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VCの組織戦略

Date
2021/09/01
グロービスキャピタルパートナーズ代表パートナーの高宮 慎一さんにベンチャー投資にまつわる話をお伺いする、5回にわたる連載。
 
第2回は高宮さんに「VCの組織戦略」について教えていただきました。
 
高宮 慎一 グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー コンシューマ、ヘルスケア領域の投資担当。Forbes 日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング 2018年1位、2015年7位、2020年10位。東京大学経済学部卒、ハーバード経営大学院MBA。 投資先実績はIPOはアイスタイル、オークファン、カヤック、ピクスタ、メルカリ、ランサーズなど、M&Aはしまうまプリントシステム、ナナピ、クービックなど、アクティブな投資先にはタイマーズ、ミラティブ、ファストドクター、グラシア、アルなどがある。
 
 

LPのインセンティブとVCの組織戦略

 
VCの組織戦略についてお伺いします。若手が成長すると独立を促すパターンもありますが、グロービス・キャピタル・パートナーズは違う戦略をとっているんですよね?
 
そうですね。VCに限らず、組織戦略はそれぞれの会社の事業戦略と組織フィロソフィーを反映したものなので、個社ごとにユニークさが出やすいので、面白いですね。
 
独立を促すという考え方は、基本的には今のGP体制はそんなに変えない、ジュニアからそのファンドのGP(ファンドの運営責任者、VCの経営者的位置づけ)になることはあまりない、育ってきたら独立するということかと思います。
 
グロービス・キャピタルの場合は、組織戦略としては、アソシエイト、シニアアソシエイトのジュニアから採用して、しっかり育てて自社のGPになってもらうことをゴールにしています。
 
一歩引いて客観的に見てみると、良い悪いではなく戦略オプションとして、2つのやり方が大きく違うのはVCの戦略論のケーススタディとしてすごく面白いと思っています。
 
まず、LP(VCファンドに投資する投資家)の立場で言うと、10年というファンドの期間の中で、GP体制を含めた”今の”ファンドに投資しているんですよね。わかりやすさのために極論を言ってしまうと(実際は色々なバランスを考えてくれているんですが)、”今の”ファンドに投資しているLPの優先順位としては、”今の”ファンドでリターンをしっかり出してほしいんですよね。
 
それをクリアすると、次のファンドでも同じようにリターンを出してほしいということになります。すると、再現性を担保するために、次のファンドも同じ体制でいくというのは合理的なんです。その時に、メンバーのモチベーション、成長機会を考えたときに、成長したら独立していくという道を用意しているということになります。独立すると、そばの「更科」ののれん分けみたいに、緩やかな集合体のファミリー / グループみたいなのができて、規模化していくし、シナジーも生まれて持続化していくんですよね。そうすると、この戦略は全体としての合理性・整合性もあって、これも戦略オプションとして大いにアリなんですよね。
 

ゴーイングコンサーンを重視するグロービス・キャピタルの組織戦略

 
グロービス・キャピタルはというと、前提としてのビジョンとしては、僕ら1人1人がいなくなった後でもグロービス・キャピタルというファーム(企業)としてメガベンチャーを生み出し、新産業を創造し続ける社会装置として残っていってほしいと思っています。事業会社のようにゴーイング・コンサーン(会社としての永続性)を重視しているんですよね。場合によっては難しさも伴いますが、短期的なLPの優先順位と、長期的な自分たちのビジョンをうまく両立する形で実現する、そんなチャレンジをしています。
 
同じ事業領域でも、スタートアップによってビジョン、戦略が異なるのと同じだと思うんですよね。VCというスタートアップをやるうえで、それぞれが、それぞれ合理的で、それぞれ整合性をもった、異なるビジョンと戦略を掲げている。
 
一般論としてVCとしての組織戦略って、突き詰めていくと、VCという業態の根幹に関わる「パートナーシップとはなんぞや」という哲学的な問いになっちゃいます。VCがとるパートナーシップという組織形態と、通常の事業会社の株式会社はどう違うのか?なぜ使い分けるのか?
 
