(そして誤った)規範 / ナラティブがあります。そしてTigerはこれを利用します。ほとんどのベンチャー / グロースプロダクトの中核となる売り込みは、ファンドがスタートアップに提供する様々な分野の付加価値を中心に構築されますが、実際にはファンドはほとんど、あるいは全く実価値を提供しません。実際、多くの創業者にとって、典型的なVCのプロダクトは、以下のように感じられるかもしれません。
 
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このアプローチに対して、Tigerは、これらの特徴の多くにおいて正反対のスタンスをとる新しいプロダクトを創業者に提供しています。私はTigerの創業者に向けたプロダクトを「より良い、より早い、より安い資本:Better/Faster/Cheaper Capital」(またはB.F.C.Capital)と呼んでいますが、その内容は次のようなものです。
 
  • デューデリジェンスのプロセスが非常に軽く、時には1回のミーティングと損益計算書やすぐに入手できる財務データを使って1日で完了する[14]
  • (通常)大規模な機関投資家が提示する最高額のバリュエーション - これは、創業者にとって「資本コストが最も低い」オプションであることを意味する。なぜなら、創業者は、同程度の希薄化でより多くの資金を調達することも、希薄化を減らして同額の資金を調達することもできるため
  • 取締役会の関与がなく、Tigerチームとの接点が非常に少ない
  • Bainのコンサルタントが必要な場合はアクセス可能
 
B.F.C.のより早い(F) / より安い(C)の部分は自明のことですが、多くの創業者にとって、上記の機能セットは、標準[15]に比べて「より良い」資本プロダクトを表していると思います。というのも、非常に関与してくる新規投資家が、助けになるどころか足手まといになってしまったり、さらに悪いことには、取締役会やビジネスに積極的に悪影響を与えてしまったりすることによる潜在的なダウンサイドがないからです。
 
このプロダクトは、あらゆる資金調達ラウンドや創業者にとって最適なものでしょうか?もちろん、そうではありません。しかし、もしあなたが創業者で、すでに資本政策に必要な役員や投資家がいて、「投資家の付加価値」をあまり必要とせず、希薄化に敏感であるなら、B.F.C.は魅力的な資金調達方法ではないでしょうか?私はそう確信します。
 
そして、Tigerにとってもこの方法は同様に有益です!Tigerは、少数精鋭の投資チームで高速投入戦略をスケールするために、飛躍的にスケーラブルなベンチャープロダクトを作る必要があったことはすでに述べました。B.F.C. Capitalというプロダクトはまさにそれを実現しています。時間のかかるデューデリジェンスプロセス、膨れ上がる取締役会の責任、インハウスの付加価値を高める努力はもう必要ありません。最大速度がB.F.C. Capitalを実現するのと同様に、B.F.C. Capitalは最大速度を実現するものであり、そしてこれにより、Tigerの戦略の秘伝のタレである、新興の弾み車に行き着きます。
 

総括 - Tigerの弾み車

最大投入速度とB.F.C. Capitalが強力なのは、一緒に使うことで、これまで使われたことがなく、規模的にも見られなかったベンチャー戦略を可能にする弾み車を生み出すからです[16]
 
Tigerの主な弾み車
Tigerの主な弾み車
 
速度とB.F.C. Capitalは、直接的な弾み車に加えて、Tigerの戦略が生み出すリターンに関連した独自の弾み車をそれぞれ持っています。それがどのようなものなのか、私なりに表現してみました。
 
VCが書いてる記事なのに弾み車が含まれてないとでも思ったの??
VCが書いてる記事なのに弾み車が含まれてないとでも思ったの??
 
Amazonの弾み車ではありませんが、ここで重要なのは、ブランドドリブンの場合(滅多にない)を除いて、ベンチャー / グロースステージには一般的に弾み車や持続可能な競争力、モートがないということです。
 
 
Tigerは、速度<>B.F.C.の弾み車を維持したまま、競合他社よりも高いバリュエーションを創業者に提示し、競合他社よりも大幅に多くの投資を行うことで、優れた投資利益を得ることができます。Tigerは、ベンチャー企業で初めて、構造的でブランドドリブンでない競争優位性と弾み車を開発し、スケールさせました。それは、ベンチャー / グロースのあり方についての古臭い規範やでっち上げのルールを放り捨て、自分たちの縄張りでVCたちを凌駕できるシステムに置き換えることで実現したのです。TigerがVCを食い尽くそうとしているというのはこれが理由です。
 

