個人開発したWraptasを1年経たずしてスピード売却。開発者に聞くヒットするプロダクト作り

公開日
2021/10/04
みなさんはWraptasというサービスをご存知でしょうか?
 
Anotionと言ったら聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。(2021年9月にサービス名を変更)
 
Wraptasは2020年10月にリリースされた、Notionで書いた内容がそのままWebサイトになるノーコードのサービスです。公開している自分のNotionページを指定するだけで、編集した内容がリアルタイムにそのままWebサイトになります。
 
 
これまでもWordPressなど数多くのノーコードサイトビルダーはありましたが、NotionからWebサイトが作れるという新しさから、Wraptasはリリース時から話題になりました。(実は今ご覧になっているこのページも、Wraptasを使って公開されています。)
 
そんなWraptasは、先日ラクスル傘下のペライチに事業譲渡したことを発表。ペライチが持つ予約・決済・フォーム・メルマガなどのSaaS機能をWraptasに提供することを視野に入れた買収です。
 
 
今後、Notionの日本ユーザーが増加するにともない、利用者の増加が期待されるWraptas。買収というひとつの節目を迎え、Wraptas開発者の渡邊 達明さんにスタタイが取材しました。
 

 
 

💡 個人開発したWraptasを、1年経たずして事業譲渡した背景

 
2020年の10月にWraptasをリリースされましたね。相当早い段階での事業譲渡になったと思いますが、ペライチ傘下に入ることの意図はなんですか?
 
サービスの構想開始が2020年の6月ごろで、そこから4ヶ月ぐらいかけて作って一旦ローンチしました。
 
1年経った今でもサービスとしてまだまだ不十分な点はあるんですけど、それでもユーザーさんがついてきてくださって、個別にカスタマイズの相談に乗ったりしながらここまでユーザーさんと一緒に作ってきました。ユーザーさんのことを考えると、このまま1人で運営するのはあんまり良くないなというのがあって。たとえば私が病気にでもなったらサービスは止まっちゃうので、ペライチと一緒になることを決めました。
 

買収のきっかけを作ってくれたのはけんすう氏

 
ペライチからアプローチを受け始めたのはいつごろでしたか?
 
今後を見据えて、組織をゼロから作るか、どこかの組織に加えてもらうかを考えているというブログを構想開始から1年経ったときに書いたんですよ。
 
 
そうすると、アル株式会社のけんすうさんが「ラクスルさんとか買収したらいいのに...」って過去にツイートしてくださっていて。それだけじゃなく「ラクスルの社長紹介しますよ」ってDMしてくださいました。
 
 
そしてけんすうさん経由でラクスルさんに話がいって、「ラクスルグループのペライチならWebサイト制作をやってるからそこで一緒になるのはどうか」という話になりました。これが今年の7月くらいですかね。
 

なぜペライチを選んだのか

 
ペライチからの提案で、どういう部分が魅力的でしたか?
 
ペライチの創業メンバーとは知り合いだったので、なんとなく為人はわかっていたという安心感がまずありましたね。
 
また、そもそもSNSなどのWebサービスと、こういったWebサイト制作サービスは結構違いがあるんですよ。ユーザーの独自ドメイン当てたりするのには特殊な部分が多くて。ペライチさんは相当長い間Webサイト制作サービスを運営されているので、そういったノウハウがかなり貯まっており、アドバイスをいただけるだろうなというのもありました。
 
もう1つは、ラクスルから出向してペライチのCOOをやっている安井さんという方と事業譲渡に関する話をしていたんですが、事業をグロースさせるということに対しての解像度が安井さんはすごく高くて。
 
彼と話していると「今後こういうふうにすればWraptasはもっと伸びるはずだ」みたいな気持ちが生まれてきまして、一緒にやっていきたいと思いました。
 
ペライチだけでなく、ラクスル自体もグロースに強みがある組織なのも良かった点ですね。
 
個人開発では難しかったけれど、ペライチと一緒になったからこそ実現したい機能はありますか?
 
現状ペライチにある機能の決済機能とか予約機能は、ホームページを作るだけじゃなく、さらにその先にあるビジネスとしてのコンバージョンポイントを作っているんですよ。
 
なのでそのあたりの機能をWraptasでも実現できると、ユーザーさんが単純にサイトを作るだけじゃなくてビジネスに地続きで繋げていけるようになるかなと思うので、ここは挑戦したいことの1つですね。
 
いちユーザーとして決済機能は特に気になります。たとえば、このページは課金ページ、このページは非課金ページというふうに作れたりするんでしょうか?
 
まだグループインしたばかりで、どういう形にしていくかは固まっていないんですけど、そういった機能は実現できると良いなと思っています。
 

特筆すべき瞬間はなく、とにかく地道にコツコツと開発を続けた

 
ここ1年ほど開発を続けてこられて、ご自身ではここまでの進捗をどう感じていますか?
 
