30年間Day 1であり続ける会社Amazon。創業者ジェフ・ベゾスが上場に際して株主に語ったこと

株主の皆様へ

 
1997年、Amazon.comは多くの節目を迎えました。年末までに150万人以上のお客様にサービスを提供し、売上高は838%増の1億4,780万ドルに達し、積極的な競合他社の参入にもかかわらず、市場での主導権を拡大しました。
 
しかし、今はインターネットにおけるDay 1であり、事業計画が順調に進めば、Amazon.comにとってもDay 1となります。今日、オンラインコマースはお客様のお金と貴重な時間を節約しています。明日には、パーソナライゼーションによって、オンラインコマースは、発見までの時間をまさに加速させるでしょう。
 
Amazon.comがインターネットで生み出しているのは、顧客にとって本当に価値のあるものです。価値を生み出すことで、大規模な既存市場でも永続するフランチャイズを生み出したいと思っています。
 
今は絶好の機会です。大企業はオンライン事業に向けてリソースを整理しているところですし、お客様はオンラインでの買い物をあまりよく知らないので、これまでにない関係の構築も受け入れやすいからです。この業界では、勢力図が目まぐるしく入れ替わってきました。多くの大企業が信頼性の高い商品やサービスを掲げてオンラインに乗り出すとともに、消費者に気づいてもらうためにかなりのエネルギーやリソースを投じていて、アクセス数や売上の増加に繋げています。
 
当社の目標は、迅速に行動して足場を固めつつ、現在の地位を上げることです。一方で、他の分野でもオンライン取引の可能性を模索し始めています。当社が目指している大きな市場には、かなりのチャンスが潜んでいます。この戦略には必ずリスクが伴います。既存のフランチャイズに負けないよう、本格的な投資や果敢な行動が求められているのです。
 

すべては長期的な視点で

 
長期的に生み出される株主価値こそが最も重要な成功指標である、と当社は考えています。これを高めていくためには、会社を拡大し、市場リーダーとしての立場を強化することが必要です。市場リーダーとしての立場が強ければ強いほど当社の経済モデルにとって有利だからです。市場をリードすれば、売上も増えるし利益率も高くなります。資本の循環速度も上がります。それに伴い、投資に対するリターンも大きくなるのです。
 
当社は、このような考え方で意思決定をしています。まず、自己評価は、市場リーダーシップがはっきりと測定できる項目を使って行います。すなわち、顧客と売上の増加、顧客のリピート購入率、ブランド力です。当社は、顧客ベースとブランド、インフラストラクチャーの拡充・活用に向け、今後も積極的に投資を続け、永続するフランチャイズを構築したいと考えています。
 
当社では長期的な視点を重視しているため、他社とは意思決定の方法や重視する点が異なる場合もあります。そのため、当社の基本的なマネジメント手法と意思決定の進め方を株主の皆様にお伝えしたいと思います。皆様の投資への考え方と一致していることをご確認いただければ幸いです。
 
  • 当社は常に徹底してお客様のことを考えています。
  • 当社が投資に関する決定をするときは、直近の利益率やウォールストリートの目先の反応にとらわれることなく、必ず長期的な市場リーダーシップという視点から判断します。
  • 当社は、今後も自社プログラムや投資の効果を分析的視点で評価していきます。満足できるリターンのない項目は捨てて、最高の結果を出して項目への投資を増額します。これからも、成功と失敗の両方から学んでいきます。
  • 市場のリーダーになれる可能性が高いと感じたときは、小さく賭けるのでははく、果敢な投資を行います。投資というのは成功したり失敗したりするわけですが、いずれの場合も、貴重な学びを得ることができます。
  • 米国会計基準の体裁を整えるか、現時点での将来キャッシュフローを増やすか、どちらかを選ばなければならないなら、当社はキャッシュフローを選びます。
  • 当社が果敢な選択をする場合は、(あくまでも競争力を失わない範囲でですが)その戦略上の思考プロセスをお伝えするように致します。そこから、当社が理にかなった長期的リーダーシップ投資を行っているかどうか、各自でご判断いただければと思います。
  • 当社は無駄遣いせず、社内のリーンカルチャーを守れるよう全社を上げて取り組んでいます。事業の順損失が続いているからこそ、コスト意識のある企業文化を強化し続けることが重要だとわかっているからです。
  • 長期的な利益率を重視した成長と資本管理のどちらに力を入れるかについて、時期に応じてバランスを取ります。現段階で重視しているのは成長です。当社のビジネスモデルが持つ可能性を発揮するには、規模を大きくすることが欠かせないからです。
  • 多才で能力のある社員を雇用することと、そのような社員を手放さないことに今後も力を入れていきます。また、社員への報酬は現金よりもストックオプションに重きを置きます。当社がこれから成功するか否かは、やる気にあふれた社員をどれだけ集めて手元に留めておけるかに大きくかかってきます。そのような社員であれば必ず、Amazonを自分のこととして考えられるようになります。そうすれば実際に、Amazonは社員一人ひとりのものになるのです。
 
以上が「正しい」投資理念だと主張するほど厚かましくはありませんが、これが当社の考えです。これまでの手法と今後の進め方をはっきりさせなければ、それは無責任と言わざるを得ません。
 