市場への影響

ここではTigerの戦略の魅力的な側面を強調して私が言いたいことを説明しましたが、ベンチャー / グロースのアセットクラス全体をTigerがすぐに引き継ぐわけではありません。ビジネスの初期段階では、強力な取締役と中核的な投資会社が非常に役に立ち、スタートアップが大成功を収める確率を大幅に高めることができます。また、シグナリングやブランドの価値は、投資家がスタートアップに提供できる唯一最大の付加価値であり、Founders Fund / Sequoia / a16zなどから資金調達することは、ほぼすべてのラウンドにおいて、価格条件の良さや迅速なプロセスよりも有益であると言えるでしょう。
 
しかし最終的には、過去10年超にわたって小売業で起こったことと同様に、時間の経過とともに、ベンチャー / グロースの中間搾取が見られるようになるでしょう。この絞り込みの影響を最も受けないファンドは、以下のようなものになるでしょう。
 
  • 高級小売企業(Apple、Sephora、Tiffany & Co.) - 長年のブランド力(Founders Fund / Sequoia / a16zなど)またはバーティカルのフォーカス / マインドシェア(FintechにおけるRibbit)を通じたもの、または
  • 低コストベンダー(Walmart、Dollar General) - TigerのようなアグレッシブなGPによるハイレベルなスケールと速度を通じたもの(Addition、Coatueなど)
 
最も危険で脆弱なのは、「中間」に位置するファンドです。資金提供者を選択する際、創業者は$12のAmazonプライム即日配送のCarharttのTシャツを欲しがることもあれば、$1,500のGUCCIのカーディガンを欲しがることもありますが、$22のJ.C.ペニーのフードを欲しがることはめったにありません。VC版J.C.ペニーには本当に、本当になりたくないものです。
 
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そして、J.C.ペニーのようなファンドは、認めたくないほど多いのです。「ベンチャーのルール」の章で少し触れたことを発展させると、世界のJ.C.ペニーファンドとは、以下のようなファンドです。
 
  • 創業者にとって一流のブランドやシグナリングの価値がなく、Tigerと同じ土俵で戦わざるを得ない
  • 競争環境やマクロ環境の現実に合わせて、戦略を継続的に進化させない
  • カテゴリーへの投資には伝統的なベンチャープロセスが必要であり、それ以外のアプローチは失敗すると主張する
 
このようなファンドは、時間の経過とともに競争するのがますます難しくなり、リターンが低下して、多くのファンドが閉鎖を余儀なくされるでしょう。
 

おわりに

ベンチャー / グロース業界の人々は、Tigerを揶揄したいと考えていますが、揶揄される多くのものがそうであるように、この態度は何よりも誤解から生じていると思います[17]。投資家がすべきことは、Tigerの行動・動機と、それが市場に与える下流への影響をよりよく理解することです。ここで、Tigerの戦略を具体的に振り返ってみましょう。
 
1. Tigerは異なるゲームをプレイしている
- Tigerは、ベンチャー / グロース業界のルール / 規範 / 通説のうち、古くなったものをいくつか特定し、それらを取り巻く現代の現実をスケールアップして利用する戦略を構築しました。
  • 規範:ファンドは、あらかじめ決められたスケジュールに沿って資本を投入し、MoMの最大化に努めるべきである。 現実:最大のMoMリターンを犠牲にしたとしても、上手く実行することができれば、GPとLPは、伝統的な資本投入スケジュールを無視した高速度戦略からより多くの利益を得ることができる。
  • 規範:VCは一般的に投資後、企業に付加価値を与え、VCの付加価値はファンドが創業者に提案する際の中核的な部分である。 現実:VCは助けになることもあれば、害になることもあり、アーリーステージ以降のビジネスに影響を与えることはほとんどない。したがって、ハンズオフのアプローチは、特に高バリュエーション / 低資本コストと組み合わされた場合、創業者にとっては典型的なVCのオファーよりも魅力的であることが多い。
  • 規範:徹底したデューデリジェンスがなければ、グロースステージのスタートアップ企業への投資でさえリスクが高すぎて、うまくいかないだろう。 現実:SaaSのようなカテゴリーのデューデリジェンスは、かつてないほどコモディティ化しており、適切な投資速度があれば、個々の詐欺や爆発によるポートフォリオへの悪影響を分散化することでリスクを軽減することができる。
 
