投資を検討する際の黄色信号

公開日
2021/08/26
グロービスキャピタルパートナーズ代表パートナーの高宮 慎一さんにベンチャー投資にまつわる話をお伺いする、5回にわたる連載。
 
第1回は高宮さんの考える「投資を検討する際の黄色信号」について教えていただきました。
 
高宮 慎一 グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー コンシューマ、ヘルスケア領域の投資担当。Forbes 日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング 2018年1位、2015年7位、2020年10位。東京大学経済学部卒、ハーバード経営大学院MBA。 投資先実績はIPOはアイスタイル、オークファン、カヤック、ピクスタ、メルカリ、ランサーズなど、M&Aはしまうまプリントシステム、ナナピ、クービックなど、アクティブな投資先にはタイマーズ、ミラティブ、ファストドクター、グラシア、アルなどがある。
 
 

投資をするときに何を考えているのか

 
「投資する時はこれを見ている」というポジティブフラッグについての言及は増えてきた一方で、「これがあると投資しない可能性が高い」というイエローフラッグについての言及はまだあまりないように思います。高宮さんにとっての、投資のイエローフラッグをお聞かせください。
 
人それぞれ見てるところは違うと思うんですけど、「投資をするときに何を見ているのか」というポジティブの裏返しの部分があります。
 
「やっぱりスタートアップ投資はアーリーであればあるほど人を見ることが大事」という話の裏返しでいくと、ネガティブチェックの方もほぼ人。むしろ人の部分が足切りとも言えるかもしれないですね。
 
まず大前提は、人として信頼できるか、嘘をつかないか、逃げないか、お友達には自分がしてほしいことをしましょう、やられて嫌なことはするのはやめましょう、みたいな幼稚園で習うような話。投資すると5年とか7年がっつり一緒にやるわけなので、良い悪いとかじゃなくて相性・ケミストリーみたいなところでその人とずっと一緒にやっていけるかというのをポジティブチェックで見ます。
 
なのでその裏返しとして、誠実じゃない、逃げそうみたいなところはすごく気にしています。
 
「逃げそう」に関してお話しすると、「なんでこの事業やるの?」というのはすごく気にしています。「どういう原体験があってこの事業やるんですか?」とか、「どういう想いがこの業界にあって、どういう想いでこういうユーザーを助けたいんですか?」とかはよく聞きますね。
 
その返答がすごく薄っぺらくて、「社長になりたいから社長になりたいんです」とか、「金儲けしたいから金儲けしたいんです」とか、そういうのだと結構危ないなと思います。
 
自分の中に深いものがないと、ハードシングスが訪れたときに踏みとどまれないと思うんですよね。
 
「お金が欲しい、地位が欲しい、名誉が欲しい」とかだと、世の中の一般的な理由で、自分ならではの理由がないので、レッドフラッグではないけどイエローですね。
 
実際に高宮さんのところまで投資の相談に来る方で、「社長になりたいから社長になりたい」であったり、「儲けたいから儲けたい」というふうに話を持ちかけてくる方なんていらっしゃるのでしょうか?
 
直接的にはそんなにはいないかもしれません。
 
でも、この事業をやる理由が「この領域がホットだから」とか「海外で流行っているから」というパターンはあります。”きっかけ”としては全然良いと思うんですが、さらに奥に「なんで自分がその事業をやらないといけないのか」というパーソナルな深いところから湧き出てくる理由みたいなのはあるといいですね。
 

なぜあなたがそれをやるのか

 
Clubhouseが流行ったタイミングで、音声SNSをやるみたいな話ですね。
 
そうですね。「音声SNSがホットだから!」という理由だと、全人類平等にホットなので、なんで自分がそれをやるのかというのが大事だと思います。
 
外部環境どうこうよりも、起業家の内発的な動機が欲しい。世の中をこう良くしたいとか、こういった負を解決したいみたいなポジティブなものでもいいし、過度でなければ怨念とかコンプレックスもドライバーになるのでいいと思います。
 
