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アンチの対処法

Created
2021/2/7 2:45
date
2021/02/07
title
アンチの対処法
category
翻訳
タグ
Paul Graham
(元々これはスタートアップの創業者に向けて書いたもので、彼らは会社が成長するにつれて注目されることに驚くことが多いのですが、有名になる人ならだれでも同じように当てはまるエッセイです。)
 
十分に有名になると、自分のことを好きすぎるファンを獲得することがあります。そのような人たちは「ファンボーイ」と呼ばれることがあり、私はその言葉は嫌いなのですが、ここでは使わざるを得ないので使うとします。これは、単にあなたの仕事・作品が好きな人とは一線を画している現象なので、彼らを表現するための言葉がいくつか必要です。
 
ファンボーイは執着心が強く、批判的ではありません。あなたを好きでいることがアイデンティティの一部となっており、現実よりもずっと良いあなたのイメージを彼らの頭の中に作り上げてしまうのです。あなたがすることはなんであれ、あなたがしていることなので良いことなのです。もしあなたが悪いことをしたとしても、彼らはどうにかしてそれを良いことと見なそうとします。そして、彼らのあなたに対する愛情は、通常静かなものでもプライベートなものでもありません。彼らは、あなたがどれだけ素晴らしい人間かを皆に知ってもらいたいのです。
 
まあ、こんな執拗なファンがいなくても大丈夫だとあなたは思うかもしれませんが、私は世の中にいろんな人がいるのを知っていますし、これが名声の代わりに得る最悪の結果だとしたらそこまで悪いことではありません。
 
残念ながらこれは名声の代わりに得る最悪の結果ではありません。ファンボーイを獲得するのと同様に、あなたはアンチも獲得することになります。
 
アンチは執着心が強く、批判的ではありません。あなたを嫌いでいることがアイデンティティの一部となっており、現実よりもずっと悪いあなたのイメージを彼らの頭の中に作り上げてしまうのです。あなたがすることはなんであれ、あなたがしていることなので悪いことなのです。もしあなたが良いことをしたとしても、彼らはどうにかしてそれを悪いことと見なそうとします。そして、彼らのあなたに対する嫌悪感は、通常静かなものでもプライベートなものでもありません。彼らは、あなたがどれだけひどい人間かを皆に知ってもらいたいのです。
 
確認しようと思っているなら、私が手間を省いてあげましょう。第二段落と第五段落は、「良い」が「悪い」に切り替わっていることなどを除けばまったく同じです。
 
私は何年もの間、アンチのことで頭を悩ませていました。アンチとは何なのか、どこから来たのか。そしてある日ピンときたのです。アンチとは、サインが切り替わっただけのファンボーイなのです。
 
アンチとは、単に荒らしのことではないことに注意してください。あなたの悪口を言って去っていく人のことを言っているのではありません。私が話しているのは、これがある種の強迫観念のようなものになって、長期間にわたってそれを繰り返している人たちの小さいグループのことです。
 
ファンと同じように、アンチも名声の結果として自動的に現れるようです。十分に有名になれば、誰だってアンチを抱えることになります。そしてファンと同じようにアンチは嫌っている人の名声によってエネルギーを得ています。彼らはポップシンガーの歌を聞きます。彼らはその曲があまり好きではありません。もしその歌手が無名の歌手だったら、彼らはただ忘れてしまうだけでしょう。しかし、その代わりに彼女の名前を聞き続けることになると、それが一部の人を狂わせるようです。「みんなこの歌手のことばかり話題にしているけど、彼女は全然ダメだよ!彼女は詐欺師だ!」
 
「詐欺」という言葉は重要な意味を持っています。憎しみの対象を詐欺師と見なすのはアンチの特徴です。彼らは対象人物の名声を否定できないのです。実際、アンチの心の中では、彼らの名声はどちらかといえば誇張されているのです。彼らは歌手の名前が出てくるたびに気がつきますが、なぜかというと、その歌手が言及されるたびに腹を立てているからなのです。自分の心の中では、歌手の名声と彼女の才能のなさの両方を誇張しており、その2つを彼らの中でつじつまを合わせようとするなら、彼女がみんなを騙しているのだと結論づけるしかないのです。
 
どんな人がアンチになるのでしょうか。誰でもなりうるのでしょうか?
私にはよくわかりませんが、いくつかのパターンがあることに気がつきました。アンチは一般的に、きわめて特定の意味での敗者です。:彼らには才能がある場合もあるが、大したことを達成したことはありません。そして実際に、大きな名声を得るほどに成功した人は、それを理由に他の有名人を詐欺師とみなすことなどまずしません。なぜなら有名な人ならだれでも、名声がいかにランダムなものであるかを知っているからです。
 