2. Tigerはスケールし続ける。なぜならこれは素晴らしい戦略だから
- Tigerが生み出した速度<>より良い/より速い/より安い資本の弾み車は本物であり、Tigerが魅力的で低コストの資本プロダクトを創業者に提供し続けることを可能にします。ドットコムバブルのようなクラッシュがない限り、Tigerはこの弾み車によって、強力なキャッシュリターンを生み出し続け、未上場ベンチャー / グロースのアセットクラス全体のシェアを獲得していくでしょう。
 
3. Tigerの継続的な上昇の犠牲になるのは、J.C.ペニーのように、差し迫ったベンチャー / グロースの中間搾取の中で「中間」に位置するファンドである
- 多くのファンドは、世界最高のベンチャーファンドのようなシグナリングやブランドも、Tigerのようなスピードと低コストの資本も提供していません。これらのファンドの多くは、過去10年間、比較的競争の少ないベンチャー / グロース市場に依存して魅力的なリターンを生み出してきたため、新たな競争のダイナミクスに適応できるような構造にはなっていません。このような企業は、戦略、内部プロセス、組織構造を抜本的に変えない限り、時間とともに衰退し、最終的には完全に破綻する運命にあります。
 
とはいえ、J.C.ペニーファンドのパートナーの方々の心配をしすぎることはありません。この変化は徐々に起こるもので、Tigerたちが彼らのランチを食べ尽くしてしまう前に、彼らはまだたくさん稼げる投資をするでしょう。彼らは、ミルバレーの家と一緒にタホ湖に素敵な小屋を買う余裕があるかもしれません。それは湖畔の小屋ではなく、「クソみたいな」トラッキー川沿いの小屋になるかもしれませんが。しかし、もしあなたが「中間に位置するファンド」に所属するアソシエイトであれば?できる限り早くその場から逃げることです。なぜなら、すでに戦いは始まっていて、最終的に戦利品を手にするのはブラックウォーターのブロンだからです。
 
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Appendix I - その他のTigerの実現手段

資本市場における戦略と戦術の表面積は膨大であり、ここでは、Tigerのプラットフォームと競争上のポジションを可能にする、最も破壊的で戦略的な側面と思われるものにできるだけ焦点を絞るようにしました。しかし、注目すべき内部および外部の実現要因は他にも多数あり、以下の点が挙げられます。
 
  • ベンチャー / グロースカテゴリーにおけるビジネス / リターンの予測可能性の向上 - SaaSのようなテック系のビジネスモデルは、過去5年間で投資家の間で理解が深まっており、これらのビジネスの成長要因や評価方法も同様に理解されています。予測可能性が高まったことで、LPから大幅な「安全域」を求められることも少なくなりました。ベンチャー / グロースのリターンには固有のボラティリティや予測不可能な性質があるため、GPからの5倍のMoMにこだわるのではなく、LPはより低い範囲の結果に対する信頼感を高めており、場合によってはファンドを評価する際により低いリターンや、IRRベースのハードルレートに移行しています。
  • Tigerの絶対的な規模 - Tiger GlobalのAUMは推定で$65B、直近の13号ファンドではJD.comの株式をおよそ$5B保有しており、これだけでもほとんどのベンチャーファームの合計AUMを上回る規模です。これだけの規模になると、自然な優位性と競争上の歪みが生じます。例えば、$500M規模のファンドにとっては、$15M〜$30MのシリーズBは大規模なものかもしれませんが、Tigerにとっては四捨五入する程度の誤差です。Tigerは、$500Mのファンドと比較して、より少ない労力、より高い価格で投資することができますが、それは彼らにとってお金がそれほど重要なものではないからです。しかし、Tigerにとっては、次のラウンドでより大きな金額を投資することのオプション価値が大きいので、このようなことをする価値があります。
  • 類稀なる努力 - ヘッジファンドの投資家の多くは、西海岸の多くのVCと比べると特に、社会病的なペースで働いています。1日16時間、週に6~7日働くチームと常に競争するのは非常に難しいことです。

