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クリエイターエコノミーの中流階級を作る

Created
2021/3/9 3:00
date
2021/03/20
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クリエイターエコノミーの中流階級を作る
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Li Jin
目次
 
1788年、ジョージ・ワシントンは、アメリカは「産業家・倹約家にとって世界で最も好ましい国」であり、「財産の平等な分配、未開の地の豊富さ、生活手段を調達するための設備」を考えると、社会的地位の低い人でも移住できる理想的な国になるだろうと予測しました。機会は、その広大な土地と宗教的寛容さに内在していると彼は主張しました。
 
228年後の2016年、Musical.lyの共同CEOで、のちにBytedanceでVP of productを務めたAlex Zhuは、新しいソーシャルネットワークを立ち上げるにあたり、このような心情に共鳴しました。
新しいプラットフォームを立ち上げることは、新しい国を立ち上げるようなものだと彼は言います。経済や社会階級が凝り固まっている既存のネットワークから新しいネットワークへユーザーを移動させるには、成功の可能性、すなわちアメリカンドリームで惹きつけることが必要となります。
さらに、新しいソーシャルネットワークは「中流階級が出てくるようにする」ために、すべてのユーザーに上昇志向を持たせなければなりませんでした。
 
今日、ほとんどのコンテンツプラットフォームにおいてアメリカンドリームの理念は健在です。8歳から12歳までの子供たちを対象にした最近の調査によると、30%近くがYouTuberになりたいと思っていることがわかりました。ごく普通の人がプラットフォーム上で大成功を収めている例は数え切れないほどあるので、これは極めて当然のことでしょう。ちょうど昨年、YouTubeクリエイターであるDavid Dobrikのプラットフォームからの毎月のアドセンス収益は、平均6,000万再生で275,000ドルでした。Substackでは、上位10人のクリエイターが合計で年間$7M以上の収入を得ています。TikTokで初めて1億人のフォロワーを突破したクリエイターとなったCharli D'Amelioは、16歳にして推定年間収益は400万ドルあると推定されています。彼女はわずか1年半前にTikTokを始めたばかりでした。
 
しかし、なかには大スターになった人もいる一方で、こうしたプラットフォームで多くの人が経済的な安定を手に入れた例はほとんどありません。現在のクリエイターの状況は、富がトップに集中している経済により似ています。Patreonでは、2017年に連邦政府が定めている最低賃金である月1,160ドルを稼いでいるクリエイターはわずか2%しかいませんでした。Spotifyでは、労働者がフルタイムで働いた場合の最低賃金である年収15,080ドルを達成するためには、アーティストは年間350万ストリームが必要であり、ほとんどのミュージシャンはツアーやグッズで収入を補わざるを得ないのが事実です。対照的に、2016年のアメリカでは、成人の52%が中所得世帯に住んでおり、収入は48,500ドルから145,500ドルの間でした。
 

不足しているクリエイターの中流階級

 
国家の持続可能性とプラットフォームの防御性は、富が上位1%に集中していない場合の方が優れています。現実の世界では、社会的信頼を促進し、プロダクトやサービスに対する安定した需要源を提供し、イノベーションを促進するためには健全な中流階級が必要不可欠です。プラットフォームでは、富の集中が少ないということは、競合他社がトップクリエイターを密猟してビジネス全体を脅かすリスクを減らすことを意味します。
 
WIREDの編集者であるクリス・アンダーソンが2004年に初めて「ロングテール」理論を発表して以来、この考えはとどまるところなく強化され、そのたびに矛盾を起こし、そのたびに議論されてきました。彼は、インターネットが物理的な制限(地方の客、棚のスペース不足)を取り除いたことで、ニッチな製品やクリエイターが繁栄する力を得るだろうと主張しました。
 
検索カテゴリーではこの現象が真実であることが証明されています。Googleによると、1日に検索される全クエリの15%がそれまで一度も検索されたことがないことを明らかにしており、この数字は2013年以降安定しています。
 
しかし、コンテンツプラットフォームにとって、デジタルコンテンツへの移行はロングテールの急増とは相関関係がありません。つまりトップクリエイターは大成功している一方で、ロングテールのクリエイターはぎりぎりのところで凌いでいます。たとえば、Spotifyでは、プラットフォーム上のアーティストの1.4%に相当するトップ43,000人のアーティストがロイヤルティの90%を稼ぎ出しており、彼らは1人当たり四半期平均で22,395ドルの収入を得ています。残りの300万人のクリエイター、つまりアーティストの98.6%は、四半期ごとに1人あたり36ドルしか稼げませんでした。
 
