SPAC上場で名を轟かせるSocialCapitalをおさらいする

公開日
2021/01/31
 
筆者:平田 智基
 
有名なベンチャーキャピタル(VC)といえば思い浮かべるのは、Sequoia Capital、Kleiner Perkins、Andreesen Horowitzあたりでしょうか。
 
セコイアとクライナーはシリコンバレーという言葉が生まれる前から存在する超老舗ですし、アンドリーセン・ホロウィッツに関してもIT業界のレジェンドが11年前に創設したファンドで名門と言って差し支えないでしょう。
 
他にもFounders FundやAccelなど挙げるとキリがないですが、最近とみにその名前を見かけるようになったのがSocial Capitalです。
 
Social Capitalは数年前からSlackやBoxなどに投資をしていましたが、最近はSPACでターゲット企業を上場させることが多くなってきており、他のファンドではあまり見られない方法ということもあって注目を浴びています。
 
今回の記事では、Social Capitalとその創業者チャマス・パリハピティヤについてご紹介します。
 

 
目次

Social Capitalとは

 
Social Capitalは2011年5月にチャマス・パリハピティヤ(Chamath Palihapitiya)によって創設されたファンドです。
 
 
多くの投資家がソーシャルネットワークや写真共有アプリ、その他toCサービスに目を奪われる中、チャマスたちはガン、宇宙探査、気候変動などの困難な問題に取り組むためにSocial Capitalを設立しました。Social Capitalが支援した企業の多くは、当初は他の機関投資家から資金を調達することができませんでしたが、同社が介入することで長期的な資本を獲得できています。
 
とはいえもちろん、チャマスはFacebook出身ということもあり、投資にはSlackやBoxといったソフトウェアサービスも含まれています。
 
ある程度の期間を経て、こうした賭けが良いリターンを生むことを期待していた同社でしたが2018年にこの期待が現実のものとなり始めると、ファンドマネジメントのような従来のアプローチでは彼らのミッションを達成する上で意味のあるインパクトを与えるのには十分ではないと結論付けました。そして2018年半ばに外部資本を募ることをやめ、テクノロジー持ち株会社となりました。
 
Our mission is to advance humanity by solving the world’s hardest problems. 世界でもっとも難しい問題を解決して人類を前進させることが私たちの使命である。
 
直近数年の投資実績をみれば明らかなように、2019年以降はめっきり投資件数を減らしており、持株会社として既存投資先の支援に精を出しているように見えます。
 
なお創業以来8年間のIRRは32.9%という上々の実績を残しており、S&P500よりも、バークシャーよりも優れた投資先であることを強調しています。
2019年のSocial Capital アニュアルレターより
 
しかしながら、同社を極めて有名にしているのは上記のようなミッションやリターンではありません。
 
彼らは既存のVCファンドとはまったく違うイグジットのあり方を急速に広めていることで、近年非常に有名になってきました。それがSPAC(Special Purpose Acquisition Company:特別買収目的会社)を通じた上場です。
 
 
簡単にいうと、目利きのできる投資家がとりあえず箱会社(Blank Check Company)を上場させて市場から資金を調達し、ふさわしい未公開企業を買収するのがSPACです。
 
チャマスによれば従来のIPOプロセスはぶっ壊れており、多くのスタートアップが必要以上に長い時間をかけさせられており、SPACによってそれを解消するのが目的とのこと。
 
これまでSocial CapitalはVirgin Galactic、Opendoor、SoFiをSPACを通じて上場させており、チャマスは近年のSPACブームの祖と見られています。
 
PwCの資料より引用。SPAC IPOの近年の急上昇
 
現在は上記の3社のSPAC IPOにとどまりますが、ほかにもSocial Capitalは何十社も計画中だと言われています。チャマスが共同ホストをつとめる「All-In Podcast」にて、NYSEのティッカーシンボルを「IPOA」から「IPOZ」まで予約済みであることを最近明かしました。
 
