【連載】IPOの解体新書(第一夜) - 人生初めてのIPOにどう取り組むべきか
公開日
2021/10/29
スタートアップの登竜門たるIPO。しかしIPOって人生初めてなのに、周りに誰も教えてくれる人がいなくて「どうしたら良いの?」というご相談をよく受けます。「エクイティストーリーってどう作るの?」「公募価格って証券会社に任せてちゃダメなの?」「上場後にみんながハマる罠?なにそれ」。
そうした、これまであまりスポットライトが当たってこなかったIPOとその後のIRについて知見をシェアできればと思い、東証マザーズ上場のKaizen Platform代表の須藤 憲司氏、メルカリを始め多くのスタートアップの上場を見届けてきたグロービス・キャピタル代表パートナーの高宮 慎一氏、バフェット・コード氏の鼎談が開かれました。IPOまでにすべきことは何なのか、IRにおける本当の課題は何なのか、3名が語り合いました。全3回。
スピーカー
人生初めてのIPOにどう取り組むか
バフェコ:今日はお忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。
最近上場・未上場問わずバリュエーションやIRの文脈でお話をさせていただく機会が増えたのですが、みなさんやはり課題を感じていらっしゃる方が多いようです。
とりわけスタートアップだったら「上場する時の公募価格ってどうやって決めるんだろう?」とか「エクイティストーリーってどう作れば良いんだろう?」という疑問をお持ちの方が多いです。
もちろん事業の将来像から逆算して、上場時点でどれだけ資金調達をしないといけないかを考えて、それをわかりやすくエクイティストーリーという形に落とし込んで、それに基づいて適正なバリュエーションで公募価格を決めて、という風にしてIPOを迎えるわけですが、その具体的な作法がわからない。
上場したら終わりかというとそんなことはなく、むしろ投資家との関係はスタートラインに立ったばかり。上場後の方が複雑性を増します。株価は市場で付くものの、もっと投資家に知ってもらいたい、もっと事業が評価されても良いはず、と絶えずIRしていく必要があります。そこで思ったほど上手くは出来なくて課題を感じている方が多いという印象があります。
そこで今日の趣旨ですが、上場直前と直後のフェーズに絞って「エクイティストーリーの作り方」だったり「バリュエーションをどうやって決めていくのか」、「上場前後でIRに対する考え方が変わった部分・変わらなかった部分」などを上場創業者とVCそれぞれの立場で伺わせていただきたいと思っています。
高宮:僕らはハンズオンで投資先を支援しているので、IPOの支援もその一環でやっています。このあたりは情報があまり流通していないので、発行体と証券会社、上場株の投資家の間で情報格差があるという問題意識をもっています。
公募価格と初値って簡単に2倍くらい差が出ちゃったりするのですごく大事なんですが、その割には業界に情報があまり出てきておらず、この辺りの知見を広く業界で共有したいなと思っていました。
編集注
「IPOの経済分析 - 過少値付けの謎を解く」(金子 隆著)によると、日本の初値高騰率は平均44.7%で、先進7か国でもっとも高い。また、これは2位のドイツ23.0%に比べて2倍近く、突出した高騰率であることを表す。投資家にとってはキャピタルゲインが高まるが、発行体にとっては本来もっと有利な条件で調達できていたと言えるため、近年問題視されている。

須藤:プライベートラウンドとIPOラウンドの違いって結構大きいなと思っています。昔はプライベートラウンドの情報なんてほとんどなかったんですけど、今はある程度フォーマットみたいなものがでてきました。
IPOってどの会社でも基本的には1回しかないイベントなので、それぞれの考え方とかやり方を再現するのはなかなか難しい。マーケットのコンディションにもよりますし、主幹事証券との関係性も大きかったりするので、発行体側としても悩ましいと思っているところですね。
IPOに向けてVCが資金以外に提供する価値
バフェコ:そうですね、IPOに関する課題感は大きいという認識が一致したところで、さっそく本題に入って行こうかなと思います。まずは高宮さんに質問です。スタートアップの上場に向けて、お金以外にも価値を提供されていると思いますが、具体的にどんな価値を提供しているのか教えていただけますか?
