Pinterestをスケールさせて学んだ5つの教訓【前編】
公開日
2021/05/31
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急速に規模を拡大しているときは、多くのことがうまくいく一方で、必然的にいくつかのことはうまくいきません。Pinterestのような優れた企業は、そのような失敗から学び、迅速に調整します。
この記事は、私が最初に投資家として、次に会社の最初のプロダクトマネージャーの1人として、そして最終的にはディスカバリーチームのプロダクトリーダーとして、検索、レコメンデーション、ビジュアルサーチチームなどを統括しながら学んだことをまとめたものです。

よく「測定したものは改善される」と言われます。確かにその通りなのですが、何を測定するかという判断がいかに戦略的なことであるかを見落としています。誤ったものを測定してしまうと、誤った取り組みに時間を費やすことになりかねません。
例えば、Pinterestでは初期の段階で、新設されたグロースチームが「月間アクティブユーザー数(MAU)の増加」という目標を設定しました。MAUは多くのグロースチームやソーシャルネットワークで使用されている一般的な指標であり、直感的に理解できるものでした。
そしてグロースチームは、新規ユーザーをサインアップファネルの最上部に集めるためのプロダクトロードマップを作成し、実行しました。問題は、MAUは確かに増加したものの、バケツから水が漏れていたことでした。グロースチームはファネルの最上部にユーザーを流し込み、プロダクトチームは既存ユーザーのエンゲージメントを高めることに注力していましたが、新規ユーザーがエンゲージメントの高い生産的なユーザーになったかどうかを確認する責任は誰も負っていませんでした。
このことに気付いたチームは、MAUから、新規のウィークリーアクティブピナー(Pinterestを利用して、その週にサイト上で新しいものをピンやリピンした人、つまりPinterestのコアアクション)の数を増やすことに焦点を移しました。
このシフトにより、グロースチームの優先順位は、ユーザー(そして会社)にとってより良いことと一致し、ウィークリーアクティブピナーの増加は加速しました。今や新規ユーザーに登録してもらうだけではなく、登録から最初のホームフィードまでの間に素晴らしい体験をしてもらい、Pinterestでの長期的な成功につなげることができたのです。
ところで、バニティーメトリクス(訳注:偽りの指標)が企業にとって非常に危険な理由がここにあります。外部に対して誤解を招くだけでなく、悪循環に陥る可能性があるからです。自分の会社(またはチーム)を良く見せるために指標を使用し、それを追跡し始めると、その指標が増加し続けて欲しいと思って最適化を始めます。こうなると間違った道へ進んでしまいます。
つまり、測定すれば改善されるということです。しかし、正しいものを測定するようにしてください。

たいていのエグゼキューションの問題は、2つの根本原因に集約されます。それは、「組織構造の誤り」と「人材配置の誤り」です。
「人材配置の誤り」については多くの記事がありますが、組織構造についてはそれほど多く取り上げられていません。確かに、若い会社では組織を「フラット」にして階層化しないことや、ありのままを重視するのが一般的です。しかし、そのようなアプローチでは平凡なエグゼキューションしかできません。
2つの例をご紹介しましょう。
初期のPinterestは、マトリクス型の組織を採用していました。つまり、プロダクトをリリースするために必要なすべてのリソースを持っているチームはなかったということです。私のチーム(Discover)のような戦略的支柱は、ほとんどがバックエンドエンジニアでした。ディスカバリーの新機能をリリースしようとすると、私はモバイルチームに懇願して、次に手が空くフロントエンドエンジニアに私のプロジェクトを優先してもらい、フロントエンドエンジニアの手が空いた頃にはバックエンドとデザインの準備ができるようにスケジュールを調整しなければなりませんでした(必死になってガントチャートを作ったこともあります!)。
この方法では、優れたものを素早く作ることはとても困難でした。
フルスタックチームに切り替えたとき、それは昼夜の別なく変わりました。すべてがより速く進み、優先順位をつけることができ、より良いプロダクトを作ることができ、皆がより幸せになりました。
もうひとつの例は、ある時点に到達すると、グロースチームがマーケティングチームに報告していたことです。その結果、膨大な調整が必要になりました。
グロースチームのメンバーは、戦略やロードマップを一致させるために、常にプロダクトチームとミーティングを行っていました。そのため、私たちのスケジュールには膨大な数のミーティングが追加され、戦略と優先順位を一致させることが難しくなっていました。そこで、グロースチームをプロダクトへのレポートに移行したところ、戦略が合理化され、全員の意思疎通が図れるようになりました。また、非常に多くのミーティングが不要になりました。
最後に、戦略的な取り組みを行っているのなら、その取り組みを推進できるチームを作っておかないと、何も進みません。
組織変更はしばしば痛みを伴い、気が散るものですが、会社の規模が大きくなるにつれ、絶対に必要になります。組織構造が戦略を反映していなかったり、過度にマトリクス化されていたりすると、企業のエグゼキューション能力を圧迫する税金のようになります。