ビデオゲームの世界でも、成功はますます少数のゲームクリエイターに集中している兆候が見られます。Electronic ArtsのプロダクトリーダーであるRan Moのエッセイによると、オンラインゲームプラットフォームのRobloxでは、全体の使用量が増加しているにもかかわらず、トップへの集中が進んでいると指摘しています。2018年には、Robloxのトップゲームが同時接続ユーザーの8~10%を占めていましたが、2020年には20~25%以上を占めるようになるとのことです。彼はこの集中の理由として、ゲームのエンゲージメントには上限がないことと、ゲームのソーシャル性が勝者総取りのネットワーク効果につながっているという2つの理由を挙げています。
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シカゴ大学の経済学者であるシャーウィン・ローゼンの1981年の論文は、テクノロジーの結果として「スーパースター現象」がどのようにしてもっと顕著になっていくかを予見的に説明しています。多くのクリエーターエコノミーと同様に、異質な供給者が存在する市場では、成功はトップ層の人々に不釣り合いなほどにもたらされるとローゼンは論じています。「才能のあまりない人が、才能の高い人の代わりにはならないことが多い(中略)平凡な歌手が続々と登場するのを耳にしたところで、優れたパフォーマンスのたった1つも生まれない。」
この現象は、流通コストを下げるテクノロジーによってさらに悪化しています。ある分野で最高のパフォーマーは、コンサートホールのキャパのような物理的制約から解放され、天井知らずの市場にアプローチし、大きな収入シェアを得ることができます。
 
では、クリエイター間の不平等は避けられないのでしょうか?ある程度はそうかもしれません。誰もが有名人になれるわけではありませんが、有名どころではなくても、まともな収入を得るための基盤となる顧客基盤を抱えている中流階級クリエイターの例はあります。
 
クリエイタープラットフォームは、誰でも成長し成功する機会を提供することで繁栄します。これは確実に言えることです。アメリカンドリームが単なる夢である場合、プラットフォームの先に待ち受ける運命は危ういものになります。Vineの物語は教訓のようなものです。短い形式のコメディ動画フォーマットを発明し、2015年11月には月間アクティブユーザー数が2億人に達したにもかかわらず、同社は徐々にクリエイターをInstagram、YouTube、Snapのようなプラットフォームに奪われていきました。視聴者数の成長機会や金銭的な成功機会は、他のプラットフォームでより容易に得られるようになったため、プラットフォームの衰退へと繋がりました。
 
CharliやAddison(訳注:TikTokのトップスター)のような人物たちは常に頭角を現すでしょうが、クリエイタープラットフォームはスターダムへの道筋を提供し、成功する機会を民主化することが極めて重要です。プラットフォームはどうやってこれを行うことができるでしょうか?
 

中流階級クリエイターを育てる10の戦略

 
アメリカの中流階級は自然に生まれたのではなく、20世紀の政策によって広く繁栄しました。ルーズベルトのニューディール、最低賃金、残業代、未成年者雇用の禁止を定めた公正労働基準法、組合主義の台頭、GI法案の成立、連邦住宅管理局の創設などです。これらの政策は、パワーバランスを労働者の方にシフトさせ、富の創出の機会を分散させ、所得格差の拡大を緩和し、1960年代末までにアメリカの成人の61%を占めた強固な中流階級の形成に貢献しました。政策の優先順位がシフトするにつれ、その数字は2019年には51%にまで縮小しました。
 
プラットフォームもまた、自らの経済圏に影響を与える決定を下すことができます。いくつかの不平等はパッションエコノミーの性質に内在しています。:供給は異質で代替性のないものであり、クリエイターがオーディエンスと築く信頼と親和性は称賛されるべきものです。しかし、既存のものから新しいものまで、プラットフォームは中流階級クリエイターを強化し、成功への道を広げるためにもっと多くのことができます。多くの人が成功を手に入れられるようにする、プラットフォームの設計上の決定にはどのようなものがあるでしょうか?
 
