【後編】迷うくらいなら即アクションの哲学|アイデミー 石川 聡彦氏
公開日
2021/04/22
著者
この番組は、East Venturesの村上さんとスタタイのコラボ番組です。
East Venturesの村上です。いま最前線で戦うスタートアップの創業者をゲストに迎え、創業のインサイドストーリーやスタートアップを立ち上げ・経営する上での考え方を語っていただくPodcast番組「The Founders」の書き起こしです。
今回のFounder
石川聡彦氏(アイデミー)
AIを始めとするデジタル技術全般を学べる「Aidemy Business Cloud」を運営し、DX人材の育成サービスを主にエンタープライズ向けに提供 / あらゆるポジションで積極採用中
目次
シリーズAの資金調達での教訓採用での期待値コミュニケーションベンチャーマインドから始まった施策なぜアドバイザーの意見を全て取り入れるのか課題の質の変化と経営者としての行動変化最も良かったのは、アクション量が圧倒的に多かったこと
この記事は後編です。前編をまだご覧になっていない方は以下からどうぞ。
シリーズAの資金調達での教訓
去年8.3億円のシリーズAの資金調達をして、投資家の顔ぶれがアイデミーならではだなと思ったのですが、重視したポイントはありましたか?
もちろんいろいろありましたけど、8.3億円の調達ではUTECさんがリード投資してくださったんですね。UTECさんにはシードの段階から薄く入れていただいていました。プレシリーズAの段階でリードをとっていただき、創業間もないころからずっと見ていただいた投資家さんだったんですよ。ですのでUTECさんが投資したいというご意向と、かつ満足するバリュエーションで投資いただけるところがまず出発点でしたので、精神的に安定した状態で他の投資家さんを見つけるステップに移行できました。
その他のベンチャーキャピタルさんは東大IPCと大和企業投資と千葉道場ファンドがVCで、事業会社はダイキン工業さん、テクノプロさん、プラス個人投資家さんという顔ぶれです。日本のベンチャーキャピタルでフォローオン投資をされるところにはほとんど声をかけました。加えて、Aidemyと事業提携の話が進んでいたような事業会社にも声をかけて、ピンときていただいた会社様がそういった会社様で。こちらから選択的に選んだというよりも、本当に幅広く声をかけたという方が近いと思いますね。
このラウンドではハードシングスがあったとブログに書かれてあったんですが、話せる範囲でどういうことがあったのか教えていただけますか?
まあ起こりがちだと思うんですけれども、すごい確度の高い投資家さんがいらっしゃったんですけど、やっぱごめん無理という回答があったというのがあったりと、担当者との面談や最終フィックスする前の所感をポジティブに見過ぎてしまっていたっていうことはありますね。
着金するまで気を抜くなって話はよく言われると思うんですが、まさしくその通りで、そのあたりはかなりハードな調整がありましたね。
そこから得た教訓はありますか?
バックアッププランを用意するって話が近いですね。特に額が大きくなればなるほど、個人の意思決定から機関の意思決定に変わってくると思うんです。プレシリーズAまでのラウンドは1億円弱ぐらいだったんですが、ほとんど個人の意思決定で全ての投資が決まるというか。社長の握りを作っておけば、投資委員会があってもほぼ形式的なものに近かったりとか、個人投資家さんはその場でほぼOKっていうそういう形だと思うんです。
8億円の調達の時は、そういう最初の握りさえ作れればあとはほぼ形式的なものだよねというものじゃなくて、個人が納得して、投資委員会でちゃんと通って契約書を巻いて投資実行というフローが厳格に用意されているなと初めて気づきました。
その心づもりが甘かったというのが教訓としてはあります。ですので綿密なコミュニケーションをするのは当然のことだと思うんですが、コミュニケーションを取ったとしても後からいつでもくつがえるポイントがあるので、バックアッププランとしてもっとたくさんの投資家さんに声をかけても良かったと思いますね。
ちなみに何社くらいお声がけされたんですか?