こうした方針に基づいて、ここからは1997年の重点項目と進展を振り返るとともに、今後の展望をまとめたいと思います。
 

顧客へのこだわり

 
創業当初から、当社は常にお客様を惹きつけるような価値について考えてきました。ウェブというのは以前も今もワールドワイドウェイト(World Wide Wait)です。そこで、当社は他の方法では絶対に手に入らないものを扱う事業を始めようと決めて、本のサービスを始めました。現実の書店に置くのは不可能な冊数を用意した上で、その本を探しやすく見やすい実用的な形でオンライン上に表示したのです。さらに、店舗は年中無休で24時間営業です。
 
当社は、お客様の買い物をより充実したものにできるよう徹底して取りくんでおり、1997年は店舗の機能を大幅に拡張しました。ギフト券や1クリック注文の機能を新設したほか、レビュー機能やコンテンツ、閲覧オプション、おすすめ機能も拡大しました。価格を大幅に引き下げたことで、お客様にとっての価値はますます高まりました。当社のお客様獲得ツールとして最も強力なのは、常に口コミです。お客様が当社に信頼を置いてくださっていることに心から感謝しています。Amazon.comがオンライン書店業界で市場リーダーになれたのは、ひとえにリピート購入や口コミの力です。
 
ここでさまざまな指標から、1997年のAmazon.comが成し遂げたことを見ていきたいと思います。
 
  • 売上高は、1996年の1,570万ドルから1億4,780万ドルへと838%増加。
  • 累計顧客数は、18万人から151万人へと738%増加。
  • リピーターの注文率は、1996年第4四半期の46%超から1997年第4四半期の58%超へと増加。
  • メディアメトリックス社の調査によると、当社Webサイトのオーディエンスリーチに関する指標は90位から20位以内に上昇。
  • AOL、Yahoo!、エキサイト、ネットスケープ、ジオシティーズ、アルタビスタ、アットホーム、プロディジーなど多くの戦略上のパートナーと長期にわたる関係を締結。
 

インフラストラクチャー

 
1997年はアクセス数、売上、サービスレベルが大幅に向上したため、サービスを支えるインフラストラクチャーの拡大に重点的に取り組みました。
 
  • Amazon.comの従業員数は158人から614人へと増加。また、経営陣の強化も進めました。
  • 物流センターの面積は、約4,600㎡から26,000㎡以上へと増加。シアトルの物流センターは70増加、さらに11月にはデラウエア州に物流センターの2号館がオープンしました。
  • 1997年末時点で在庫数は20万冊以上になり、これまで以上に本を入手しやすくなりました。
  • 1997年末時点で現金・投資残高は1億2,500万ドルです。これは、当社が1997年5月にIPOしたことによるものです。また、借入金が7,500万ドル得られたため、幅広い戦略に取り組めるようになりました。
 

社員について

 
この1年間の成功は、能力と才気に溢れた社員が一心不乱に働いた結果であり、私はこのような集団の一員であることを誇りに思っています。当社の採用基準が高いことは、これまでも今後も、Amazon.comが成功する唯一無二の要素だと考えています。
 
当社で働くのは簡単ではありません。(面接の時にも言っているのですが、「長い時間働くこともできるし、猛烈に働くこともできる。懸命に働くこともできる。ただし、Amazon.comでは、この3つから2つを選ぶことはできない」ということです)
 
しかし、私たちは全員で重要なものを作り上げています。お客様にとって重要なものや、孫とでも話題にできるようなものを生み出しているのです。それが容易であるはずがありません。当社には、Amazon.comを作り上げるために自己犠牲を払って情熱を傾けてくれる、ひたむきな社員が大勢います。本当にありがたいことです。
 

1998年の目標

 
当社はまだ創業したばかりで、インターネットでの取引や販売促進を通してお客様に新たな価値をもたらす方法について今も勉強しています。1998年の目標は昨年と同じく、足場固めをしながら当社のブランドと顧客ベースを拡大することとします。
 
そのため、会社として成長しつつ、システムやインフラストラクチャーへの投資を持続して、お客様の利便性や品揃えやサービスという面で抜きんでた存在を目指します。さらに製品ラインナップに音楽を加える予定です。他の製品も将来的には賢明な投資先になるでしょう。海外向けサービスについては、配送日数の短縮やお客様に合わせたカスタマーエクスペリエンスといった部分を改善する余地があります。はっきりしていることがあります。ほとんどの場合、事業を拡大する方法を新たに見つけるのが大変というわけではありません。難しいのは、どの部分を重視して投資すべきかという点です。
 
創業時に比べれば、オンラインコマースについてずいぶんわかってきましたが、まだまだ学ぶことは多いです。悲観的になる必要はありませんが、それでも気を緩めず、危機感を持ち続けなければいけないと思っています。Amazon.comの長期的なビジョンを現実にするまで、これからも困難や課題に直面することになるでしょう。意欲も能力も資金もある競合、成長に伴う少なからずの困難や行動に移すことのリスク、製品の拡大や地理上の拡大に対するリスク。さらに、拡大する市場機会に合わせて多額の投資を続ける必要があることも課題の1つです。ですが常々申し上げているとおり、オンライン書店(オンラインコマース自体も)は、確実に巨大な市場になりますし、かなりの収益を得られる企業があるはずです。
 
当社がここまで成し遂げてきた成果には満足していますし、今後成し遂げたいことを考えると心が躍ります。
 
1997年は間違いなく素晴らしい年でした。Amazon.comは、お客様に対しては取引を続けていただいたことと信頼を委ねてくださったことを、社員に対してはその懸命な仕事ぶりを、そして、株主の皆様に対しては日頃のご支援と励ましに深く感謝致します。
 
 
Jeffrey P. Bezos Founder and Chief Executive Officer Amazon.com, Inc.