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1)リプレイの価値が低いコンテンツタイプに集中する

 
同一のポッドキャストのエピソードを人は何回聞くことができるでしょうか?おそらく、内容が反復的で退屈だと感じるまでに何度も聞くことはできないでしょう。対照的に、人は好きな曲を無限に繰り返し聞くことができます。ビデオゲームでは、ゲームを繰り返しプレイすることに価値があるだけでなく、何百時間もかけてゲームに没頭した後に、プレイヤーは上達してさらにゲームを楽しむことができるため、限界的な効用が増大します。これは、音楽やゲームプラットフォームのようにリプレイ価値の高いカテゴリーでは、いくつかのメガヒットに集中しやすいことを示唆しています。プラットフォームがより公平なクリエイターエコシステムを構築するためには、様々なコンテンツを体験できる魅力のあるコンテンツタイプにユーザーを誘導することができます。
 

2)ユーザーの好みの異質性に対応し、ニッチを強化する

 
ローゼンのスーパースター経済学の理論は、「品質が差別化された商品間における不完全な代替」を前提としています。すなわち、普通の外科医より10%以上多くの命を救うことができる偉大な外科医は、増えた10%の需要分よりもはるかに多くを得ます。これは私が品質の客観性と呼ぶ、様々なコンテンツカテゴリーの属性を強調しています。コンテンツカテゴリーのなかには、他のカテゴリーよりも明確で普遍的な品質基準があるものもあります。ユーザーの好みは大きく異なるため、普遍的に「最高」のフィクション作家は存在しないかもしれませんが、「最高」のテスト対策家庭教師は、テストの点数のような指標を通て知ることができるかもしれません。
 
様々なセグメントのユーザーの好みや、品質に対する意見が多様化すれば、多様なクリエイターが成功する可能性は高まります。プラットフォームは、クリエイターや消費者がこれらのニッチを探求し、発展させることを奨励することができます。例えば、オンラインの子供向け教育マーケットプレイスであるOutschoolは、新しい授業トピックに関する親御さんからのリクエストを集約したメールを毎週教師に送っており、そのなかには「ゴールデンドゥードルの塗り絵」や「スクーターのレッスンとトリック」などのリクエストが数十件寄せられています。この機能のおかげで、クリエイターはどのようなニッチ分野のクラスを提供するのが実を結ぶのかを理解しやすくなっています。
 

3)コンテンツをアルゴリズムによってランダムにレコメンドする

 
無限に広がるデジタルプロダクトの世界でロングテールが開花しない理由については、顧客が何を検索すればいいのか分かりにくいこと、レコメンドシステムの多くが基本的なものであり、他のユーザーが使ったものや購入したものをレコメンドするだけであること、などが挙げられます。このシステムの弱点は、ユーザーが自分の興味分野以外のものを見ることはほとんどなく、フィルターバブルの中に閉じ込められてしまうことです。これによって、人気のあるクリエイターがさらに力を増し、新規参入者がブレイクするのが難しくなってしまうのです。
 
しかし、アルゴリズムがユーザーの検索を行うようになれば、ニッチが活躍する機会はもっと増えます。TikTokのブログ記事では、ユーザーが動画を最後まで見たかどうか、シェアしたかどうか、クリエイターをフォローしたかどうか、デバイスの種類、言語、国など、同社のレコメンドシステムで使用される多数のシグナルについて詳しく説明しています。しかし特筆すべきなのは、フィルターバブルと戦いフィードに多様性を導入することが直接的な目標であり、ユーザーが以前にエンゲージしたことのあるものとは異なる動画をFor Youページに入れ込むことでこれを実現したとTikTokが述べていることです。
 
フィードの中にあなたの興味とは関連性がないように思えたり、Like数が膨大な数に達している動画があるかもしれません。これは、レコメンドに対する私たちのアプローチにおける重要かつ意図的な要素です。For Youのフィードに動画の多様性を取り入れることで、フィードをスクロールしながら新しいコンテンツカテゴリーに遭遇したり、新しいクリエイターを発見したり、新しい視点やアイデアを体験する機会を増やすことができます。
 
このようなランダム性は、「富める者がますます富む」という硬直した社会階層を作るのではなく、既存の大規模なオーディエンスを持たない普通のクリエイターが大衆の目にとまることを可能にし、あらゆる人がプラットフォームで成功するのに役立ちます。実際、TikTokは「フォロワー数も、過去に高評価だった動画を持っているかどうかも、レコメンドシステムの直接的な要因ではない」と明示的に書いています。
 