やれることをひたすらやっていたというのがあって、自分が何か特別技術的に難しい点をクリアして進めていったという感覚は特にはありません。
 
コツコツ地道に地道にやり続けました。カスタマーサポートをやりつつ、新規機能の開発をやりつつ、地味に続けていって事業譲渡という結果につながったのは良かったなと思っているんですが、すごいことをやり遂げたという感覚はないです。もくもくとやっていたらこうなっていた、というのが正確な表現ですね。
 

今後のサービス展開

 
今後はNotionの事業対応エリアのグローバルを視野に入れた事業展開を検討している、とリリースにありましたが、これは英語化を検討しているということでしょうか?
 
そうですね。Notion自体がグローバルに使われているプロダクトなので、市場もグローバルにしていければかなり大きいものになると思うので、そのあたりもやっていければと思っています。
 
前月比でのユーザー数の伸び率は成長していますか? 解約率はどうでしょう?
 
伸び率は順調です。解約率も高くないんですが、BtoB SaaSと比べるとそこまで低くはないかもしれません。BtoBのSaaSって解約率がかなり低いんですよね。それと比べちゃうとちょっと高いというのはあるので、そのあたりは改善していきたいポイントです。
 
現在のWraptasはtoCプロダクトという印象が強いですが、法人向けプランなども検討しているのでしょうか?
 
以前から考えていますね。今だと単純に1サイト980円ですけど、企業向けの機能をいろいろつけてアップセルしていくようなことができればとは思っています。それがペライチと一緒になったことで期待していることでもあります。
 
他にもヘルプページとして使ってくださっている企業さんも多いので、その検索機能をNotionでやるよりも自社で検索機能を作れるようにはしていきたいと思っていますね。
 

💡 Wraptas開発秘話

 
以前作ったサービスでは「自分の考え」だけで開発してしまい、全然使われなかったこともあったとおっしゃっている記事を拝見しました。 Wraptasはニーズの確認をしてから開発に取り掛かったのでしょうか?
 
そうですね。一旦プロトタイプを作って、そのままプロトタイプで公開しちゃって、「こういうサービスがどのくらいの価格だったら使いますか?どういう機能があったら使いたいですか?」みたいなアンケートをとらせてもらって、それを取り込みつつ作っていきましたね。
 
そもそもなぜ、NotionをWebサイトに変えるというアイデアを浮かべたんでしょう?Notionのファンだったんですか?
 
Notionはちょこちょこは使っていたんですけど、ガッツリというほどではありませんでした。Wraptasの開発きっかけで意外といろんな機能があることに気づき、面白いサービスだなと思いましたね。
 
自分は頻繁には使ってなかったけれど、周りが使ってそうだったので作ってみた。すると反応が良かった、という流れですか?
 
そうですね。
 
Wraptasの構想を開始したのは2020年6月ですよね。海外の類似サービスSuperは2020年5月に出ていますが、Superリリース時の反響を見てから開発してみようとなったんでしょうか?
 
Superの存在にはWraptasをリリースするまで気づいていなくて。Superってもともとはドメインを当てるだけで静的サイトにはしないサービスだったんですよ。
 
静的サイトに落とし込めるようなサービスを作れたらいいなと思ってたら、開発の途中でSuperも元のサービスと違う、同じ構想のものを出してきたという感じです(笑)
 
Wraptasは手厚すぎるサポートがユーザーの間で話題です。個人開発するなかで、正直時間を割くのは大変だったと思います。一体どんなモチベーションからあんなに手厚いサポートが生まれているのでしょうか?
 
自分の作ったサービスを使ってもらえるのがすごく嬉しいので、それをカスタマイズしてさらに良く使っていこうって言われたらめちゃくちゃ嬉しいじゃないですか。だからどんどんお手伝いするというのはあります(笑)
 
もう1つ、私がサービスを作る上で軸にしていることがあって。私はものづくりがすごく好きなので、ものづくりを支援していけるようなサービスを作っていけたらいいなと思っている部分があって。
 
私が以前作った「ためしがき」だと、いろんなフォントを使ってサービスを作ったり同人誌を作ったりする人がフォントを比較する手間を省いてあげられるようなサービスとして作りました。
 
 
今回作ったWraptasもその軸に沿っていて、Webサイトを作るのはハードルが高いので、そのあたりをサポートできるようなサービスを作りたいという思いがありました。
 
カスタマーサポート自体もその延長線上にあって、ユーザーさんのものづくりを支援することはもともと自分のライフワークみたいなものです。
 
ペライチ自体の思想も、サイトを作るだけにとどまらず、経済活動に繋げていくことで継続的にものづくりをすることができるというものだったので、思想の部分でもペライチにジョインすることにはポジティブな面がありました。
 
ご自身ではWraptasのどんなところを気に入っていますか?
 
