VCに社会人経験は求められるか

公開日
2021/09/07
グロービスキャピタルパートナーズ代表パートナーの高宮 慎一さんにベンチャー投資にまつわる話をお伺いする、5回にわたる連載。
 
第4回は「VCに社会人経験は求められるか」について高宮さんの考えを伺いました。
 
高宮 慎一 グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー コンシューマ、ヘルスケア領域の投資担当。Forbes 日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング 2018年1位、2015年7位、2020年10位。東京大学経済学部卒、ハーバード経営大学院MBA。 投資先実績はIPOはアイスタイル、オークファン、カヤック、ピクスタ、メルカリ、ランサーズなど、M&Aはしまうまプリントシステム、ナナピ、クービックなど、アクティブな投資先にはタイマーズ、ミラティブ、ファストドクター、グラシア、アルなどがある。
 
「VCに社会人経験は求められるか?」という話題は、ソーシャル上でたびたび議論が繰り広げられて炎上したりもしていますが、第一線で活躍する高宮さんはどうお考えでしょうか?
 
可燃要素が強くて、怖い話題ですね(笑)
 
「VCになるなら社会人経験があった方がいいですか?新卒の方がいいですか?」ってすごいよく聞かれる質問です。元も子もないんですが、その質問の真意次第だと思うんですよね。
 
VCになって、すぐ立ち上がりたい、効率的に結果を出したいなどの、”勝率”を気にした上での狭義の質問だったら、当たり前ですが経験を積んでからのほうが良いと思います。ハードスキル面での成功確率だけ考えたら、戦略とかファイナンスとか前職の経験からの得意技、ここだけは経営者にバリューアッドできるという領域がある方が有利です。バリューアッドを前提とすると、VCは総合格闘技みたいなもので、起業家が悩むあらゆる領域や事業ステージのことに対して、正解がないまでも壁打ち相手になれるのが目指す姿です(そんなの難しく、永遠に完成しないので、日々常に成長なのが楽しいところでもあります)。
 
一方で、VCに対して、めちゃくちゃ想いがあって、すでにVCをやるぞ!って覚悟が決まってて、気合いでやり抜くぞっていう状態なら、もうやることが決まっているので早くやったほうが良いということだと思います。必要なハードスキルなどは、想いがあること=VCをやりながら身につけていけばいいんだと思います。やりたいスポーツが決まっているなら、そのスポーツの練習をしながら、必要なところだけ筋トレすればいいとう話だと思います。やりたいスポーツが決まっているので、むやみに全身筋トレする必要ないですよね。
 
なので、勝率を気にするならレベル上げをしてから魔王城に突入すればいいし、魔王城を冒険するの楽しい~ということであれば、うまく魔王城を進むのとレベルを上げるのを同時平行でやればいんだと思います。
 
ただ、本質的なVCの向き不向きって、ファイナンスとかマーケティングみたいな具体的なハードスキルではないと思ってるんですよね。VCは「Entrepreneur behind Entrepreneurs、起業家の背後の起業家」みたいなところがあって、アントレプレナーマインドを持って事業機会を見つけるとか、すごく人が好きだとか、好奇心旺盛で成長意欲が高いみたいな起業家的な行動特性の方が、ハードスキルより大事だと思っています。
 
そして、2、3年で短期的に結果が出る仕事ではなくて、ある案件をアーリーから投資すると7年とかかかっちゃうし、7年やって一通り経験してようやく1回転みたいな感覚はあります。その7年間でボディブローのように効いてくるのがそういう行動特性だと思います。なので、スタート地点でハードスキルを持っているというのは、ないよりはあった方が良いですし、スムーズにVCを開始できるのですが、長期的 / 最終的にはそこまで効かないと思うんですよね。
 
あとは、VCも起業家や経営者と一緒で、自分が担当する案件のポートフォリオは、うまくいってもいかなくても、自分が全責任をもつことになります。すると、自身のキャピタリスト事業をどう大きくしよう、どう競争優位を作ろうかみたいな経営者目線になることが大切だと思います。自分が最後にケツを持って、オーナーシップを持って価値を出すんだというトップに立つ意識が、VC事業の経営者として大事だし、その経営者目線が起業家と通じあえるのだと思います。
 
何よりもそのオーナシップ意識、経営者目線が大事なので、それがあるならまっさらな更地で、起業家としてVC事業を起業しても全然勝率は高いと思います。
 
起業も同じですよね。「起業するなら、社会人経験を積んだ方がいいのか」という質問が多いです。
 
やりたくてやりたくて仕方がなくて、パッションがあって、事業機会も見えてるんだったらもうさっさとやっちゃった方がいいし、やりながら必要なスキルを身につけた方がいい。テーマが定まっていないとか迷いがあるなら、テーマを探しつつ、その間スキルを上げてからでもよいと思いますね。