ベンチャーキャピタリスト高宮慎一のこれまでとこれから
公開日
2021/09/11
著者
グロービスキャピタルパートナーズ代表パートナーの高宮 慎一さんにベンチャー投資にまつわる話をお伺いする、5回にわたる連載。
最終回となる第5回では、「ベンチャーキャピタリスト高宮慎一のこれまでとこれから」について高宮さん自身に語っていただきました。
高宮 慎一
グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー
コンシューマ、ヘルスケア領域の投資担当。Forbes 日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング 2018年1位、2015年7位、2020年10位。東京大学経済学部卒、ハーバード経営大学院MBA。
投資先実績はIPOはアイスタイル、オークファン、カヤック、ピクスタ、メルカリ、ランサーズなど、M&Aはしまうまプリントシステム、ナナピ、クービックなど、アクティブな投資先にはタイマーズ、ミラティブ、ファストドクター、グラシア、アルなどがある。
VCになることは最良の選択だとは思っていなかった
高宮さんは最初から、自分はVCとして生きていくんだという覚悟があったのですか?
セカンドベストな選択だと思って入社したら、想定以上にドンピシャだったというのが実体です。
僕は、いわゆる76世代なのでインターネットが登場し、ネットバブルに沸く中で大学時代を過ごしました。当時、面白いやつ、パンチ効いているやつは、みんなネットに熱狂し、起業をしていました。隣のゼミにmixiの笠原さんがいて、コンサル仲間の友達にGREEの田中さんがいたりとか。そして、当時インターネット好きのたまり場がありました。
ご縁みたいなものを感じるのは、そのたまり場がネットエイジ(ビットバレー運動などで、日本のスタートアップのエコシステムの源流となり、渋谷をスタートアップの集積地にするきっかけを作ったスタートアップ)で、グロービスに入ってから気付いたのが、グロービスの投資先だったので仮さん(仮屋薗さん)が社外役員をやっていたんですね。ちなみに、(松山)太河さんも役員でした。リアルタイムの自分の実体験と、日本のインターネットの歴史がクロスオーバーする不思議な感覚です。
経営のための修行だと思い、新卒ではコンサルへ
元の話に戻すと、僕もミーハーなんで「起業したい!」と思っていたのですが、「外さないテーマって何だろう、自分に経営ってできるんだろうか」と思い悩み、石橋をたたき割り、テーマを探そうと思い、経営できるようになる「修行」だと思ってコンサルに行っちゃったんですよね。
「起業したい、スタートアップに関わりたい」という大学時代に払えなかった怨念(笑)を抱えてコンサルに行ったわけですよ。それでコンサルに入って6年半くらい仕事をしていました。コンサルもめちゃくちゃ楽しいわけです。業界のリーディング企業の事業部長とか経企部長がカウンターパートで日々やりとりして、社長にプレゼンできて。ただ、自分のやりたいことじゃないと、世の中の一般的な軸でしか自分の幸せが測れなくなってしまいます。給料の多さとか、昇進の早さとか。でもその軸で行くと上には上がいるから、永遠に満足できないというラットレースに巻き込まれてしまいます。そんな思いを抱えて6年コンサルをやって、帰国子女でグローバルで何かしたいという想いがもともとあったので、MBAに行きました。
自分のマインドを変える上で、MBAの2年間は本当によかったです。学生に戻る2年間って、稼がなくてもいいという免罪符があるので、今までためらっていた起業をしてみようということになりました。
MBAが起業を後押しするも、サブプライムショックが到来
ボストンにある当時業界No.2のデザインファームのDesign Continuumというところでインターンしたりと、教授のスポンサーをつけて学校の単位をもらえるコンサルプロジェクトとしてDesign Continuumの日本進出戦略を提案してたんです。そして、1年と2年の間で日本に帰ってきたときにグロービス・キャピタルのインターンもしていたんですが、Design Continuumの日本オフィスを立ち上げるために、エンジェル投資家や日本のパートナーを探したりしました。そして、エンジェル、事業パートナーも見つかり、卒業後はその立ち上げにチャレンジできるところまで固まってきました。