自分の中の強烈な内発的動機になっている原体験とか、想いの強さみたいなものがあるといいなと思います。
 
「誠実かどうか」みたいな話って、なかなか1回の面談だと見破れないじゃないですか。だから、人間関係を築くためにも実際のラウンドの1,2年前からお友達付き合いしてたりはしますね。
 

「信用」はあるか

 
とはいえ、短期的には全然知らない人から案件が来ることもあります。たとえば(松山)太河さんからの紹介で「めちゃくちゃ良いから話聞いてあげてください」とか来たらもちろん聞きますね。なので、金融の「信用」の語源的な意味での「信用」って大事だと思います。もともと直接知っていて、関係性があるから「信用」があるっていうのは一番ですし、なければ太河さんの「信用」を借りるみたいな信用補完でもいいと思うんですよ。
 
他には、ディスカッション中にあまりにこちらに合わせ込んでくる感じはイエローかもしれません。普通にディスカッションをするなかで、お互いのディスカッションが積み上がって進化していく感じなら良いんですけど、「そうですよね!そうですよね!それ良いですよね!」ってただ単に乗っかってくる、ヨイショしてくる感じだとちょっと怪しい。
 

投資家は自分の仮説に酔うな

 
気をつけないといけないこととして、僕ら投資家が全能感を持ってはいけなくて、所詮僕らは事業をやる当事者ではなく半歩引いてる投資家なので、ともすると評論家に近い立場になりうる。そこで評論家めいたことを言ったときに「流石ですね!すごいですね!」と言われて、自分の事業に対する仮説に酔ってはいけない。
 
当然自分の言ったことに対してそう反応されると気持ちよくなっちゃいがちなんですけど、自分の仮説が本当に正解なのかっていうのも疑わしいし、それって本当に起業家から出てきた考えなのかっていう話もある。
 
極端な話、起業家がスーパー営業マンで、その場の瞬発力で合わせ込んできてる可能性もある。自分が言ったことに自分が酔うと何も見えなくなっちゃいがちなので、常に自分の戦略仮説は本当か?みたいない自問自答・自戒をしなきゃいけない。そして、その仮説に起業家の仮説が掛け合わさってスパークして、より良い仮説になる時があって、それはなんかお互いにビビっと来て一緒にやりますよね、みたいのが既定路線になります。
 
自分が思ってる事業機会やそれを捉えるための戦略が正解だったら、ベンチャーキャピタリストなんてやらずに自分が起業すればいいんだから、自分が正しいと思うなよと。自分が正しいと思っていることを言ったらそのまま返ってきたからって正しいと思うなよと、いつも自分に言うようにしています。
 
良いディスカッションというのは螺旋状にどんどん上昇しながら狭まっていくイメージ。たとえばNFTの議論をしてるとして、ソシャゲで最後IPが来たから、じゃあIPを取りに行こうというふうに短絡的にはなる。
 
でも深く考えていくと、「確かにそうですね。だけどそれってもしかすると、業界が成熟化したときの終盤戦かもしれませんね。いきなりドラゴンボール取りに行っても取れなくて、ソシャゲで月10億円の売上が出て初めてIPホルダーが乗っかってきてくれたのがソシャゲの歴史じゃないですか。だから序盤でIPを活用して自分たちを大きくしようとしてもダメで、自分たちが一定以上大きくなったときにIPを活用しなきゃいけないんですよ。」というふうに、ある切り口で話すとさらに進化していく感じ、議論が加速していく感じがあるとポジティブフラッグです。
 
お互いに気づいていなかった視点を投げ込みあって、お互いの議論がすごく進化していく感覚。お互いに議論しているとわかる一種のゾーンみたいな感覚があるんですよね。「議論していて事業計画がすごく進化した」みたいな感覚をお互いが持てる議論。そういうモードに入れた相手にはすごくポジティブフラッグを感じますね。
 
相手にない視点をこちらが価値として出せている、その出した視点をさらに進化させてくれる、議論のやり方のモードが噛み合っている。これは年に数回あるかないかの非常に良いミーティングですね。
 
シリアルは最初から素晴らしいプランを持ってくることが多いので、意外とその場のミーティングでスパークすることは少ないかもしれませんが(笑)
 

メルカリ「山田進太郎」への投資

 
高宮さんはメルカリに投資されていますよね。メルカリの場合、フリマアプリをしなければならない内発的動機があるというよりは、スマホの流行やそれにともなうCtoC ECの流行という外部環境の影響が強かったのではないかと感じたのですが、それでも投資したのは山田進太郎氏だから賭けたということですか?
 