VCがとっている”パートナーシップ”って、読んで字のごとく「パートナー同士が、信頼関係を結んで、事業を進めていく」ってことなんです。弁護士事務所とか会計事務所とかもパートナーシップ形態が多いんですが、職人的な属人性の高い仕事で、専門性の高いプロフェッショナルが集まって一緒にやっていくという組織形態です。
 
とすると、小さな政府、大きな政府じゃないですが、VCファーム(会社)として、小さなファームは最低限のバックオフィス業務を共通化して、投資業務自体は大きく個人のパートナーに任せるという形になります。逆に、大きなファームは、バックオフィスだけでなく、投資活動においてもソーシングの仕組み、キャピタリストが複数チームで投資先を支援する体制、バリューアッドチームによる組織的な投資先支援であったり、キャピタリスト育成の仕組みなど、仕組化・組織化を進めた形になります。その両極の中で、どこでバランスをとるのかというのが、各VCファームの戦略、ユニークネスということになります。
 

100年後にも日本に新産業を創造し続ける社会装置を目指す

 
グロービスさんは「100年後にも残るファームを目指す」と過去の記事で拝見しました。
 
そうですね、僕らの考え方としては、今いる僕らパートナーがいなくなって、違う人がファンドを運営しても、日本に産業を生み出し続けるプラットフォームとして永続していってほしいというものです。
 
という意味では、もしかするとVC/パートナーシップとしては、ちょっと異例な事業会社的な発想なのかもしれません。僕らの世代だけのリターンを最大化だけではなく、社会装置として世の中に何を残していくかということを考えています。
 
投資のプレーヤーとしてのいちベンチャーキャピタリストの立場はさておき、ベンチャーキャピタル会社の経営者の立場としては、僕らパートナー自身もリプレイサブルだと思ってるんですよ。というかリプレイサブルにしなきゃいけないと思ってるんです。企業経営で一般的によく言われる「経営者の最大の仕事はサクセッション・プラニング(後継者育成と移行)だ」と言われるやつです。
 
僕らがもっとも腐心しているのは、次の世代を育てること。堀・仮屋園が第一世代で、今野・高宮が第二世代で、湯浅・福島で第三世代まで来ていて、その次の世代をどう育てていって、それをどう脈々と続く仕組にするか。
 
極めて職人・徒弟制的な事業特性を持っているのに、それをどうやって組織化して永続化させるかみたいな、相矛盾するものをどうバランスさせるかというチャレンジです。
 

職人気質のあるVCという仕事で、組織として個人を成長させる仕組み

 
それは投資する時 、した後の支援体制にも表れています。僕らってすべての案件に対して、パートナークラスとジュニアがツーマンセル(二人一組)で動いています。しかも全ジュニアがなるべく全パートナーと一緒に仕事ができるように、たすき掛けで投資先ごとのチームを作っているんです。また、パートナーが持ってきたパートナーがメイン担当の案件に、ジュニアがサブでつくパターンもあれば、ジュニアが持ってきてジュニアがメイン担当でやってる案件に、パートナーがサブでつくみたいなこともあります。
 
もう職業特性上、職人・徒弟制的な色合いが強いのはしょうがないというのを認めた上で、親方が弟子に一子相伝で教えるみたいな属人性に依存するのではなく、組織の仕組みとしてどうやって職人の成長、組織としての成長を加速するかを頑張って考えています。
 
起業家と向き合う時って個人対個人じゃないですか。「グロービスだから投資してほしい」じゃなくて、「高宮さん、投資してください」ってなりがちで、いかにそう言ってもらえるかが勝負。だからゴール前で局面を切り開くのは個人でやらなければいけないんだけど、ゴール前まで行きやすくする周りが動いて個人が動くスペースを作ってあげるとか、いいパスと出すとかは、なるべく組織がサポートするという感じの発想です。
 
個人が最後は切り開かなければいけないという大前提は理解した上で、いかに組織でそれをバックアップしてあげられるか。それが、僕らが考える個人と組織の良い関係です。
 
組織力を感じさせられるお話ですが、高宮さんがグロービスに入った頃は今ほど組織の人数はいらっしゃらなかったのではないでしょうか?
 
実はキャピタリストの数で言えばそんなに変わらないんですよ。僕が入った時で10人くらいで、今も11人。
 
本当に職人の世界なので、必ずしも全員が全員アソシエイトから入ってパートナーまで行くわけではありません。長期的には結果が数字で出てしまう分、わかりやすくて、シビアな面もあります。自分でちゃんとリターンを出さなきゃいけないし、起業家にちゃんと選んでもらえるように成長しなきゃいけない。
 
そこを完全個人依存の個人商店としてやらずに、いかにして組織として個人をサポートしてパートナーまでたどりつく確率を上げるかが大事だと思っています。僕らはロールモデル・型を作るのをすごく意識しています。僕も今野さんも、仮さん(仮屋薗さん)をロールモデルにここまで育ててもらった感じなので、1人が2人を育てて、2人が4人、、、と増えていく仕組みを作り、キャピタリストを拡大再生産して育成できたらと思います。
 
 
 
 
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