cover image

実態よりも過剰な盛り上がりは、スタートアップを成長させうると同時に破滅させうる

Date
2021/08/06
上手くいくコンシューマー向けのスタートアップには、ハイプ(=過剰な盛り上がり。オーガニックなものであれ、作られたものであれ、そのスタートアップの重要性の認識が実際よりも先に拡大する瞬間)が避けられません。そして、ハイプは畏敬の念と恐怖の念の両面で捉えるべきものです。適切なタイミングでハイプが起きればスタートアップを成長させることができますが、間違ったタイミングで起きるとスタートアップを破滅させることもあります。
 
ハイプが魅力的でセクシーなものであったとしても、私はできるだけ避けるべきだと考えています。これは直観的ではないかもしれません。ソーシャルネットワークにおけるネットワーク効果がそのネットワークの大きさの関数として表されるのであるならば、ユーザーを殺到させるハイプは良いことなのではないでしょうか?
 
そうはならない理由を知るためには、マーケットプレイスビジネスが提供する経済的な補助金と似たような機能をハイプが持つことを探るのが有効です。ただし、経済的な補助金とは異なり、ハイプの補助金は自分でコントロールできないという重要な違いがあります。
 

弾み車と経済的な補助金について

 
ネットワーク効果が働いているマーケットプレイスでは、ネットワークが大きくなるにつれてマーケットプレイスの参加者にとっての価値が高まります。これは、ネットワークが大きくなればなるほど、弾み車がどんどん回転していくと考えることができます。
 
notion image
 
最初のステップは、弾み車を回転させることです。そのために創業者たちがよく使う手法は、取引に補助金を出すことです。
 
経済的な補助金とは、スケールしていないマーケットプレイスが機能するように、運営が取引のコストの一部を負担することです。ある意味、取引に補助金を出すことは、マーケットプレイスが買い手と売り手にどれだけの価値を生み出せているかを「偽る」ことであり、実際にはまだスケールしていないにもかかわらず、マーケットプレイスがクリティカルマスに達したかのように振る舞うことになります。
 
notion image
 
補助金がうまく適用されると、マーケットプレイスは取引をキックスタートさせ、そうしなかった場合よりも早く成長することができます。これは、取引あたりの平均的な価値が高くなることで、補助金なしではマーケットプレイスが獲得できなかったであろう価値提案が、より多くの人々にアピールされることになるからです。
 
オンデマンドマーケットプレイス(Uber、DoorDash、Instacartなど)で見られたように、補助金は弾み車を回転させるための貴重な武器となります。真のネットワーク効果を持つマーケットプレイスであれば、弾み車が勢いを獲得して自力で回るようになるにつれ、徐々に補助金を減らすことができます。
 
補助金のリスクは、盲目になりうるということです。1ドルを0.8ドルで売れば急成長するのは簡単だとよく言われます。多くの企業は、十分な規模に達しさえしたら補助金をなくせると自分を騙してきましたが、実際のところは補助金なしではモデルが成り立たないことに気づくという結果になりました。
 

ハイプの補助金

ハイプは、何かしらが実際よりも大きく、重要で、必然的であるかのようなオーラを醸し出します。このようにして、消費者がソーシャルネットワークに参加することに対する補助金のような役割を果たしています。
 
ハイプによる現実歪曲空間(訳注:スティーブ・ジョブズの開発者に対する影響力を表現した造語。詳細はこちらの中で、消費者は身を乗り出して、ハイプがない場合よりも先に、自分の時間とエンゲージメントを使ってプラットフォームに投資します。彼らがステータスを求める作業をするのは、他の時間の使い方と比較して報酬が得られるからではなく、ネットワークの典型的な「富めるものがますます富む」という効果や、「最終的に大きなものになる何かしらのアーリーアダプターである」というステータスによって、将来的に報酬が得られると期待しているからです。ハイプの「補助金」があるからこそ、大規模なハイプを持つスタートアップは、セレブ(時間的な制約から集めるのは難しい)を予想よりもずっと早く引き寄せることができるのです。誰もが、新しくてホットなものに参加したいと思っているのです。
 
ハイプの可能性、そしてそれゆえに起きる誘惑とは、それが自己実現的な予言になりうるということです。プロダクトの価値がネットワーク効果の関数であり、それ自体がネットワークにどれだけ多くの人が参加しているかの関数であるとすれば、論理的にはユーザー数が多いほど価値が高いということになります。しかし、問題は、マーケットプレイスが取引をどれだけ(経済的に)補助するかは完全にコントロールできる一方で、ひとたびハイプが始まると、ハイプ補助金は創業者のコントロール圏外になるということです。これには3つの重大なリスクが伴います。
 

ハイプマーケットフィット

社外の人たちが取引にどれだけの補助金を出すべきかを毎週決めており、それがどれくらいかはあなたには一切わからないマーケットプレイスを作ることを想像してみてください。ある週は20%、次の週は80%だったりするのですが、わかっているのは補助金があるということだけで、どのくらいになるのかは不明です。
 
このような状態でマーケットプレイスを最適化するのは、はっきり言って難しいと思います。ユーザーはあなたが思っていたよりも幅広いユースケースでマーケットプレイスを利用していますが、それは補助金がなければ起こらないことでしょう。ユーザーは友人にサービスを紹介していますが、それも補助金がなければ起こらないことでしょう。
 