4)コラボレーションとコミュニティを促進する

 
ダニエル・ピンクの2001年の著書『フリーエージェント社会の到来』の中で、彼はこう書いています。「フリーエージェントは1人でボウリングをしているかもしれないが、1人で行くわけではない(中略)ロイヤルティが消えたわけではなく、単にバーティカルからホリゾンタルに変わっただけだ。」
彼は、アメリカにおける自営業への幅広いトレンドと、会社が提供するネットワークのない世界において仲間の強力なネットワークを構築する必要性について言及していました。これは今日のコンテンツクリエイターにもまったく同じことが言えます。
 
 
コラボレーションは、様々な方法でクリエイターの成長と成功を後押しします。コンテンツの消費は、ユーザーがどのクリエイターをフォローしているかによってなされる部分があるので、一緒にコンテンツを作ることはクロスプロモーションの機会となります。コラボレーションを利用して発見を促すことには、音楽業界やYouTubeクリエイターという大きな前例があります。Taylor Lorenzは、Hype Houseや他のTikTokコラボハウス(クリエイターが一緒に生活してコンテンツを一緒に作る場所)についての記事で、そのメリットを概説しています。「一緒に暮らすことでチームワークが高まり、それは成長速度を増すことを意味し、クリエイターは、過酷なキャリアにおいて心の支えにすることができます。」
 
Hype Houseの共同創業者であるThomas Petrouは次のように述べています。「私たちが引っ越してきたとき、Chaseには350万人のフォロワーがいました。もし彼が1人でアパートに住んでいたら、今ごろ500万人か600万人はいるかもしれませんが、900万人には到達していないでしょう。また、家を持っているとみんな来たがるものです。寝室が2つあるアパートには誰も行きたくありません。今や私たちは、あらゆる大物クリエイターを家に呼べるようになりました。」
 
スタートアップにとっての機会とは何でしょうか?まず、多くのクリエイターの草の根コミュニティがすでに誕生していますが、プラットフォームは、お互いを心の支えにしたり、コラボレーションしたり、教育するためにクリエイターどうしを繋げることを可能にするためにもっと多くのことができます。たとえば、Stirでは、YouTubeの動画製作であろうとグッズ製作であろうと、共同製作における資金面での対応を簡単にしています。Teachableのオンライン教師コミュニティは、クリエイターが同じようなビジネスをしている人たちとのネットワークを作るための専用スペースを提供しています。この新しいアンバンドリングされた仕事の世界では正式な仲間がいないことを考えれば、クリエイターは別のコミュニティを利用することで、十分なサービスを受けることができます。
 

5)新進気鋭のクリエイターに資金を提供する

 
クリエイターが新しいスモールビジネスだとしたら、新しいバージョンのスモールビジネス・レンディング(貸出)とは何でしょうか?クリエイターの中には、次のレベルの成長の鍵をこじ開けるために資金と先行投資が必要な業種もあり、資金調達することで参入障壁を下げることができるかもしれません。成功したクリエイターになることで得られるリターンはベンチャー規模ではないかもしれませんが、ソーシャルトークンや、ニッチなクリエイターに特化して資金と教育をセットで提供するファンドのように、新しいモデルが登場する可能性はあります。ポッドキャスティング業界のPodfundはその後者にあたる例で、25,000ドルから150,000ドルの資金をポッドキャストスタジオや将来性の高いクリエイターに提供し、その引き換えとしてレベニューシェアを受けています。
 
Patreon Capitalは、同社(Patreon)が2020年初頭に開始した取り組みで、クリエイターにマーチャントキャッシュアドバンス(訳注:キャッシュの先払い)を提供しています。Nicholas Quahは、「Patreonはシリーズの制作予算を賄うために75,000ドル前後のキャッシュアドバンスをクリエイターチームに提供し、Multitude(ポッドキャスト制作会社)が今後2年間でNext StopがPatreon上で得る収益から少し多めの金額を返済することを期待している」と報告しています。
 
作家や画家、音楽家など、クリエイティブな才能を持つ人たちのマネタイズのパラダイムは、歴史の長い間、継続的に支払いやサポートを受ける(パトロン)か、何かを作る前に需要があるかどうかを確認する(コミッション)かのどちらかでした。収入の予測可能性を高め、クリエイターに前払いで資金を提供するプラットフォームは、この前例を踏襲しています。
 