とにかく更新が楽なことですね。Notionで運用できるという点が既存のノーコードサービスのなかでも図抜けて便利です。Notion自体のエディターが素晴らしいので、それをしっかり生かした形でサービスを開発していければと思っていますね。
 
その上でスタイルをしっかりカスタマイズできる点も気に入っています。個別のスタイルをいろいろ設定できるようなクラスをつけたりとか、スクリプトを挿入できるようにしてJavaScriptを使えるようにしたりとか、自分自身でカスタマイズすることで可能性を広げていけるのがWraptasの良いところだと思っています。
 
渡邊さんが経営する株式会社クリモは他社のWebサイト制作などもやってらっしゃいますが、Wraptasに割く時間は成長するにつれて多くなっていきましたか?
 
最初のころは仕事をしながらWraptasの開発をしていたのですが、今年の4月くらいからはガッツリ減らしてWraptasの開発にコミットするようになりました。9月からは他の仕事はほぼゼロでWraptasにフルコミットしています。そのままペライチにジョインして、フルタイムで今月から働くことになりますね。
 
今後実装していく予定の機能を何か教えていただけませんか?
 
GUIでマウスでポチポチするだけでサイトの見た目を変更出来るようにしていきたいですね。ゆくゆくは、CSSさえも書かずにデザインできるプロダクトにしていきたいと思っています。
 

💡 増加する個人開発プロダクトの買収

 
🖋️
今年の2月にはイラストコミッションサービスの「Skeb」が実業之日本社に10億円で事業譲渡したり、エンジニアのための情報共有コミュニティ「Zenn」がクラスメソッドに売却を発表したりと、VCなどの外部資金を調達することなく個人開発したプロダクトが大企業に買収される事例が増えています。 ここにWraptasも加わるにあたり、個人開発でヒットするコツをお聞きしました。
 

ヒットするプロダクトを生み出すには、数多く作るのが大前提

 
渡邊さんはWraptas以外にも「ためしがき」や「アプリーチ」など、バズるプロダクトをコンスタントに出している印象があります。 それだけユーザーの需要を捉えられているということだと思うのですが、ユーザーが欲しがるものを作るコツはありますか?
 
全然バズらなかったプロダクトもいっぱい作っているので、まずは数多く作ってみることは必要なことだと思います。
 
アプリーチはブログパーツを作るサービスで、妻がブログを書いていて困っている点があったので、それをサービスに昇華したものです。すると他の人も同じ課題で困っていて使われ始めました。
 
自分だったり、自分の近くの人が困っていることを解決するような観点から見ると確実にその人は使いますし、その人と同じような課題を持っている人は結構いるので。
 
そういう目の付け方をすると、ちゃんと使われやすいかなと思いますね。
 

人の課題起点で作っても失敗するときはある。だからこそ中途半端な状態でもリリースして世に問う

 
人の課題を起点に作ったつもりでも失敗したプロダクトはありますか?
 
そうですね。作ってみてから「別にそこまでして解決したいほどでもない」という反応になってしまったものはあったと思いますが、まずは数を打ってみることが大事ですかね。
 
あとは中途半端な状態でもまずは出してみて世の中に反応を問う。リーンスタートアップ的な考えも結構大事だと思っていて。
 
やっぱり個人開発だと、スケジュールは全部自分で決められるのでやりたいところまでやっちゃいがちなんですよ。自分が思う100%のところまで作りきってから出しちゃう。でもそれだと、いつまでたってもローンチできないですし、時間がかかっちゃって結果使われないとなると悲しい。
 
だから途中の状態でもいいので、今で言うMVP(編集注:Minimum Viable Productの略。実用に耐えうる最小限の製品)を作っていくというスタイルだと成功確率が上がるかなと思います。
 
Wraptasも、初期はフリー素材を組み合わせたデザインのLPを出していて。ローンチから2ヶ月後くらいに知り合いのデザイナーさんに依頼して、ちゃんとしたデザインのLPを作ってもらって差し替えるみたいなことをやってましたね。
 
プロダクト自体も、CSSが入力できるくらいでした。パーマリンクの設定はできませんでしたし、ヘッダーのカスタマイズもロゴを入れられるくらいで、最初は本当に最低限って感じでしたね。
 

個人開発者へのメッセージ

 
個人でサービスを作っていても多くの人に使われる可能性はまだまだありますし、便利なPaaSやSaaSの登場で少人数で作ること自体のハードルも下がっています。
 
私も今まで使われないサービスをいくつも作ってきて、それもとても楽しかったですが「使われるサービスを作ること」はもっと楽しいですので、めげずに作り続けて欲しいと思います!