山田進太郎は山田進太郎だからに尽きちゃいますね。
 
いろんなメディアでも言ってるんですけど、山田進太郎と知り合った最初のきっかけって、2008年にグロービスに入った瞬間にウノウっていう会社にメールしたら山田進太郎が出てきたことなんですよ。
 
そこからもう足掛け10年で友達やってて、毎週スカッシュしてたし、何ならウノウにも投資をしたかったですし。最初にZyngaのファウンダーを紹介したのが僕で、そこでZyngaと共同投資しようと思ったら、Zyngaがウノウを買収することになっちゃった(笑)
 
まあそれでも、友達が無事イグジットできたのでハッピーじゃないですか。だけどこういうエコシステムなので、もう1, 2回やるだろうからそのときは一緒にやりたいねという話にはなって。
 
彼が世界放浪の旅に出て時間があったとき、一緒にスカッシュしながらいろんな話は聞いてたんですけど、正直見誤っていたところもあって。
 
フリマアプリって最初に聞いた時は「CtoCか〜...... Etsyも売上200億円〜300億円いくのに10年近くかかってるしな〜...... まあでも山田進太郎だから、時間はかかるかもしれないけど200億円〜300億円くらいまで持っていくかな〜。」くらいの感じで投資をしたら、史上最速で数千億の規模まで行っちゃったっていう。完全に見誤っていました(笑)
 
外部環境の中にあるオポチュニティを僕はちゃんと捉えられていなかったんですよね。CtoCのユーザーを教育する、CtoCで物を買うっていう習慣を教育するところに非常に時間がかかると僕は思っていたんですけど、今思うとミクシィコミュニティとかで同じ趣味の人たちがオフラインで集まって物を売買するというのは既にあった。奥底にあるニーズは実は当時の段階で顕在化していたんですよね。ヤフオクとか楽天では捉えきれていないニーズが表層に現れていたのを僕は気づいてなかったんだけど、山田進太郎だから賭けた。そういう意味で言うと外してるんですよ(笑)
 
メルカリは、人とマーケットオポチュニティの掛け算が上手くハマった事例ですね。
 

連続起業家への投資について

 
そういう観点でいくと、シリアル(連続起業家)は信頼の面で1つのハードルをクリアできているということになるんでしょうか?
 
業界内でのレピュテーションがあるとか、シリアルだから、というよりは業界長いと大体友達みたいな感じになっていて、直接的な仕事以外でのお付き合いもあるから、関係性ができているということですかね。
 
1周目の起業家から見てシリアルがずるい点は、信頼アセットが貯まっているから、PMFしきる前にちょっと先行してスーパーブリッツスケーリング用の大型資金調達をやりやすいこと。1周目だとどうしても数字やファクトで見せないと乗り切れないみたいなところを、人としての信用で補完して乗り切っちゃうんですよね。
 
起業家間の争いとしても激しくなってきているので、1周目はシリアルがいない、先行者優位が効く領域を狙うとか。
 
今後の起業家のキャリア設計として、一発目の起業で必ずしも人生のキャリアのピークを持ってくる必要はなくて、5,6回やって80歳で人生のピークがきて81歳で亡くなる方が実は幸せかもしれない。そう思うと、一発必中じゃなくても良くなったのが今の環境。キャリアとして、生き様として、最後まで起業家でいられるようなエコシステムに発展していますね。すごい良い世の中になっていると思います。
 
シリアルだからと言って投資するわけではないですか?
 
もちろんです。シリアルだからシリアルに投資するわけじゃなくて、シリアルをシリアルたらしめているのは、「セオリーとべからず」をちゃんと知っていることだと思うんですよ。「セオリーとべからず」を知っていれば必ずホームランを打てるというものではないけどアウトにはなりにくい。三振はしにくい。そういう実態の伴っているシリアルならぜひ投資したい、いや投資させていただきたいです!(笑)
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