6)クリエイターへの支払いを視聴者層から切り離す

 
他の多くのプラットフォームとは異なり、TikTok Creator Fundはコンテンツと商業的な必要性を切り離しており、この動きはハンク・グリーンが研究してきたものです。TikTokに関しては、Creator Fundの支払いはエンゲージメントと再生回数で決まっています。対照的に、動画に表示された広告収入の55%をクリエイターに支払うYouTubeでは、広告主が好む富裕層の視聴者に向けてコンテンツを制作するインセンティブが発生しています。広告料が高く、広告主が求める視聴者が増えるほど、クリエイターはますます動画で稼ぐことができるようになります。同様に、Instagramにはアフィリエイトリンクとブランドスポンサーシップという一般的なマネタイズモデルがあるので、クリエイターには高収入のオーディエンスに迎合するインセンティブが発生しています。
 
ハンク・グリーンはCreator Fundについて、「裕福なオーディエンスを抱えている人が、貧しいオーディエンスを抱えている人よりも自動的に多く稼げるわけではない」と書いています。Creator Fundの「急進的な平等主義」は、最高の支出を生み出したクリエイターではなく、最高のエンゲージメントを生み出したクリエイターに報酬を与えることに由来しています。
 
コンテンツ制作の場がすでに不平等であるため、より裕福なクリエーターに金銭的な報酬を与えるだけではなく、意図的にシステムを設計することが重要です。
Journal of Computer-Mediated Communicationに掲載された2013年の論文によると、「オンラインコンテンツのクリエイターは、比較的特権的グループの出身である傾向がある」ということがわかりました。この論文ではその理由を掘り下げてはいませんが、一般的に起業家精神を妨げている広範な理由、つまり資本へのアクセス財務リスクを取る能力が関係しているのではないかと推測しています。
 

7)クリエイターが熱狂的なファンからマネタイズできるようにする

サブスクリプションとファンによる寄付(投げ銭)は、適度なオーディエンスサイズのクリエイターであっても、かなりの金額を稼ぐことができます。ファンからのこうした直接的な支払いモデルは、規模やリーチに応じて報酬を得る広告ベースのモデルとは対照的に、スーパーファンのマネタイズを促進します。YouTubeでは、クリエイターは再生回数1,000回で3ドルから5ドルしか稼げません。対照的に、Twitchのサブスクリプションは、月額4.99ドル、9.99ドル、24.99ドルと段階的に設定されています。Twitchのサブスクライバーがそれぞれ1回視聴するとして、YouTubeのRPM(訳注:Revenue Per Mille, 1,000回あたりの収益)の少なくとも1,000倍以上のマネタイズ率となります。
 
さらに一歩進んで、Streamlootsを利用することで、ゲーム実況者はスーパーファンをもっと高いレベルでマネタイズすることができます。平均的な購入者は、Streamlootsの実況者とのデジタルインタラクションに月26ドルを費やしているのと比較して、Twitchの月額は6ドルです。両方のプラットフォームを利用している実況者の場合、Streamlootsは総収益の62%を占めていますが、購入者数は全体の27%にすぎません。顧客は、サブスクリプションを通じた受動的なサポートを示すのではなく、クリエイターとの距離を縮めるためにより多くのお金を使いたいと考えています。
 
オーディエンスサイズからマネタイズを切り離すことができる他のタイプのプロダクトにはどのようなものがあるでしょうか?サブスクリプションファンコミュニティ(MightyCircleなど)、クリエイターへの有料アクセス(CameoLoopedOnlyFansなど)、コースや電子書籍などの価値の高い商品の販売は、オーディエンスが少ないクリエイターが成功するのを助けることができます。私のエッセイ「100人の真のファン」は、ケビン・ケリーの名文「1,000人の真のファン」をアレンジしたもので、小規模な顧客ベースでマネタイズするクリエイターのための指針を示しています。
 

8)クリエイターに受動的な収入機会を創出する

 
現実の世界では、アメリカの中流階級の仕事といえば、小学校の先生、トラック運転手、看護師、販売員などが一般的です。これらの職業の共通点は何でしょうか?限界コストがゼロではないこと、つまり、1人多くの患者を治療したり、1つ多く売上を上げるためには、より多くの時間と労力が必要になります。この力学が顧客数に天井を作り、結果として収益の均等化効果をもたらします。これは、クリエイターが視聴者数を1人追加した際の限界コストがゼロであるデジタルコンテンツの世界とは対照的です。
 