高宮:まず前提として企業価値、特にIPOにおいては、3つの要素があると思っています。その会社の本質的な価値と、短期的な需給、そして特に公募価格においては主幹事証券との関係性。
1つ目の本質的な価値については、まずエクイティストーリーをしっかり作る。ただしそれまで未上場投資家にピッチしていたような、プロダクトの細かいところまで踏み込んだ形でなく、「マーケットの大きさや成長性」、「事業構造」という大きな絵から、事業の『成長性』と『収益性』を伝えることが大事だと思います。そして、その中で伸びている理由、そしてこれからも伸びる理由として「ドライバーはこれです」と明確にして、加えてそのドライバーが伸びることを示唆するのが大切だと思います。
2つ目の需給は、その会社の株を買いたいという需要と売りたいという供給が、どのようなバランスになっているかということです。需要は、その会社の本質的な価値に対する実際の価格の割高/割安感で決まってきます。供給は、IPO時にどれくらい市場に株式を放出するのかというオファリングレシオで、発行体側で一定コントロールできます。ひと昔前のマザーズみたいに供給を絞って株価を吹かせにいくのか、それとも最初から安定株主としての機関投資家を呼び込むために、流動性を作りにいくのか、流動性を作る上でその内訳として売り出しと新規発行はどれくらいでいくのかなどの話ですね。
3つ目ですが、IPO時の関わるプレーヤーは、良い悪いではなく、それぞれのプロフェッショナルとしての立ち位置があるという話です。どうしても、既存株主は高く売り出したいという構造的なインセンティブがあるのと同じで、証券会社にも売上に対するインパクトが大きいリテール営業の声が価格決定に影響してくるみたいな話もあります。大切なのは、それぞれのプレーヤーのお互いの立ち位置を理解して、Win-Win-Win、三方良しとなるストラクチャーにまとめることだと思います。
そういう構造的な理解をした上で全体最適を図る壁打ち相手になる、というのが支援の形ですね。もちろん発行体は、それぞれのプレーヤーと個別に議論はするんですけど、僕らとしてはなるべく既存株主としてのポジショントークではなく、未上場の間に「最初に相談する外部のメンター」という役割を担ってきたリード投資家、社外取締役の最後のご奉公として、会社の全体最適のために大きな枠組みで全体感から壁打ち相手になるよう心掛けています。ともすると構造的なインセンティブの違いが浮き彫りになりがちな局面なので、既存株主としての発言なのか、会社側の人間としての社外取締役、アドバイザーとしての発言なのか、明確に切り分けて壁打ちするようにしています。
バフェコ:参加者それぞれの利害関係があるなかで、証券会社の言うことをすべて真に受ける必要はないし、彼らを敵だと思う必要もないし、という構造的なところを経営者にインプットしながら上手な議論をしていくということですね。他には具体的にどんなことをしているのですか?
高宮:そうですね。例えば実務レベルで言うと、エクイティストーリーを作るためにピッチ作りを支援します。「プロダクトの機能を細かく説明しすぎても投資家の琴線はそこにはないよ」とアドバイスしたり、海外を含めた機関投資家やセルサイドのアナリストを事前に紹介して、ドラフトの段階で叩いてもらうとか数多くやってますね。
昔はVCと発行体の間に情報格差があるとよく言われていましたが、最近はそこが埋まってきました。今は一番情報格差があるのが、IPOのタイミングでの発行体と、証券会社と上場株の投資家の間だと思っています。
主幹事証券の立場だと「東証が〜」とか「それはできないんです」とか言わざるを得ないシチュエーションってあるのですが、それを鵜呑みにしているとどんどんできないことばかりになって、発行体にとってベストな形での上場とならないこともあります。そんなときに、できない背景、理由から紐解いて、「だったらこういう形だったらできませんかね?」と、提案したりもします。僕らVCは多くのIPOをハンズオンで支援しているので、他のIPOの事例を知っていたり、場合によっては東証に直接相談したりしながら、解決策を発行体と一緒に考えます。
証券会社とも多くのIPOで一緒にやって同じ釜の飯を食った仲になっているので、お互いの立場の違いはあれど、プロ同士、できること、できないこと、ではどういう代替案があるのかフラットに建設的な議論できる関係性を築いています。また、逆に発行体が過度な期待をしているときなどに「いや、それは無理筋でしょ」ということもあります。個別の立場を離れて、発行体の全体最適にとって良い方向に向かうように議論をファシリテートするというのは大事なことかなと思っています。
上場時の株価だけではなく、上場後の株価形成まで考えることが重要
バフェコ:ありがとうございます。そのあたりのソフトスキル、知見の深さというのはそれぞれのVCの強みになってくるかと思うのですが、VCといえばKaizen Platformさんにも入ってましたよね。
エクイティストーリーを作る上で、あるいはバリュエーションを決めていく上で、率直にVCの方々をどのように捉えていらっしゃいましたか?
