【連載】IPOの解体新書(第二夜) - IRとは「自分たちの会社」を売り込むマーケティングである

公開日
2021/10/30
スタートアップの登竜門たるIPO。しかしIPOって人生初めてなのに、周りに誰も教えてくれる人がいなくて「どうしたら良いの?」というご相談をよく受けます。「エクイティストーリーってどう作るの?」「公募価格って証券会社に任せてちゃダメなの?」「上場後にみんながハマる罠?なにそれ」。
 
そうした、これまであまりスポットライトが当たってこなかったIPOとその後のIRについて知見をシェアできればと思い、東証マザーズ上場のKaizen Platform代表の須藤 憲司氏、メルカリを始めとした多くのスタートアップの上場を見届けてきたグロービス・キャピタル代表パートナーの高宮 慎一氏、バフェット・コード氏の鼎談が開かれました。IPOまでにすべきことは何なのか、IRにおける本当の課題は何なのか、3名が語り合いました。全3回。
 
第1回はこちらから。
 
スピーカー
須藤 憲司(@sudoken
株式会社Kaizen Platform 共同創業者 & CEO
高宮 慎一(@s1kun
バフェット・コード(@buffett_code
企業分析ツール「バフェット・コード」運営者
 
 

IRとは「自分たちの会社」というプロダクトを顧客に売り込むマーケティングである

 
高宮僕は、”R(Relation)”がつくものは何でもマーケティングだと思っています。Investor RelationもCustomer RelationもEmployee Relationも全部一緒で、お客さんをセグメンテーションして、どのようなお客がターゲットで、そこにはどういうニーズがあって、自分たちのプロダクトがそこに刺さるのかどうかを確認して、その後も満足度を調査して最適化していくみたいなプロセスだと思うんですよ。
 
なので、IPOがはじめての経営者には、よくIRも「自分たちの会社の株」というプロダクトをお客さんに売りに行くというプロセスだと思って、「自分たちが事業でやっていることと同じことをIRでもやればいいだけですよ」って言っています。
 
バフェコ仰る通りですね。楽天IR戦記を書かれた市川さんが著書で「投資家の頭の中にある企業価値計算のスプレッドシートをどういうふうに変化させ、価値を高め、購入の意思決定をしてもらえるか、これにワクワクするような面白さを感じました」と書いておられて、IRはこれがすべてだなと私は思っています。
 
マーケティングして購入の意思決定をしてもらう。そういうところがIRの醍醐味であり、経営者がやるからこそより強く効いてくる分野なのだと捉えています。
 
高宮上場株の投資家やアナリストの方って、一定スプレッドシートが共通言語みたいなところがあると思います。未上場の時って、成長ストーリーを定性的に語って、こんなストーリーだから大きくなるよみたいな感じで、事業計画の数字は1-2年遅れる程度なら上出来で、ほぼ予測できないもの、発行体も投資家も一定ナメナメだよねという期待値で、あまり数字に重きはおきません。
 
一方で、やっぱり上場株の世界になるとP/Lがあって、P/Lを2段階くらいブレイクダウンしてところに、これがキードライバーだって特定して、そのドライバーがどうして伸びるのかを示す、事業を構造的に説明することってすごく大事だなと思っています。
 
そして、ドライバーがなぜ伸びるのかを示す際に、皆まで言わずに、匂わせて示唆するくらいの方が、投資家が乗り気になってくれるみたいなテクニカルな話もあるんですが(笑)
 
定性的な成長ストーリーに加えて、スプレッドシートに分解して数字という言語に翻訳して語ることもできるのが、上場株の投資家とコミュニケーションにおいては重要なのではないでしょうか。
 

上場を検討しているけどCFOがいない どうすべき?

 
バフェコIRはやり方や考え方が多少変わるとはいえ、上場・未上場問わずとても重要で、届けたい投資家に、届けたいメッセージを、適切なチャネルで伝達していくマーケティング的要素が強いというお話でした。また、コントローラブルなところを見つけてどんどん改善していく意識を持つことも、資本市場に対して重要な姿勢と感じました。
 
ではここで少しテーマを変えたいと思います。そうしたIRを推進していかなければならない中で、社内にCFOがいなかったり、経営層にファイナンスに詳しい人が揃っていない状況で上場を真剣に考え始めたという発行体も少なくないと思います。
 
このあたりは須藤さんらのチームのように自分たちでも勉強すれば何とかなる話なのか、できることならすぐにCFOの採用を検討した方がいいよという話なのか、おふたりはどう考えていらっしゃいますか?
 