気に入らないものをリリースすると文句を言ったり、Facebookグループに機能リクエストを投稿したりする声の大きいユーザーは、恵みであると同時に呪いでもあります。彼らがいなければあなたの会社は成り立ちません。しかし、次の1億人のユーザーを獲得するためには、彼らを無視することも必要です。
ここでそのコツをお伝えしましょう。
声の大きいユーザーがすべてのユーザーを代表しているわけではないし、ましてや未来のユーザーを代表しているわけでもありません。彼らはパワーユーザーであり、現在のプロダクトを最もよく理解しているユーザーなのです。
これは2つのバイアスを生み出します。
- 今の製品を使い慣れているので、変化を望まない。
- 彼らは必然的にパワーユーザー向けの機能を要求します。つまり、誰にとってもプロダクトの複雑さが増し、少数のユーザーにしか使われない機能です。
このようにして、2つのバイアスがあなたを間違った道へと導いてしまうのです。
変わることを望まない
2006年にFacebookが初めてニュースフィードを公開したときのことを覚えていますか?これは大きな反発を招きました。ユーザーはFacebookをボイコットすると脅し、Facebookグループを作ってこの機能に抗議しました。しかし、時が経つにつれ、ニュースフィードはプロダクトの中核となりました。
もしFacebookが少数のパワーユーザーに大多数にとってのベストを決定させていたら、Facebookは今よりもずっと小さくなっていたことでしょう。
Facebookはニュースフィードをもっとうまく展開できたのでしょうか?
もちろんです。しかし最終的には、少数派の声を無視して自分たちの主張を貫いたFacebookの姿勢は正しかったと言えるでしょう。
ニュースフィードは極端な例ですが、このようなことは小規模であれば常に起こっています。
プロダクトの中核となるフローをシンプルにしたいと思いませんか?ユーザーは、フローが変わって2ステップになっても気にしません。- 2ステップには慣れているからです!
あまり使われていない機能を削除してプロダクトをシンプルにしたい?でもそれは私のお気に入りの機能なんですよ!
このような変更を行うには勇気が必要です。最高のユーザーを刺激したくはありませんが、何を望んでいるかをあなたに伝えられない次の1億人のユーザーのことも念頭に置く必要があります。
大切なのは、データに耳を傾け、ユーザーとコミュニケーションし、その上であなたが間違った方に向かっていることをデータが示していたら、少数派の声を無視する覚悟を持つことです。
とはいえ、レッスン#9でお話しするように、少数派の声が氷山の一角であることもあります。
パワーユーザー向け機能の開発
ユーザーから求められる機能をすべて作ってしまうと、非常に少数の熱心なユーザーベースになってしまいます。
まず、ユーザーからの要望は、プロダクトが置かれている範囲内の極大値として生じます。フォードの有名な(おそらく作り話の)言葉で、顧客が「もっと速い馬が欲しい」と言ったことを覚えていますか?それがあなたのユーザーにも当てはまることです。
必然的に、ユーザーはプロダクトに複雑さを加える機能を要求し、初めてプロダクトを試す人にとっては理解しにくくなります。このような複雑さを増すことに価値がある場合もありますが、たいていの場合そんなことはありません。既存のユーザーからの要望が1番多かった機能を作っても、それを使ってくれるのはユーザーの5%以下ということは日常茶飯事です。なので、その5%以下のユーザーにとってかなりのゲームチェンジャーになる必要があります。覚えておいてほしいのは、機能を追加するのは、機能を削除するよりもずっと簡単だということです。ですから、追加するものには注意してください。
もう1つの問題は、彼らが要求する機能は、真の解決策ではなく、症状に対する応急処置であることが多いことです。例えば、私がPinterestに在籍していた時に最も要望の多かった機能の1つは、ピンを再配置する機能でした。これは例えば、お気に入りのレシピを見つけるために、いつもボードの一番下までスクロールしなければならないというようなユースケースです。もし、そのピンをドラッグしてボードの一番上に配置することができたら...。しかし、これは最善の解決策ではありません。
パワーユーザーは、パワーユーザー向けの機能をリクエストします。ピンの再配置は、ごく一部の熱心なユーザーしか使わないタイプの機能です。掘り下げてみると、このリクエストは、探しているピンを見つけるのが難しいという根本的な原因の症状なのです。
あなたの仕事は、ユーザーが求める機能を構築することではなく、適切な質問をして、スケーラブルなソリューション、つまり大多数のユーザーが利用するソリューションを見つけることです。このケースでは、ユーザーがピンを再配置する代わりに、「パーソナルサーチ」と呼ばれる機能を構築しました。これで、ピナーは自分のすべてのピンを検索して探しているピンを見つけることができるようになりました。多くの人が、常にピンを並べ直すよりも検索することを選ぶでしょう。
最後に、この種の機能リクエストが消費するリソースのことも忘れてはなりません。すべてのスタートアップ企業がそうであるように、リソースに制約のある環境で仕事をしている場合、既存のユーザーのエンゲージメントを高める機能を構築するか、ユーザー数の増加を促す機能を構築するか、常にトレードオフを迫られます。後者は単にグロースハックを意味するのではなく、プロダクトをよりシンプルにしたり、ユースケースを増やしたり、新規ユーザーが継続ユーザーへコンバージョンする割合を高めたりすることを意味します。
要約:ある段階に到達して、スティッキーなプロダクトを作ったら、すでにいるユーザーのために作るのをやめて、次の1億人のユーザーのために作る必要があります。次の大きなグループを獲得するためには、既存のユーザーを怒らせるリスクも厭わない必要があります。