須藤:発行体の立場からすると、上場時の株価もすごく大事なんですが、「上場後の株価形成をどういうふうにしていきたいのか」という視点も重要に思っています。経営者にとっては上場した後もその議論はずっと続きますから。
その後のPOのことや、本当に長期的な事業成長というものを考えた時に、自分たちはどういう株価形成を目指したいのかという論点が1番重要かなと僕は思っています。
今お話しされたエクイティストーリー・需給の話・証券会社との関係性ってその延長にあると思うんですよね。
発行体からすると、VCと証券会社と発行体って利害が一致する部分もあれば、しない部分も常にあります。その前提でいくと、事業成長とその後の株価形成がどうありたいのかというのはすごく重要で、僕らにとってはノーススター(北極星)として、それを決めて、それを実現しようとした時に、「じゃあどういうエクイティストーリーであるべきなんだっけ」となります。
需給の話も、オファリング時の需給というのもあれば、その後株価を安定的に形成していこうとすると取引高が大きくないと厳しくなってくるというのもあれば、その後またPOやろうってなると証券会社との関係性も出てくる話なので、IPOは意外と1回で終わるような短距離走ではないというか、ロングレンジで考えていくというのが発行体の立場として思うことです。
それぞれのポイントはテクニカルな点ではいろいろあるんですけど、発行体としてすごく大事だなと僕が思っていることは、株価をコントロールすることはすごく難しい。すごく難しいけど、考え方は常に一貫して持っていられるものだと思っています。
要は、自分たちはどういう投資家に買ってもらいたいのか、投資家にどういうふうに理解してもらいたいのか。これに関してはコントロールできるものだと僕は思っています。
株価は最終的には需給だったり、マーケットのトレンドだったりもあるんですけど、自分たちの市場をどうやって理解してもらうか、自分たちはその市場の中でどういうポジションとして理解してもらえるといいのか、といったことに関しては会社として戦略を立てられる。だからそこはしっかり考えてコミュニケーションをし続けることがとても大事だと思います。
初値はバブらせない
僕らがそのときに決めたことですごく大事にしていることは、こういう言い方をすると語弊を生みそうなんですけど「あんまりバブらせない」ことですね。かといって評価されないことは避けないといけないので、そこをすごく考えつつIPOに向かっていった感じです。
発行体からするとCompsと、バリュエーションをつけるときのロジック。PSRなのかPERなのか、それがFY2なのかFY3なのか、どういうロジックでそんなバリュエーションになっているのかがとても大事だと思っています。そこに先ほど言ったように「どういう株価形成が良いのか」ということも頭の片隅に置きつつ、現実と未来を行ったり来たりする感じでしたね。
高宮:さすがスドケンさん、本質論の一丁目一番地だと思います。発行体と証券会社とVCには利害が一致しない部分もあると仰ってましたが、短期的な1つのイベントとしてIPOを見るとそうなるんですけど、長期的に発行体の価値が上がっていく、VCもIPOで売り抜けるんじゃなくて株価が上がった後にちょっとずつ売っていくみたいなことが求められる。証券会社も、上場後のPOや東証一部市場替えのときにも長期的な取引があると考えると、みんな「発行体の長期的な利益のために」みたいなところで一致団結していくのがミソだと思います。
イグジット=出るという言葉に象徴されるように、既存投資家にとってIPOはイグジットかもしれないですけど、発行体にとっては継続的な事業成長におけるひとつの資金調達イベントで、その後も事業は続くし、ファイナンスのイベントも続きますから。
既存株主にとっても、1-2年のスパンでは株を持ち続ける可能性もあるということを考えると、利害を一致させることはできるはずなんです。
機関投資家には早めに会う、たくさん会う、いろいろ聞く
バフェコ:私も上場した後のことを見据えて、IPOは通過点だと捉えてエクイティストーリーを作っていくことがすごく大事だと思います。一方で、それを実際に実行できている発行体がどれほどあるかと言うと、年間100社IPOするうち、残念ながらそう多くはないように見えます。
ほとんどの経営者にとってIPOは初めての経験ですし、誰かが懇切丁寧に地雷の場所を教えてくれるわけでもないため、そうとは知らずに地雷原を歩いていた、なんていうことは一定程度仕方のない部分もあると思っています。しかし、そういう方に向けて指針くらいは示せるのではないかとも思っています。
須藤さんは具体的にどれくらい先のことを見て、どういうふうに逆算してIPOのタイミングや公募価格を考えていらっしゃったのかを伺ってもよろしいですか?