Social Capitalについての概説が済んだところで、創業者チャマス・パリハピティヤについて見ていきましょう。
 

チャマス・パリハピティヤについて

幼少時代

1976年にスリランカで生まれたパリハピティヤは、6歳の時にスリランカ難民として家族でカナダに移住しました。
 
彼の幼少期のあいだずっと、パリハピティヤの父親は失業しており、母親は家政婦、のちに看護師の手伝いをして暮らしていました。
 
生活保護を受けていたパリハピティヤは、いつもマットレスの上で睡眠をとっており、家族を助けるためにパートタイムで働きながら学校に通い、17歳で卒業しました。
 

青年時代

1999年にウォータールー大学で電気工学の学位を取得した後、Palihapitiyaは投資銀行のBMOネスビット・バーンズでデリバティブトレーダーとして1年間働き、その後当時の彼女と一緒に暮らすためにカリフォルニアに移住します。(その後結婚し、2018年に離婚)
 
現在はイタリア人モデルのナタリー・ドンペとともにカリフォルニアに住んでいます。
 
2001年にAOLに入社すると、2004年には同社史上最年少でVice Presidentに就任し、インスタント・メッセージング部門を率いました。
チャマスとナタリー・ドンぺ
2005年にAOLを退社し、Mayfield Fundに入社するも数ヶ月後には退社し、当時設立1年強だったFacebookに入社します。Facebookでは、ユーザー数を増やすことに関わっていました。
 
余談ですが、スティーブン・レヴィ著の「Facebook. The Inside Story」によると、社内ではいじめっ子とみなされ、多くの部下をしょっちゅう泣かせていたようです。
 
また、のちにチャマスはFacebookを批判しており、「Facebookが世界最大のソーシャルメディアプラットフォームに成長するのを手助けしたことを後悔している。短期的なドーパミンドリブンのフィードバックループは、私たちが作り出した社会の仕組みを破壊している。これはアメリカの問題ではなく世界的な問題だ。」と述べています。
 

投資家時代

チャマスはFacebook在籍時から、PalantirやPure Storage(どちらも上場)、Playdom、Bumptop(それぞれDisney、Googleが買収)などに投資しています。
 
2011年にFacebookを退職すると、The Social+Capital Partnership(2015年にSocial Capitalに改称)を元妻とともに立ち上げます。
 
チャマスは「物言うVC」といった感じで、VC業界をたびたび痛烈に批判しています。
 
アイデアがリスキーすぎると感じたら、エンジェルやインキュベーターに丸投げする
ある程度のトラクションがあるときにしか投資しない
トラクションやビジネスについて深い理解などなく、単純にモメンタムを求めているだけ
「ベンチャー」キャピタルを「プロダクト・マーケット・フィット」キャピタルに置き換えてしまった
 
 
とはいえここまで説明したように最近のチャマスはSPAC IPOに熱心であり、彼自身も現在の興味はSocial Capital立ち上げ時とは変わっているのかもしれません。
 

投資方法(記事の紹介)

 
Social Capitalでの投資検討の仕方は、元従業員によってきわめて詳細に明らかにされています。
 
 
日本語訳はこちら
 
たとえば「ユーザーグロースのためのアカウンティング」においては、以下のような記事となっています。
 
toCスタートアップのピッチにおいてよく見られる最も一般的なグラフは、期間ごとのユーザー数を右肩上がりに列記して表示するものである。 時にはユーザーの合計数を「累積」で表示する会社すら見かける。これは明らかに虚栄の指標(バニティ・メトリクス)となってしまう。なぜなら一度サービスに登録はしたが実際にはアクティブではないユーザーもここに含まれるからである。
 
 
このサンプルチャートはある会社のMAUが16ヶ月間に渡って~12%/月で成長する様子を表している。 これだけを見るとこの会社に対して、成長という側面からかなりの好印象を受ける。しかしこの「アクティブユーザー」という言葉の定義はアプリケーションの目的によって異なってくる。例えばただ単に「アプリをダウンロードして開いたユーザー」という解釈もあれば「アプリ内で一定の行動をとったユーザー」 と定義するものもある。まずアクティブユーザーの定義を明記しておくことが大切である。
 
記事内には数式も多く取り入れられており、実践しやすい内容となっています。
 
こうしたものを実際にVCで働いていた方が解説しているのはなかなか稀有な事例なので、ぜひ一読をおすすめします。
 
参考文献