本当にゆるく打診するレベルも含めれば、20, 30社には声をかけたと思いますね。実際にデューデリジェンスみたいな、こっちとしてもマテリアルを提供した会社というのが15社とか20社とかそれぐらいで、投資委員会までかけていただいたのが10社強。最終的に投資をされたのが6, 7社かと思います。
最終的には希望の満額を着金できた。正確には満額以上で、実は8億円が希望だったんですけど色々あって8.3億円になって。結果オーライではあったんですが、ちょっと綱渡りがありましたね。もっと何十社も声をかけても良かったなと思います。
採用での期待値コミュニケーション
採用についてお伺いします。すでにCOO・CFO・CTOといった幹部人材が揃っていますが、20歳近く歳の離れた方もいらっしゃいますよね。そういう方はどう見つけて、どう口説いて、どう引き入れたんでしょうか?
まず見つけ方については、一般的に言われているものをすべて使うということですね。リファラルもあるし、エージェントもあるし、ビズリーチみたいなダイレクトスカウトもあるし、Wantedlyも使うし、いろいろ使って。
歳上の方は僕のリファラルで行けることはほとんどないので、投資家のリファラルで繋いでもらった方がいらっしゃったり、エージェントから繋いでもらった方がいらっしゃったり、紹介によるものが多いですね。
口説き方っていうところについても、「歳上だからなんかこういう要素があるよね」っていうのは別になくて、いろいろ振り返っていろんな話を聞くと、やっぱり若手の社長を応援したいと思ったということをおっしゃって頂いて。歳上だから気をつけるとかそういうことは別にないですね。年齢によって変えることはしなかったですね。
そういうふうにフラットにやっている中で、何か心がけていたことはあったりしますか?
前職給料の高さはやっぱり年齢にかなり比例してきますね。歳上の方になればなるほど、前職給料をダウンするのはほぼお願いせざるを得ない状況で、それでも私たちの会社の中では高い水準みたいな話ってよくあって、そのあたりの期待はお伝えしています。
たとえば、BtoBのサービスの場合特に年齢が高い方は過去の取引先などで強い信頼関係を構築されてる方が多いので、実は想像以上に自分の繋がりで案件を作っていただくっていうようなことが多くあるんですよ。ですので、そのような期待は話しますね。
たとえば「〇〇さんは年収いくらで、前職よりもこれぐらい下げていただいていると思うんですけど、Aidemyにとってはめちゃくちゃ高い水準なんですよ」ということを伝え、その上で結果は出していただきたいですと。 売上貢献していただきたいというのが一番わかりやすくて、例えば過去のつながりとかで案件をとってほしいみたいな、そんな感じですね。そこは年上ならではのところはありますね。
ベンチャーマインドから始まった施策
施策のお話を聞かせてください。Aidemyはプレスリリースの数が尋常じゃないと思うんですけど、どういう意図とか戦略を持って取り組まれているんですか?
そうですね。プレスリリースに限らず大前提の考え方として、やってみないとわからないことが非常に多いので、できるだけアクションの数を増やしてその中で結果が出たものに選択的に集中していこうっていう考え方でやってきましょうというカルチャーはあります。
今でも「常に挑戦する」っていう考え方は、Aidemyのバリューの1つ「クライアントファースト」を実現し続けるためには、常に挑戦しようという意図を込めて社内展開しています。そういう議論の前提になるようなデータが特に初期であればあるほどないので、議論をしても空中戦になりがちでした。じゃあ全部アクションしてから決めた方がいいよねというカルチャーマインドは大事にしていました。
プレスリリースがすごく有用なのは、アクションをたくさんするデメリットとしては工数がかかるっていうのがあるんですけど、プレスリリースを書くってそんなに工数がかからないんですよね。短時間(意思決定は全て自分でできるので)で書けるし、その中でどういうふうにお客さんに訴求するのかと課題の整理もできます。
Amazonの経営会議はパワポじゃなくてプレスリリース形式で行うという話もたまたま聞いて、これいいなって思ったんですよ。ですので、Aidemyにとって初期の2017年から2018年の時は、カジュアルにユーザーの声を検証するツールとしてプレスリリースを最初に発表して、そこでのフィードバックをベースにプライオリティをつけるということをやっていました。
そのフィードバックは数で測ってたんですか?それとも別の指標があったんですか?