ある金曜日のQ&Aで、ベンとエヴァンは、ユーザーの信頼を銀行のようなものと表現しました。つまり、引き出した額よりも預けた額の方が多いようにしたい。確かに、1つのネガティブな体験を補うためには、5つのポジティブな体験が必要だと聞いたことがあります。これは非常に高い交換率です。
この考え方は私の心に残りました。そしてこの考え方のおかげで、Pinterestが信じられないほどの短期間で米国最高のコンシューマーブランドを築くことができたと思っています。最近、Prophet社がPinterestをNikeやAppleと並ぶ米国のトップ10ブランドに選出したのを見ても、まったく驚きはありませんでした。
私たちは、楽しいプロダクト体験という形で銀行入金の大部分を行うようにしましたが、入金の手段は他にも用意していました。エラーメッセージの文章や、ヘルプデスクでの質問に対応するコミュニティチーム、プロダクトアップデートに関するピナーとのコミュニケーションなどにも入金しました。
あなたの銀行に十分な余剰があれば、ユーザーは、失敗したときも、新しいことを試したときも、あなたを優遇してくれます。例えば、Pinterestが急速に成長していた初期の頃、サイトがダウンすることがありました。エンジニアが復旧作業をしている間、コミュニティチームはFacebookやTwitterで「Pinterestがダウンしています」「みんながピンするようになるために努力しています」と投稿していました。
そうすると、ユーザーから「Pinterestを復旧させてくれてありがとう!」と感謝されることもありました。もし、その時「信頼の銀行」に余剰がなかったら、ユーザーが私たちに対して抱いていたネガティブな感情を強化してしまい、信頼バランスがさらに損なわれてしまいます。
この信頼の余剰があれば、プロダクトに対してより多くのリスクを取ることができるようになります。これは、ユーザーが変化に対してポジティブな解釈をしてくれるか、ネガティブな解釈をするかの違いになります。これは、大胆な変更を行いたいときには大きな違いです。

どんな会社でも成長曲線が横ばいになったり、士気が下がったりする瞬間があります。Facebookでさえ、横ばいの時期がありました。

Pinterestもかなり早い段階でこれを経験しました。2012年の夏まではFacebookがメインのディストリビューションチャネルでしたが、FacebookがInstagramを買収したことで、ニュースフィードでのPinterestの配信が制限されてしまいました。まさにワンツーパンチでした。私たちは、成長のための新たな方法を見つけなければなりませんでした。
成長が鈍化する時期は、企業にとっては怖いものです。それは、自問自答や自己反省を自然に行う瞬間です。私たちはニッチな存在なのか?もっとInstagramのようにすべきなのか?
組織としての自信を失っているときに、当初の理念を貫くにはリーダーシップが必要です。私が大学を卒業して最初に就職したのは、スタートアップでもあったコンサルティング会社でした。私たちにこの瞬間が訪れたとき、会社の戦略は大混乱に陥りました。日ごとに、自分たちを救ってくれるであろう別の戦略を反映させるためにウェブサイトを更新していました。これは悪循環に陥り、最終的には私を含めた全員が退社してしまいました。
最終的にPinterestでは、自分たちが何者であるかを徹底的に理解し、ユーザーへのバリュープロポジションに倍賭けし、グロースチームは粘り強く取り組み、新たなディストリビューション戦略を打ち出しました。その結果、成長は再び加速しました。
このような日、月、あるいは四半期があることを忘れないでください。全知全能のFacebookにさえこのような瞬間があったのですから。しかし、コア戦略に集中している限り、そしてその戦略が差別化されている限り、エグゼキューションすることでその局面を打破することができます。
この記事に対する皆さんのご意見や、皆さんの超成長企業での経験をお聞かせください。また、もしあなたが超成長期に入りつつあるコンシューマーテック企業を作っているのであれば、ぜひお話しましょう(@sarahtavel)。
後編はこちら
※この記事は原著者の許可を得て翻訳・公開するものです。
原文:Five Lessons from Scaling Pinterest by Sarah Tavel