須藤:IPOをどのタイミングにするかって、主幹事証券を決めて、1〜2年後に上場しようかなって決めるんだと思うんですよね。我々に関してはコロナのことはさっぱり分からなかったので、これを予見してたらもっと違うことやってたかもしれないなとは思うんですが(笑)
僕らはDXの事業をやっていたので、5Gを起点にしてました。5Gが本格的に商用利用開始になったのが2020年の4月からで、2023年くらいには今の4Gくらいの普及率になるだろうという考えがあったので、商用利用され始めるタイミングから僕たちが次のステージに行くためにしっかり投資していくことを予定して会社を動かしていました。
さっき高宮さんが仰ってたみたいに、自分たちがマーケットからどういうふうに映っているのかは機関投資家と話をしないとわからない。僕らはIPOの1年半くらい前からインベスターミーティングに出席するようになって、20〜30社くらい投資家のアポをとって話をして、アンケートを回収して、面談を通して実際に投資家の目に会社がどういうふうに映ったのかを確認するというのをやりました。
僕は海外と国内両方の投資家と会って、自分たちのストーリーはどういうふうに映っていて、どこにズレがあって、自分たちがコントロールできているところとできていないところは何なのかを1年くらいすごく研究しました。
だからIPOのときに、すでにお会いしてた機関投資家に「ようやく来ましたね」みたいに言ってもらえました(笑)。これは努力でコントロールできる部分です。
そこからオファリングとかになってくると、またいろんな調整が入ってくるわけですが、少なくとも上場する結構前の段階からどういう形でやっていけるといいか最初に「当たりをつける」ことはやってました。
高宮:そんな時にそういう会社に投資してくれる機関投資家って米系よりもヨーロッパ系だよねっていうテクニカルな話もありつつ、ファンドマネージャーって未上場投資家に通ずるところもあって、「経営者の人を見て投資する」みたいなところがすごく強い。
機関投資家が入ってくれる最低時価総額の規模って300-400億円くらいというのが一つの目線で、日本のIPOの中央値が180億円とかなので、スタートアップからすると機関投資家に入ってもらうにはハードルは低くはないんですよね。でも、何千億円という規模で資金を運用する機関投資家からすると、それでもだいぶ小さな部類に入ります。なので、日本のIPOやIPO直後に入ってくれる機関投資家って、未上場に投資するVCにも通じるところもあって、将来の成長性を見る。そのためにすごく経営者を見るんですよね。なので、スタートアップの経営者にとっては機関投資家という組織としてではなく、担当のファンドマネジャーと人と人で関係性を作っておくのが大事だと思います。スドケンさんが仰るように、2年くらい前からそういう人に会いに行っておいて、パーソナルな関係を作っておき、「この経営者は良いな」って思わせておくのって結構効いてくると思うんですよね。彼らは意外と人を見るんですよ。
須藤:ある意味、お互いでお見合いしてるんで。「この人に入って欲しい」ってやっぱりあるじゃないですか、お互いに。これはすごく重要なことだと思ってまして、やっぱり何回かやってるとわかるんですよね。自分たちの事業をこう見てくれて、こう評価してくれてるんだなって。
僕らはIPO前のインベスターミーティングで自分たちのピッチもやって、その後に必ずフィードバックをもらうことにしてたんです。僕たちのどういうところに魅力を感じて、どういうところが課題に映ったのかっていうのを全部直接聞いています。
そのときのやりとりで自分たちがどういうふうに映ってるかがわかれば、この投資家には入って欲しいなと思えるかがわかる。
別に買い手と売り手という話ではなくて、僕はお互いのお見合いのように思っています。それはすごく良い機会だったなと思っています。
証券会社に任せっきりではなく、発行体自ら機関投資家のフィードバックを集めるべき
バフェコ:インベスターミーティングやプレロードショーみたいなものは主幹事がアレンジすることが多いわけですが、主幹事の中にはただセッティングするだけのケースもあると聞きます。通常は主幹事がアンケートはもちろん、面談終わりに個別に投資家からフィードバックを集めて発行体に伝えるということをやるんですけれど。こうしたイベントは投資家の事業の理解度や期待値、Compsやバリュエーション目線についての意見交換など、投資家からのフィードバックを直接受けられるとても貴重な機会です。
しかし残念ながら、面談の目的や面談を通して何を得ないといけないかのレクチャーを受けられないままイベントに出席し、説明して、そのまま帰ってきてしまったという発行体もいるのが実情です。主幹事が取りまとめるアンケートもさることながら、須藤さんらのように、発行体自身でもちゃんと直接フィードバックを集めないといけないよねという意識を持つ経営者は稀だと思います。
初回イベントで失敗に気づき、これではダメだと勘の良い発行体なら2回目からみなさん挽回されるわけですが、この辺りの意識の差の積み上げがIPOの成否にも表れる気がしています。
高宮さんは発行体を支援する側だと思うのですが、VCとしてはこのあたりどのようなアドバイスをされているのですか?