しかし、アンチたちはいつも負け犬というわけではありません。彼らはことわざにあるような、実家にひきこもる人(原文:guy living in his mom's basement. 訳注:mom's basementはいわゆるひきこもりを揶揄した海外の言い回し)ではありません。多くの人はそうなのですが、なかにはある程度の才能を持っている人もいます。実際には、その才能に不満を感じているからこそ、アンチになってしまう人もいるのではないでしょうか。彼らは「あの人が有名なのは不公平だ」ではなく、「私ではなくあの人が有名なのは不公平だ」と言っているのです。
 
偉業を成し遂げればアンチは治るのでしょうか?私が思うに、議論の余地すらないと思います。なぜなら、彼らが偉業を成し遂げることなど絶対にありえないからです。私は長い間、観察できる立場にいるのでこのパターンは次のどちらにも当てはまると確信しています:素晴らしい仕事をする人がアンチには絶対ならないだけではなく、アンチは絶対に素晴らしい仕事をしないのです。私は「ファンボーイ」という言葉が嫌いなのですが、この言葉は、アンチとファンボーイの両方について重要なことを連想させます。それは、ファンボーイがきわめてわかりやすい賞賛の仕方をしているので、結果的に一人前の男(a man)以下の存在になってしまったことを暗示しているのです。
 
アンチはさらに衰退しているように見えます。ファンボーイでいることなら私は想像できます。
私が愛している作品を作った人たちを私は思い浮かべることができ、その人たちの前では純粋な感謝の気持ちから自らへりくだることができます。もしP.G.ウォードハウスがまだ生きていたら、私はウォードハウスのファンボーイになっていたかもしれません。しかし、アンチになることは想像できません。
 
アンチはスイッチが入れ替わっているだけのただのファンボーイであることを知っていると、対処するのがとても楽になります。アンチについての別の理論は必要ありません。執着心の強いファンに対処するための前からあるテクニックを使えばいいのです。
 
そのなかで最も重要なのは、単に彼らのことをあまり考えないということです。もしあなたが、アンチを抱えるほど有名になったほとんどの人と同じなら、最初の反応はある種神秘的なものになるでしょう。なぜこの男は私に憎しみを抱いているように見えるのだろうか?彼の執拗なエネルギーはどこから来ているのだろうか?そして何が彼をひどく意地悪にしているのか?私は彼を触発するようなことをしたのか?それは私が直せるものなのか?
 
ここでの間違いは、アンチを議論の相手と考えることです。あなたが誰かと論争しているとき、彼らがうろたえている理由を理解しようとし、可能であれば物事を修正しようとすることは通常良い考えです。論争は気が散るものですから。しかし、自分がアンチに対応しているのだとわかった場合、そしてアンチとはどんな人間かわかった場合、彼らのことを考えることすら時間の無駄であることは明らかです。執着心の強いファンがいる場合、「何で彼らは私を異常なほど愛しているのだろうか」と考える時間なんてありますか?いや、「なんだかおかしい人もいるんだな」と思って終わりです。
 
アンチはファンボーイと同じなので、彼らもそうやって対処することです。もしかすると触発するきっかけがあったのかもしれません。でもそれは普通の人なら怒ったりするようなことではないので、それについて考えて時間を無駄にする必要はありません。あなたではなく、相手が悪いのです。
 

注釈
 
[1]もちろん真の詐欺師もいます。XがアンチだからYを詐欺師と言っているのと、Yが本当に詐欺師だからそう言っている場合、どうやって区別できるでしょうか?中立的な意見を見てください。実際の詐欺はたいていかなり目立ちます。思慮深い人はほとんど相手にしません。思慮深い人の中にYが好きな人がいたら、基本的にYは詐欺師ではないと思っていいでしょう。
 
[2] 10代の若者は例外ですが、彼らは時々、文字どおり自分自身ではないような極端な行動をとることがあります。10代の子供がアンチになり、成長してそれを卒業するのは想像できます。しかし25歳以上にはこれはまったく当てはまりません。
 
[3] 性格に目が肥えている妻のジェシカよりも、私の方が悪行の記憶力はずっと悪いのですが、それが良くなればいいとは思いません。たいていの論争はあなたが正論を言っていても時間の無駄ですし、なぜ怒っていたのか思い出せなかったら相手と一緒に矛を収めるのは簡単ですから。
 
[4]有能な嫌われ者はあなたを個人的に攻撃するだけでなく、あなたを追いかけてモブを獲得しようとします。場合によっては、そのために彼らがどんなインチキな主張をしたとしても反論したくなるかもしれません。しかし、最終的にはどうでもいいことなので、反論しない方がいいでしょう。
 
このエッセーの下書きを読んでくれたオースティン・オーレッド、トレバー・ブラックウェル、クリスティン・フォード、ジェシカ・リビングストン、ロバート・モリス、ピーター・ティールに感謝します。
 
原文:Haters by Paul Graham
 
この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。