20年以上黒字経営を続け、売上は20億円以上。非上場で成長を続ける「コトラ」の創業者に起業初期の話を聞いた
公開日
2023/01/12
著者
平田 智基(twitter : @t_10_a)
2022年12月期の売上は約22億円、経常利益は約7.4億円。20年以上黒字経営。非上場ながら、好業績で成長を続ける会社があります。プロフェッショナル人材の紹介事業を行うコトラです。
コトラを起業した経緯
会社設立の動機は、「会社は人だ」と思ったことでしたので、人材ビジネスをやるために起業しました。
どこかの人材ビジネス企業に就職せずにはじめたのは、いずれ起業するならばその時に「顧客やノウハウを持って独立した」と言われるのは私の流儀に反すると思ったからです。
また、長銀に在籍していた頃の終盤にやっていた本部の仕事は大変で、「こんなに大変なら自分で会社をやった方が簡単なのではないか」と思いました。
そこで会社を辞めて起業することを先輩に伝えると、「お前は看板があるから仕事ができている。そんなに簡単ではない」と言われました。でも、私は「お客様のためになることをしたら、看板がなくてもお客様はお金をくださるのではないか」と思い、必ずその仮説を実証すると心に誓いました。
女子プロゴルファー派遣など試行錯誤されていたようだが、本業の人材紹介で初期の顧客を掴むきっかけは何だったのか?
銀行を辞めるときから、人で組織は変わることを実感し、組織を変えることができる人材ビジネスをしたいと思っていましたが、人材ビジネス未経験の私に仕事を頼むには、相手が納得できるストーリーが必要だと思いました。
組織を変える仕事とは少し遠いものの、私はゴルフ部出身だったので、まずはプロゴルファーのマネジメントの会社を始めてみようと思いました。当時はスポーツ選手もマネジメントが必要な時代と言われ始めた時期でした。スポーツ選手のマネジメントとはまずは仕事を取ってくることだと理解し、女子プロゴルファーをイベントに派遣する事業を始めました。その頃に会社を辞めてぶらぶらしていたゴルフ部の同期を誘い、当時住んでいたマンションの一室からスタートしました。
登記も銀行口座開設もホームページも経理も給与も納税申告も営業もパソコンの設定も自分。ひとつひとつ作っていきました。この時、全ての業務をやったことで会社というものの全体を理解し、それぞれの機能がどう動くのかの理解にたいへん役立ちました。
マンションの一室で仕事をするのは息が詰まったのでオフィスを探すことにしたのですが、お金がないので借りる決断ができませんでした。そこで、銀行時代のお取引先だった会社の社長にオフィスを間借りさせてほしいとお願いしました。なんと図々しいことに無料でとお願いしました。
その社長は銀行時代に私が営業に行って面会するたびに、いくつもの格言を与えてくださいました。 例えば「いいか、銀行がやってうまくいった事業があるか。金があると知恵が出ない。金がなければ知恵が出る」と。本当にその通りです。銀行をやめて会社をやろうと思うと相談したときも、「いいじゃないか、たいていうまくいかないけど、うまくいくこともあるんだから。夢はでっかく見ろよ、どうせ縮むんだから」と言われて、励みになりました。 そんなことがあったので、その社長のオフィスで会社を立ち上げたいと思いました。何回も通ってお願いした結果、間借りさせてくださることとなり、銀座のオフィスでトムボーイはスタートしました。
トムボーイの仕事をはじめてすぐに、銀行の先輩が不動産会社のコンペで10人くらいのプロゴルファーを使ってくれました。数十万の売上でしたが、当時の私にはものすごい大金に思えました。他でも使ってくださる先もあり、もっと営業すれば、色々な展開があったと思います。しかし、実際にやってみて、重大な問題にぶちあたりました。私はどうしてもこの仕事を一生の仕事にする気になれなかったのです。 加えて、女子プロゴルファーの派遣の会社ですといって営業をすると、「それは面白い、機会があったらお願いするよ」との反応とともに、「君はゴルフ部出身なのか。じゃあ今度ゴルフしよう」となってしまい、ゴルフの予定ばかり入るようになりました。 実際に2002年の4月は、20日以上ゴルフをした記憶があります。

さらに加えて、同期と2人で仕事をする。同期がいないときは1人で仕事をする。これは想像以上に煮詰まることであり、とても生産的と言える状況ではありませんでした。 これでは仕事にならないと思い、半年も経たないうちに初心に戻り、ビジネスパーソンを対象とした人材ビジネスを始めることを模索し始めました。
私はお会いする人に「人材ビジネスをやりたいんです」と話すようになり、そのなかでゴルフでお会いしたのが、とあるSE派遣会社の会長です。社員は数十人、派遣社員は数百人の会社です。ゴルフのラウンド中に人材ビジネスをしたいと会長に伝えると、「うちは、SEの派遣で成功しているが、事務の派遣も手掛けてもよいと思っていた。銀座に広いオフィスを構えており、スペースが空いているのでそこで始めたらどうか」と言われました。
事務の派遣は初心とは少し離れるものの、まずは人材ビジネスを始めたく「ぜひお願いします」と私は反応しました。会長は冗談だったのかもしれません。 現にそのあと、オフィスを何度か訪ねてもなかなか話が進みませんでした。迷惑なのではないか、本当に派遣をやるべきかなど、考えれば考えるほど、そこで話を進めない理由はいくらでもあったと思います。しかし、そのように考える余裕はありません。何せここでやらねば、いつ人材ビジネスを始められるか分からないからです。
5月から話し始め、何度か粘り、なんとか8月には事務の派遣をやらせていただけることが決定し、10月4日に無事に会社登記と相成りました。これが現在のコトラです。

事業成長のきっかけはあったか?