ところが、ちょうど夏休みの終盤2007年にはファニー・メイが破綻するなど、アメリカでは先にサブプライムショックが来ちゃったんですよ。で、デザインファームってビジネスモデル的には、好況期に強い、前向きな成長戦略の案件が多いコンサルで、ターンアラウンドやコストカットなどがない不況期に弱いモデルなんですよ。なので、このタイミングで海外の新規事業なんてできないということになってしまった。それが卒業の2ヶ月前くらい。急に梯子が外れ、卒業後何しようかって感じになっちゃったんです(笑)
でも大学時代の通り、僕は石橋を叩き割るほどの慎重派なので(笑)、グロービスのオファーを引っ張っていたんですね。アメリカのVCやミューチャルファンドなども面接はしていました。自分の中で漠然とグローバルな仕事がしたいという想いはずっとあったんですが、Design Continuumのアメリカメンバーとして働かないかという話があったり、アメリカのVCに就職活動する中で、「自分の強みってアメリカで生きるのか?グローバルって何だろう?」って考えると、アメリカでデザインファームやVCに就職するって、実は場所が海外なだけで、ローカルビジネスなんだって気づいちゃったんですよね。
そして、グローバルとはどこかの国とどこかの国を橋渡しすることだと思うようになりました。じゃあ自分はどっちに軸足を置けば、世の中に出す価値を最大化できるかなと考えたときに、自分は6年イギリスにいたとはいえ子供時代のことで、ビジネス上役立つアセットなんてないわけですよ。日本のバックグラウンドの方が強いし、日本を何とかしたい、日本に貢献したいという想いが強かったんです。
だったら日本からメガベンチャーを作って、国際競争力がある新しい産業を作って、日本と世界を橋渡しする方がいいなと思って、当時はまだまだ黎明期にあった日本のVCに身を投じることにしました。
VCはクリエイティビティ溢れる最高の職業
自分が仕事に求めていた要素は、『アントレプレナーシップ』、『イノベーション』、『クリエイティビティのマネジメント』x『グローバル』だったんだと、自分の中で言語化できて、腹落ちできました。それは、うまくいかなかったものの、起業をしようと自分の想いに従って動き回ったからこそだと思っています。
『クリエイティビティのマネジメント』をやりたいと思ったのは、これからはクリエイティビティが好き、憧れている、企業の競争優位に直接効いてくるようになると考えていたからなのですが、入る前はVCにはそれがあんまり無いんじゃないかなと思っていたので、VCはセカンドベストだという風に当初勘違いしていました。
でも、いざ入ってみると、特にC向けの投資とかやっていくなかで、0→1はヒットorミスというクリエイターの世界だった。1→10、10→100とかって経営のサイエンス、仕組み化の世界なので、0→1の成功確率や再現性、効率を会社としてマネージするのってクリエイティビティのマネジメントそのものなんですよね。
最近は、さらに俯瞰して見ると、スタートアップそのものが、起業家というクリエイターが作る最高のクリエイティブ・プロダクトなんじゃないかと思うようになっています。そこをサポートするのってやりたかったことそのものだ!と思っています。
なのでセカンドベストに行かざるを得なかったけど、いざ行ってみたら、自分のやりたいこと、自分の得意なこと、社会的な要請があることのど真ん中だったんですよね。クリエイティビティのマネジメントがなさそうという当初の仮説が間違っていました(笑)
76世代として起業したかった自分の亡霊を除霊(笑)するというところでいくと、いつか自分で起業したいという淡い憧れとコンプレックスみたいなものもありつつ、2008年のまだまだ黎明期からVCというスタートアップの経営をしていると思うと、まさにアントレプレナリアルだなとも感じています。「次は数千億、1兆円を目指すスーパーブリッツスケーリングの時代だ」という自分の意志も込めたトレンドの読みがあり、自分が意志を持ってその世界を実現しようとすれば、自分が100億円投資すればよい、その世界の実現を自らで持っていけると思うと、めちゃくちゃやりがいもあるし、面白い立ち位置にいることができていると思っています。
経済的な面では、VCは当たっても起業家やバイアウトファンド、ヘッジファンドより儲からないけど、そういうロマンチシズムがVCのやりがい、最高の報酬だと思いますね。お金じゃない部分が大きい。新しいものを生み出せて世に貢献できるのがこの仕事の素晴らしいところですね。
【連載】ベンチャーキャピタリスト 高宮 慎一
第1回 投資を検討する際の黄色信号
第2回 VCの組織戦略
第3回 グロービスキャピタルパートナーズの主戦場
第4回 VCに社会人経験は求められるか
第5回 ベンチャーキャピタリスト高宮慎一のこれまでとこれから