ハイプの中でマーケットプレイスを構築するのはこれと同じことです。ハイプの補助金がないときよりも、すべてがうまくいくし、まったく違う結果になる。
 
コミュニティは生き物であり、その進化を導くにはほんの少しの時間しかありません。これは、新しいフォーマットを作るときには特に言えることです。この生き物のために常に微調整と警戒が必要とされるタイミングに、どうやって進化していくかを見誤ると致命傷になります。このように、ネットワークの進化の初期にハイプを行うことは、ネットワークを破滅させる可能性があります。なぜならば、ハイプによる補助金を取り除いた後に消費者がどのようにエンゲージメントするかを知ることが、初期の段階では非常に困難だからです。誤ったものに最適化してしまう危険性があるのです。
 

ハイプ後の急降下

「スタートアップとは、崖の上から飛び降りながら飛行機をつくるようなものだ」という決まり文句があります。これはバイラルなコンシューマーネットワークにおいて非常に当てはまることであり、ハイプサイクルを経たコンシューマーネットワークにおいては非常に非常に当てはまることでもあります。
 
膨大な数の新規ユーザーがプロダクトに登録すると、あらゆる亀裂が明らかになります。Housepartyのようなライブ体験は素晴らしいものでしたが、プッシュ通知に依存していたという根本的な欠陥がありました。ユーザーが自分のネットワークに友人を増やすと、エンゲージメントモデルの重要な要素であるプッシュ通知があまりにうっとうしくなり、勢いがつくどころか、弾み車の仕組みが壊れてしまいました。ユーザーは通知を無視したり、一斉に登録解除したりするようになりました。ハイプはこのような現実をすぐに突きつけ、Housepartyにモデルを微調整する時間はほとんどありませんでした。
 
プロダクトの弾み車に、回転を速めるのを妨げるような弱点があると、ネットワーク上の実際の平均的な体験はハイプにまったく追いつくことができず、ハイプの補助金が0%になると、ネットワークは急激に落ちこみます。ハイプに酔いしれていたユーザーが、今度は二日酔いになってしまうのです。
 
これが追い討ちをかけることになります。まるで補助金ではなく税金を払っているかのように、認識された体験や期待された体験が実際の体験よりもひどいものになってしまうのです。ハイプに引っ張られていた人たちは去っていきます。格好悪いイメージのプロダクトになり、人々は懐疑的になり、このような認識にもかかわらず、新しいユーザーはプロダクトを試してみるようにと言われるのです。この状態からネットワークを再構築することは可能ですが、とても難しいのは間違いありません。ユーザーがすでに考えていることを上書きするよりも、新しいことを教えるほうが簡単なものです。
 
だからこそ私は、本当に機能しているプロダクトと弾み車を手に入れたと感じるまでは、できるだけハイプを避けるべきだと提唱しているのです。ハイプを煽るのは、その時だけにしましょう。そうして初めて、弾み車はブーストできるのです。Snapchatでは、ハイプが発生したとき、プロダクトと成長のループはハイプの影響を受けることなく数ヶ月間成熟していました。Snapにはハイプに対する準備ができており、新規ユーザーの流入を利用して弾み車をより速く回転させることができました。Colorでハイプが発生した時は、プロダクトが未熟だったので急激に落ち込みました。
 

競争の活性化

Clubhouseに見られた最後のリスクは、ハイプによって既存企業があなたに反応したり、あなたに驚かされたりすることです。もしClubhouseが必然性のあるもの(つまり脅威の存在)と認識されていなかったら、TwitterはTwitter Spacesをこれほど早く、積極的に導入したでしょうか。
 
だからこそ、私は初期に外部から過小評価される企業が好きなのです。Pinterestは外から見るとニッチに見えました。Robinhoodは外から見るとニッチに見えました。Etsyは外から見るとニッチに見えました。初期の頃は、Facebookでさえ、大学限定のニッチを狙っているように見えました。過小評価されていると、大事なことを見つけ出すことに多くの時間を費やすことができ、既存企業がその重要性を理解したときには遅すぎるのです。
 

ハイプに対する私からのアドバイス:避けて避けて避けて.......掴め!

ハイプは良いことでしょうか?もちろんです。
ハイプは、需要を抱えている消費者がプラットフォームに身を乗り出して時間を投資することを可能にし、急成長の触媒となります。もちろん、採用にも効果的です。しかし、私は、プロダクトとループの準備ができていると確信できるまでは、できるだけハイプを避けるべきだと強く主張しています。プロダクトの準備が整っている場合、新しいユーザーが登録し、そのユーザーを維持することができるので、弾み車の回転が速くなります。
 
まとめると、補助金と同様、ハイプも効果的な武器になります。しかし、経済的な補助金とは異なり、ハイプはプロダクマーケットフィットを達成する前ではなく、達成した後に使うのがよいでしょう。プロダクトの準備が整い、弾み車が回転していれば、その弾み車をブーストできます。一方で、発売されたばかりのプロダクトや、常に調整と注意が必要な新しいフォーマットを作っている場合は、ハイプは致命傷になる可能性があります。ユーザーは、ネットワークがサポートするよりも早く落ち込んでしまうのです。スタートアップのライフサイクルの早い段階でハイプを煽ることは、短期的には見栄えがして気分がいいかもしれませんが、最悪の場合は失敗に終わり、よくても幸運な買収か、再構築のための長い苦しい道のりを歩むことになります。
 
※この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
 
スタタイ|スタートアップのWikipediaを作る スタタイスタタイDBスタタイブックスTwitterメール利用規約免責事項