ベースは数ですね。PV数、シェア数、コメントの数、ツイッターでどのぐらいバズったのか、そういうちょっと定性的な感覚をもとに測っていたって感じですね。
うまく機能させるためのポイントとかじゃなくて、本当に単純に手数を増やす感じなんですね。
改善する上でプライオリティをつけるやり方ですね。たとえばプライオリティを上げたものは、Aidemyの教材をAIだけではなくブロックチェーンという講座も増やすということを2018年にやって、すごいバズったんです。何かニーズありそうだから作るかと。
逆にプライオリティーを下げたのはスマートフォンアプリ。Aidemyがスマホアプリでもできますみたいな話。確かあんまり刺さらなくて一旦ペンディングしたんですよ。ただ、改めてもう1回やりたいよねと社内では話してるんですけど。
そんな感じで、(プレスリリースの反応を)限られるリソースの配分方法を決める材料にしてましたね。
プレスリリースを打った時の反応と、実際にその機能を実装した時のユーザーの反応って意外と乖離してたりするんでしょうか?
意外と乖離してますね。それはもしかしたらBtoCからBtoBにシフトしたからかもしれないですけれど。
代表的なのが、バーチャルYoutuberがAIの教材を教える企画があって、すごいバズったんですよ。面白いと思って実際にコンテンツも作ったんですよ。でVTuberががPython入門とか教えるっていう動画を作ってローンチしたんですけど、いざローンチしてみると、「オフィスで見にくい」という声が殺到して、確かにそれはそうだなと言うので結局撮り直して僕が今教えてる動画になってるんですけど(笑)
なのでキャッチーなのは当然バズりやすいですけど、いざ使ってみると使いにくいって話もあるの取り入れるで、一定精査が必要ですね。
トータルで見ると、プレスリリースはやってよかったですね。1つはカルチャーマインドを社内に作る大きなきっかけになった。ユーザーの反応を見てから作ろうよっていうのは万物に通じる失敗しない法則だと思うんですけど、そういうのが社内に浸透したのは良かった。
2つ目は、(施策を)やろうかやらないか迷った時の決める材料になった。迷っていると何も進まないんですけど、アクションすればいろんな発見があるわけじゃないですか。バーチャルチューバーもその1つだと思います。
その2点でやってよかったですね。
(現在は広報がメインとなりプレスリリースを発信しているので、創業間もない頃の位置付けから変わりつつあります。)
なぜアドバイザーの意見を全て取り入れるのか
アドバイザーの意見を積極的に取り入れているスタンスだというのをお見かけしましたが、なぜそういうスタンスになったのか、どうしたらアドバイザーを最大限生かすことができるのかを知りたいです。
取り入れるに至った要因としては、過去の失敗が多かったからですね。
要するに、自分だけが考えてやみくもにスタートアップしてた2014年から2017年頃は上手くいっていませんでした。天狗の鼻が折れたということかもしれないですが、第三者からのフィードバックというものを真摯に受け止めた方が、おそらく会社の成長に向けて近道だろうなと思ったのが、いろんなフィードバックを参考にしようと思った理由ですね。
そこから先はプレスリリースの話に似ていて、いろんなフィードバックもらうわけじゃないですか。AさんBさんCさんに聞きに行くと結構違う角度からのフィードバックが返ってくることがあるので、そういう時にどうしようかなって迷うわけです。でも、迷ってる時間があるんだったら全部アクションした方が早いよねっていう話もあるし、フィードバックする側もアイデミーが何かアクションすると恐らく喜んでさらにフィードバックしてくれるというのはあると思うんですよ。
そういう意味でプレスリリース打つのってわかりやすいですよね。短時間ですぐできるし、こんな感じでリリース打ちましたっていう報告もできるし。なので手数を増やしてできるだけアクションするっていう中でアドバイスしてもらうっていうのはすごく有用に機能しますね。
とはいえ、自分が1番ドメイン知識あるじゃないですか。情報の非対称性はそれなりにあると思うんですけど、コンスタントに情報を送ってその前提条件をなるべく合わせるようにして、アドバイザーからもらう意見の質をなるべく上げるような努力をしているのでしょうか?
気になっている問いによって相談する人が変わるっていう話だと思いますね。
たとえばベンチャー企業の中の組織の話だったら、ベンチャー企業の経営者であれば多分問題になるような内容って大差ないわけじゃないですか。もちろん組織の差はありますけど、それはディスカッションの中で埋めればいい話なので。
ですので組織について気になっていたとしたら、同じようなステージを経験したことがあるような先輩経営者に聞くし、エンジェルに聞きます。
お客さんについて聞きたいということであれば、私たちの場合は顧客に製造業とかが多いので、ベンチャー企業の経営者というより製造業で上り詰めた方とか、製造業を相手にしたビジネスを展開されている方に聞いた方がいいので、そういった方を選択的に選び活用させて頂いてますね。
課題の質の変化と経営者としての行動変化
抽象的な質問になりますが、Aidemyをリリースして3年以上経っていますけど、そのなかで自分の目線が変わっていく感覚みたいなのはあったりしますか?