私は銀行時代から会社を作るということに興味がありましたので、そのような自己啓発本を読んでいましたが、そこにはたいてい「人脈が大事」とありました。今となっては人脈が本当に大切かどうかは一概には言えないと思っていますが、当時は「人脈が大事」ということを信じていて、異業種交流会なるものを見つけてはよく参加していました。また誰かが紹介してくれる人には必ず会って、ゴルフや飲み会の誘いも必ず参加していました。
そこでお会いした方々に「私は人材紹介業をやっています。オーダーして下さい」と営業を始めました。たいていはあまり相手にしてくれませんでしたが、オーダーしてくださる人もちらほらといました。
その中に、複数のコンサルティングファームを経て、若くして外資IT会社の役員をしていた方がいました。その方が「コンサルティング会社を設立したので、ITコンサルティング経験者を探してきてほしい」と依頼してくださいました。
その人は、私にヘッドハンターとしての特段のノウハウがないことは十分承知なので、イチからいろいろと教えてくれました。ご丁寧にトークスクリプトも書いてくれて、さらにはその人が知っているヘッドハンターがその会社を説明する場も勉強のためにアレンジしてくれました。
そんなことで私は見よう見まねで、その方の会社向けにヘッドハンティングの仕事をしていました。 電話をしろと指示された人数は1,000人超。多いのでアルバイトの人にも手伝ってもらって電話をかけました。その結果、アポイントが入ったのが100名程度。彼らに片っ端からお会いして、会社について説明して、興味があるかを聞いて、多少でも興味があればぜひレジュメをお預かりしたいとお願いすることを繰り返しました。
「ヘッドハンターだから会ったのに、なんだそんな案件しか持ってないのか」と即座に席を立つ人もいましたが、「その案件には興味ないけど、今後のためにレジュメは送るよ」と言ってくれる人もいました。お会いした100人のうち、レジュメを預けてくださった方は10人もいなかったと記憶しています。1,000人電話をして、100人お会いして、レジュメを預けてくれるのは10人以下。実に1%以下です。 レジュメを預けてくださる方は神様に見えました。
ヘッドハンティングという仕事は、レジュメをもらうということが最大の難関なのです。 今は、レジュメをご本人からコトラに送ってこられる方が月に何百人といます。本当に奇跡のように素晴らしい状況だと心の底から思っていますが、そう思うのは、当時のレジュメをもらうことの大変さが今でも身にしみているからです。今でも候補者の方のレジュメをみると、何とか紹介できる案件がないかと頭をフル回転させてしまいますが、この頃の体験からくる貧乏性ともいえる性分だと思います。
レジュメをもらえないことは大変でしたが、ビジネスパーソンとして立派な方々とお会いして、仕事の話を聞くのはたいへんエキサイティングでした。当時20代だった私は、この立派な方々に頼られるくらいになりたいと思ったものです。
何人かお会いしていくうちに、ヘッドハンティングの依頼主である会社よりも、他の会社の方がマッチするのではないかと思う方々がたくさんいることに気づきました。 私にお任せしてくださった社長からも、お会いした方は他の会社にも好きに紹介していいと言われていましたので、他の会社もご紹介することにしました。とはいっても、特に求人案件をもらっている先があるわけではありません。 今まで聞きかじった話を頭のなかで総動員して、この人にはどんな転職先を紹介できるだろうと知恵を絞りながら、ITコンサルタントたちの話を聞いていましたね。
上場を取りやめた「思わぬ出来事」とは?
監査をお願いしていた監査法人が、金融庁から監査法人の体制についての注意を受けたんです。その監査法人から監査を受けているすべての企業はスケジュール変更を余儀なくされました。ほぼすべての審査と手続きが終わっていましたので、日程を遅らせると上場可能でしたが、ここで立ち止まって考える機会となりました。
20年以上続けられる熱量。何が1番のモチベーションだったのか?
単純にこの仕事が面白いというのがあります。人はいつまで経っても面白いし、求人もどんどん新しいものが出てきます。社会の進化そのものです。現場に出ずにマネジメントをするようになると、組織を動かすことの難しさに直面し、なんとか上手くなろうと奮闘するのもまた楽しいです。 最近は視座が高くなって社会課題に一層目が向くようになりました。
企業は人の使い方でもっと生産性が上がる、人も働き方でもっと付加価値を出せると思っていて、今のままではもったいないと思っています。企業も人も、より高い生産性を実現させられるように尽力したいと思っています。
起業してからこれまで、大きな落とし穴はあったか?
慎重すぎたと思います。また、出産育児に備えてセーブしていたのも無駄だったと。今は全力でアクセルを踏むべきと思っています。
スタートアップ起業家へのメッセージ
お客様に付加価値を提供し、その対価としてお金をいただき、コストを払い、利益を出して、納税すること。これが商売の基本です。 必ずしも1年単位でこのサイクルを回す必要はなく、事業によっては数年かかるかもしれません。しかし、事業に関係のない支出を先行する姿勢では信頼を得られません。
事業と関係がある、関係がない。この線引きが分別であると思います。分別がある人が起業家から事業家になることができ、サステナブルな存在になると思います。
私たちコトラでは、コンサルティング会社経験者にジョインしてもらって、人的資本向上、生産性向上のためのサービスを提供していきたいと思っています。
具体的には、タレントマネジメントの強化です。スキルの可視化とコンピテンシー強化のための教育をして適材を将来のビジネスに配置していく、いわゆるタレントマネジメントをするHRビジネスパートナーの重要性を啓蒙して導入支援していきたいです。
少しでもご興味をお持ちいただけましたら、以下のURLよりぜひお気軽にご連絡ください。