限界コストがゼロに近いことで、デジタルスーパースターが大量の視聴者を獲得する一方で、限界コストがないことは、限界的な労力や時間をかけずにデジタルグッズを販売することができる新興クリエイターに有利に働くこともあります。たとえば、クリエイターがソフトウェア、電子書籍、PDFなどのデジタル商品を販売できるECサイトGumroadでは、収益に極端なべき乗則が働いています。2020年9月にいくらかでも稼いだ19,480人のクリエイターのうち、その月に1,000ドル以上稼いだのは9%、1万ドル以上稼いだのは1%、10万ドル以上稼いだのはわずか10人(0.05%)でした。収入が大きく集中している一方で、すべてのクリエイターにとって、(最初にプロダクトが作られた後は)売上は受動的な収入であるため、時間をかけずに収益を拡大させることができます。収入が再生回数などに応じて増えていくのであれば、クリエイターは他の収入源に時間を割くことができ、様々な収入源のポートフォリオを作ることができます。
 

9)クリエイターにベーシックインカムを提供する

 
ユニバーサルベーシックインカム(UBI)は、理論的には政府の公的プログラムであり、資格や要件なしにすべての国民に定期的に支払われるものであり、急激に関心が高まっています。
 
UBIのような政策は経済学者から広く支持されており、1995年のアメリカの経済学者を対象とした調査では、78%が負の所得税(一定の閾値以上の所得者は国にお金を支払い、それ以下の所得者はお金を受け取る)に沿って政府が福祉制度を再構築すべきだという提案を支持していることが示されています。2020年3月のCovid-19を受けて、米国ではUBIに似たCARES法が可決され、成人1人につき1,200ドル、子供1人につき500ドルの直接現金給付が行われました。オーストリアでは、政府がフリーランスのアーティストを支援するために9,000万ユーロの基金を設立し、15,000人のアーティストに毎月1,000ユーロの補助金を6ヶ月間支給しました。
 
クリエイタープラットフォームがユニバーサルクリエイティブインカム(UCI)を検討するのはなぜなのでしょうか?コンテンツクリエイターに限った話ではありませんが、アメリカ人の71%が従業員であることよりも自営業を好むと回答しているにもかかわらず、人々が自営業に踏み切らない理由はたくさんあります。最大の障害となっているのは、当然ですが金銭的なものです。Freshbooksの2019 Self-Employment in America Reportによると、自営業に対する最大の障壁は次のようなものであることが明らかになりました。「収入が安定しないことを心配している」(35%)、「投資する現金がない」(28%)、「収入が少ないことを心配している」(27%)
 
より多くのクリエイターにコンテンツ制作に専念してもらうためには、ベーシックインカムを提供することが賢明な戦略かもしれません。TikTokのCreator Fundの発表は、この気持ちを反映しています:「この米国ファンドは、革新的なコンテンツを通じて生計を立てる機会を求めている野心的なクリエイターを支援するために、2億ドルでスタートします。」
 

10)クリエイターに教育とトレーニングを提供する

クリエイターのコラボハウスが、共有された学びやアイデアの交換によって参加者のレベルを高めるのと同じように、プラットフォームはこれらの学びを促進し、クリエイターが成功するために何ができるかの提案や指針を提供することができます。
 
Taylor LorenzのHype Houseに関する記事では、「Charli (D'Amelio)もまた、自分のクリエイティビティを広げ、vlogのような新しいコンテンツフォーマットへの進出を支援してくれたこのグループに感謝しています。部屋に1人でいたらできなかったかもしれないようなことを、自分のコンフォートゾーンを抜け出してトライしています。」と述べられています。
 
中国では、インフルエンサーインキュベーターはこうしたアングルの教育は次のレベルに進んでおり、インフルエンサー(キーオピニオンリーダーまたはKOL)の育成、成長、マネタイズに焦点を当てたマルチステップモデルを持っています。2019年4月にIPOした業界リーダーのRuhnnは、コンテンツの作成方法、フォロワーとのエンゲージメント、メイクアップなどのトレーニングを含む一連のサービスを新進気鋭のKOLに提供しています。ファンをKOLたちのオンラインストアの顧客に誘導したり、商品デザインから顧客サービスまで、すべてのEコマースロジスティクスを管理したりするという形でマネタイズをしています。2018年、Ruhnnが契約する113のKOLは総売上で20億元(3億ドル)を生み出し、様々なソーシャルチャンネル間で1億5,000万人近くのファンを獲得しました。
 