高宮:先ほども出ましたが、スタートアップの経営者は初めてのIPOのことがほとんどです。一方で、主幹事や上場株の投資家は無数のIPOを取り扱っているわけです。構造的に情報格差が生じてしまう訳です。
そこをある日本を代表するメガベンチャーのCFOの方は、正式なロードショーや証券会社が機関投資家を紹介してくれる前から、自分たちで機関投資家とのルートを開拓して、関係性を作り、事業や値付けについてフィードバックをもらうということをやりました。そうすることで、発行体側も機関投資家の思考パターンや温度感を理解した上で、主幹事とストラクチャーやプライシングの議論に当たれるようになりました。
今までだと、僕らVCがアレンジしたり、発行体のCFOの前職からのコネクションで、事前に機関投資家に会いに行くことが多かったんですが、最近では証券会社がだいぶ前から投資家とのミーティングをアレンジしてくれるようなことも増えてきました。「経営者、主幹事、既存株主、三位一体になって発行体の中長期的な価値を上げていきましょう」という流れになってきていて、同じベース知識に基づいて議論し、発行体が戦略的な経営判断できるようになってきていると思います。
須藤:僕の立場でいくと、証券会社がやるより発行体がちゃんとリクエスト出した方がパワフルだと思っています。
どういう投資家をアレンジして欲しいのかみたいなことからいろいろ教えてもらいながらアレンジしてもらうのもそうですし、僕は最初の頃、インベスターミーティングで3分〜5分くらい逆にファンドの考え方みたいなものを必ず聞いてたんですよね。どういう運用方針で何をやっているかというのを最初に教えてもらってからミーティングを始めていく。
類似の銘柄はどういうところを持っているのかとかも事前に情報を集めていて、言ってみればマーケティングですよね。先ほど申し上げたフィードバックをもらうという話も、アンケートって必須になっていない設問だとコメントを書いてくれないことがすごく多い。だから面談の際に書いてほしい旨を投資家にお願いしていました。「僕らは今この点を研究をしていて、こういうところでフィードバック欲しいからぜひお願いします」って一言こちらから添えておくだけで回収率はすごく上がったりするんです。それは機関投資家からしてもそれはウェルカムなことだろうと僕は思っていて。なぜならこの経営陣はどういうことを考えているのかというのを伝えることができると思っているから。ちゃんとコミュニケーションをとるというのは発行体としても頑張るべきですね。
主幹事証券というか証券会社抜きのミーティングって実は結構あったんですよ。多分、投資家側からのリクエストで証券会社抜きでっていうのも実際かなりあると思うんですよね。IPOのときもそういうミーティングがありました。そういう場合でもやはり発行体がコントロールしないといけないと思いますね。
僕は協力してもらえなかったなんてことは全然なかったんですけど、発行体側の意識として、自分たちがコントロールできることをコントロールするということを一生懸命やるべきかなと思っています。
第2回へ続く。
【連載】IPOの解体新書
1️⃣ IPOの解体新書(第一夜) - 人生初めてのIPOにどう取り組むべきか