須藤こればかりは会社によると思います。あと、はたしてCFOがいれば何とかなるのかっていう別の問題があって難しいんですよ。答えがないものだと僕は思っていて。
 
一般論でいくと、もちろんいた方がいい。じゃあどういう人が良いんですかと言われると、これまたいろいろある。もちろん上場を経験している人がいるならかなり良いし、機関投資家の考え方を理解している人も良いと思うんですけど、世の中の一般的なスタートアップには必ずしもそういう人がいるわけではないので、門外漢だと言っていられないです。やはり経営者も学ぶというのはやらないといけないんじゃないかなと思います。
 
チーム編成に関して言うと、コーポレートガバナンスなどをちゃんと整備していく役割、IPOというイベントでの利害調整をしっかりやっていく役割、それに対してストラテジックに話をしていく役割この3つくらいの役割が僕は重要だと思っていて、それは別の人格でもいいんじゃないかって思っているんですよね。ただCEOとか経営チームとかコーポレートのヘッドとか、そういう人たちで役割分担ができているかが大事という気がしています。
 
その上で、CFO以外の人たちがIPOに関して勉強しなくていいかって言うと、やっぱりそんなことはないと僕は思っています。
 
バフェコCFOがいたらいいというわけではなくて、役割を理解して、自分にできるロールプレイはしていかなくてはいけないし、役割は違えど広く浅く知っていることも大事ということですね。
 
須藤CEOってCFOがいたら油断する生き物じゃないですか、だいたい。「でもお前油断してる場合じゃねえぞ!」って(笑)
 
「IRって、投資家はCEOの口から聞きたいんだよ」みたいなことがあるわけですよ。
 
僕はめちゃくちゃ教えてもらったし、必死で勉強したし。勉強しないとやっぱりわからないんですよね。理解できない。
 
先ほどバフェット・コードさんがスプレッドシートを想像させるって話をされてましたけど、僕の立場でいくとそれは、なぜウチは割安なのかってことを説明することなんですよね。それを自分の言葉に置き換えて言えると良いわけです。
 
でもあまり腹落ちしていないのにそれをやろうとすると難しかったりするので、全員ある程度は勉強しないと分からないなって思っています。
 

CEOが自分の言葉で語る迫力に勝るものはない

 
バフェコVC側として高宮さんの意見はどうですか?
 
高宮完全に仰る通りですね。ただそれで終わると面白くないと思うので付け加えると(笑)
 
スドケンさんがおっしゃった、機能分解をしてその機能をチームでカバーするというのはその通りですし、全経営陣がファイナンス目線を持って投資家を向き合えないとダメというのもその通り。
 
その中でも絶対やった方が良いよっていう話で言うと、経営者、CEOが自分がどういう人かを見せること。
 
よっぽど安定的な事業構造でKPIだけ見れば割安か割高かわかるよねって状況でなければ、先ほどのように投資家は経営者を見ています。CEOが自分の言葉で語って、人間として魅了することも意外と効いてくるんですよね。事業における事業開発、営業みたいな意味合いでIRを言えば、絶対に大きなストーリーはCEOが自分の言葉で語るべきだと思うんですよ。それは未上場でも上場後でも一緒だと思っています。
 
管理系の守りの話はCFOや管理担当の役員と役割分担して任せるという話もありますし、ファイナンスの知識をベースにした話は専門家としてのCFOが横にいて、タッグで話すという形もありだと思います。CEOがそこまでやりきれると最強ですけど、やりきれる必要はないかなと思います。だけど大きなストーリーを語る部分は迫力を込められるCEOが言った方がいいというのは間違いなくありますね。
 
僕ら未上場投資家でも「調達するから話聞いてください」って言ってCFOがVC向け合同説明会のような形だと、やっぱりちょっとモチベーションが下がってしまうことがあります。これは上場投資家でも一緒だと思います。
 
バフェコCEOは役割からして大きなビジョンを話すのが得意な方が多いと思うんですけど、それに留まらず、KPIをブレイクダウンして、「私たちが達成したいビッグピクチャーはこうです。その将来ビジョンが達成されたら数字としてはこうなっていきます。その数字から算定されるバリュエーションはこれくらいを見込んでいます。そこから逆算するとIPOのタイミングと規模感はこう考えています」というところまでCEOが語れたら全然迫力が違いますよね。
 
テクニカルなところはCFOに任せても良いと思うんですけど、CEOの口から話せることに大きな意味があると私も思います。
 
高宮海外機関投資家に話しに行くときに、CFOが英語を話せるからCFOに任せますとう話もたまに聞きますが、英語力じゃなくてコミュ二ケーション力が大事なので、英語が文法的には拙くてもCEOが迫力込めて語った方が良いと僕は思います。
 
須藤僕もそう思います。僕も上場後のIRをやってて思うことなんですけど、社長の話聞きたいんですよね、みんな。これは国内・海外でもあまり変わらない。どういうふうにマーケットを見ているのかとか、どういうふうに自分たちの足元を捉えているのか、どういうふうな課題に直面しているのかっていう話を社長自らが自分の言葉で語っているのを聞きたいとみなさん思っているんだと感じています。
 
あとIPOのフェーズにキャラクターがいろいろ出てくるとちょっとややこしくなるので、話者は1人の方が望ましいと僕は思っているんですよね。CFOが喋るならもうCFOが喋った方が良い、ただポイントだけはCEOが喋る、みたいなことを決めてやった方が良い。僕は基本全部自分で喋ってきました。
 
第3回へ続く。
 
 
 
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【連載】IPOの解体新書
 
2️⃣ IPOの解体新書(第二夜) - IRとは「自分たちの会社」を売り込むマーケティングである
 
 
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