米国でクリエイター教育がどのようにプロダクト化されているか、ここでいくつかの例を紹介しましょう。
 
年間10億ドルの支払いを誇るオールインワンコースプラットフォームのKajabiでは、目標と次のステップについて顧客とともに戦略を練るカスタマーサクセスチームと同じように、オンラインビジネス構築のためのコースを提供するKajabi Universityなどの教育リソースを提供しています。
 
SubstackのBridgeメンターシッププログラムは2ヶ月間のプログラムで、新進気鋭のライターと実績のあるライターをペアリングするものです。このプログラムでは、メンティは「編集戦略とビジネスの支援を受け、ライティングスタイル、フィードバックの求め方、自分の価値の位置づけなど、クリエイティブなスキルを磨くことができる」と約束しています。
 
On Deck Fellowshipはクリエイター教育の一形態であり、ポッドキャスターライターのためのフェローシップです。どちらも教育的なプログラム、一流のクリエイターとのセッション、仲間のコミュニティで構成されています。
 

不平等を推進する力

 
アメリカでは過去半世紀にわたって中流階級が四面楚歌の状態にあり、1971年から2011年までに10%も縮小しています。賃金の低迷という現象は、医療や育児など中流階級の安全保障上の重要な要素にかかるコストの上昇を伴っており、これは「中流階級の搾取」と呼ばれています。アメリカ人の約半数が、彼らが若かった時代よりも中流階級の収入を得ることが難しくなったと考えています。
 
現実の世界とクリエイターの世界の両方で不平等が拡大している主な要因は、高所得者層が持っているレバレッジです。急速な技術進歩によって、スキルのある労働者には賃金にプレミアムが上乗せされる一方で、スキルの低い労働者はオフショアリングや自動化の増加にともない、仕事を見つけることにさえ苦労しています。OECD加盟国の中では、米国が最も高いスキルプレミアムを享受しています。
 
クリエイターの間にも同じ力学が存在しています。たとえばTwitchでは、他のストリーミングプラットフォームに移動して視聴者にフォローを促すことができるレバレッジを持っているトップ実況者が、より大きな収益を維持することができます。平均視聴者数10,000人以上のトップ実況者は、サブスクライバーからの月額課金の70%を維持しているのに対し、小規模な実況者では50%となっています。
 
SaaSベースのクリエイターツール(Shopify、Teachable、Kajabiなど)は、基本的にクリエイターに対する逆進課税として機能し、トップクリエイターの場合は月額固定費が収入に占める割合が少なくなります。そして一般的に、段階的に設定されたテイクレートはGMVの増加に応じて(または交渉によって)減少します。
 
多くの広告ベースのプラットフォームでは、広告収入へのアクセスは、すでにオーディエンスを獲得しているクリエイターのためのものです。たとえば、YouTubeのパートナープログラムの資格要件には、過去12ヶ月間に4,000時間以上の公開視聴時間があり、1,000人以上のチャンネル登録者がいることが含まれます。スポンサー契約がポッドキャスターとブランドの間で直接交渉されることが多いポッドキャスティングの世界では、大多数のポッドキャスターは取り残されています。
 

より強力な社会、より強力なプラットフォームへの道

 
パッションエコノミーはクリエイターのレバレッジという概念に根ざしており、それを称賛しています。クリエイターは自分の個性を重視し、腐ることのないサービスや商品を提供しているため、完全に代替可能なギグワーカーよりも、プラットフォームに対して大きな力を発揮しています。(トップクリエイターは)他の様々なプラットフォームにアクセス可能であり、忠実なオーディエンス基盤を持っているので、プラットフォームはトップクリエイターにとどまり続けてもらえるようにインセンティブを与えて迎合しますが、これはプラットフォームを不平等な方向に向かわせてしまいます。課題は、トップクリエイターが持つレバレッジと、(トップタレントに正しくスポットライトを当てつつ)新規参入者を増やすことのバランスを取ることです。
 
社会やプラットフォームは、誰もが上昇志向を持ち、経済的な安心感を得て、学び成長できる道がその先にあるときに繁栄します。現実の世界でも、デジタルの世界でも、この道を築けるかどうかは私たち次第だということは何とも美しいことです。
 
※この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。