目線とは何かという話かもしれないですが、やっぱり課題の質は変わりますよね。
スタートアップ、10人20人ぐらいの時と、今正社員60人ですが、何十人の壁っていう話に似てくるかもしれないですが、社長に求められる役割ってちょっとずつ変わっていってるなという気がしています。
1人2人プラスインターンの時はスーパー営業マンというか、タフに働ける能力みたいな個の頑張り、個がどれくらい結果出せるのかっていうところにフォーカスが当てられると思うんですけど。
10名20名ぐらいになってくると個の力と同じくらいチームの力というものが重視されるようになります。50、60人になると階層が実質的に社長・中間管理職・メンバーという3階層ぐらいになるので、チームを動かすのは変わらないんですが、いかに中間管理職を動かすのかみたいな話に変わってきます。
特に会社というチームで結果を出すために必要な要素が変わってきてるなと思うんですよね。それがもしかしたら目線が上がるっていう話かもしれない。
それによって日々の行動も変わったりするんですか?
変わりますね。初期の頃はいかに自分ができるだけ早く動けるのかに集中してました。自分がどうやってトップ営業マンになるのかとか、自分がどうやってトップCSになるのかとか、自分がどうやってトップエンジニアになるのかっていうのが、ビジネスグロースの1番の近道だったのでいかに自分の能力を伸ばすのかというところに集中してたんですよね。なのでめちゃくちゃ資料も作るし、新しいテクノロジーについても知るし、めちゃくちゃトップ営業もしました。
それが徐々に変わって、特に年上の方が自分より圧倒的にスキルがある方も多いので、いかにその方の目指す方向性と僕・会社が目指す方向性を擦り合わせるのかというところにどんどん力が向くようになりますね。
ですので、「自分だったらこうするのにな」という思いを少しずつ封印していく。どのようにしたら課題を解決できますかという問いかけに変えていくような感じですね。
最も良かったのは、アクション量が圧倒的に多かったこと
最後の質問になります。創業してここまでを振り返って、実行して1番良かったと思うことと、こうした方が良かったと思うことを1つずつ教えていただきたいです。
実行して良かったことは、重複するんですがアクション量が圧倒的に多かったことだなと思っています。
BtoCサービスからBtoBサービスに上手く早いうちにピボットできたのも、たくさんユーザーと会話をして、実はニーズがBtoBにあるというのがわかってきた、というのがあります。お客さんと会話することとか、結果が出るかもしれないということをどんどんアクションしたプレスリリースもそうですし。そういうのはすごく良かったなと思うことです。
悪かったこととしては、やはり組織の部分ですね。スモールなチームの方が早く成長できるようなことがあると思うんですよね。組織が拡大すればするほど成長速度って早くなるよねって勘違いしてた側面がありました。
ですので、その組織の部分は(もしもう一度やり直せるなら)もう少し違うやり方をしたかなと思いますね。
途中でインターンのメンバーを拡大しすぎてしまったところがあったりして、そこに時間を割かれてしまったなというのはありますね。
なるほど。必要最小限のクオリティの高いチームでやればよかったということですね。
はい。そこは反省点ですね。
最後に採用など告知があればぜひお願いします。
Aidemyでは今後BtoBサービスを軸に教育研修のサービスだけではなくて、育ったデジタル人材と弊社の人材が一緒になって新規のビジネスをやるっていうような事業を開始していこうと思っていてます。すでに部分的に開始しているんですが、EラーニングのサービスからDXを実現するサービスという形に、さらに大きくピボットしようと思っています。
ぜひそうしたエンタープライズ向けBtoBというところに興味があるような若手、20代のメンバーもウェルカムですし、そうしたエンタープライズに長くいらっしゃって、ベンチャー転職を考えているという方もウェルカムです。チャレンジをしてみたいという方がいらっしゃれば、ぜひ僕あたりにDMやWantedlyでいいねして頂いて、アクションしていただけるとすごく嬉しいです。
※この記事は配信者の許可を得て公開するものです。