Appendix II - 市場のリターンについて

この記事では、ベンチャー / グロース投資のリターン全体の状況とその方向性についてはコメントを控えてきました。私がこれまで述べてきたことに対する簡単な反論は、「バリュエーションは非常に過熱しており、Tigerは最も高い価格を支払っているので、クラッシュが起きたときに最も打撃を受けるだろう、だからこれはすべて関係ない」というものです。確かに!Tigerが大きな影響を受けるほどの大暴落が未上場 / 上場ハイテク株に起こる可能性は確かにあります。しかし、NASDAQが1年で2倍になる直前だった2020年3月20日に、その日が来ると思った人はどれほどいるでしょう?私は、市場の将来リターンを大まかに予測することは愚の骨頂であり、バリュエーション環境に関わらず市場に存在する競争力に焦点を当てる方が面白いと考えています。
 
私の主張は、どのような市場環境であっても、相対的に見てTigerは大多数のファンドに対して優位に立っているということです。もし大暴落が起きれば、すべての市場参加者が影響を受け、Tigerであろうとなかろうと、LPはヴィンテージの出来上がりを好まないでしょう。
 
本稿の作成にあたり、フィードバックやアイデアを提供してくださったJohn Luttig、Rick Brubaker、Josh Coyne、Delian Asparouhovの各氏に深く感謝いたします。
 

 
[1] 過去3回のファンドでBessemer Cloud Indexをアンダーパフォームした2人のVCの会話を耳にしました。
 
[2] 私は意図的にSoftbankを除外しています。これは非常に異なる戦略であることが明らかになると思います。
 
[3] この記事で言う「ベンチャー / グロース」とは、大体シリーズB以降のことを指しており、この記事ではその部分を指しています。ヘッジファンドの中にはもっと早い時期から参入しているところもありますが、この記事のポイントは主にシリーズBからプレIPOに関係していると考えています。
 
[4] この記事では、わかりやすくするためにTigerに焦点を当てますが、一般的なポイントは、程度の差こそあれ、これら他の会社にも当てはまります。
 
[5] ダジャレです。我慢できませんでした。
 
[6] ダジャレのようなものです。
 
[7] メアリー・ミーカーが2011年に立ち上げたKleiner PerkinsのDigital Growth Fundのような「ベンチャー・グロース」ファンドを意味します。
 
[8] このIRR18%という数字は全くの作り話で恣意的なものです。Tigerが使っているハードルレートかどうかはわかりませんが、多くのLPが満足するには十分なレートであることは間違いありません。
 
[9] ある投資機会を気に入ったものの、「投入スケジュールを大幅に超過している」という理由で結局ディールをしなかった投資家の話を私は個人的に目撃したことも、聞いたこともあります。
 
[10] 数学 / 計算をわかりやすくするために、IRRの代わりにMoMを使っています。また、ターミナルMoMが3倍になるまでの時間は指定していません。タイミングとその後のIRRはもちろん重要ですが、それを含めると、私が言いたいことの役に立つどころか、かえって混乱してしまうかもしれません。
 
[11] これを達成するための別の方法は、より多額の資金を調達し、その多額な資金を従来と同じ時間枠で投入することです。ベンチャーではずっとこのようなことが行われてきましたが、Tigerのように行っているところはまったく見当たりません。
 
[12] 多くの機関投資家のLPは、異なるアセットクラスへの配分目標を設定しているので(例:ファンドの15%をVCに、20%を不動産に、など)、実際には他のベンチャー / グロースファンドへの配分と競合することになりますが、質の高いベンチャー / グロースに対するLPの需要は供給よりもはるかに多いので、ほとんどのLPはこのアセットクラスへのエクスポージャーを増やせることに満足していると言ってもいいと思います。これは、Tigerの社員が自身の最大LPであることが大きな優位性になっている理由でもあります。
 
[13] 特筆すべき例外として、Founders Fund、Social Capital、Khosla Venturesが挙げられます。
 
[14] ファーストコールで、その場でタームシートを提示した例も聞いたことがあります。
 
[15] Altos Venturesの共同創業者であるHo Namは、創業者向けのこの種のプロダクトに対する優れた反論をしていますので、こちらをご覧ください。私は彼の意見には基本的に同意しませんが、個々の状況でこのようなことが起こりうるという点では、彼の意見は正しいと思います。
 
[16] 「Softbankはどうなんだ!」と言っている人は、気にしていないでしょう。
 
[17] ユダ1:10
 
※この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。