【後編】新興領域でスタートアップを立ち上げる心得|クラスター 加藤直人氏
公開日
2021/03/22
著者
この番組は、East Venturesの村上さんとスタタイのコラボ番組です。
East Venturesの村上です。いま最前線で戦うスタートアップの創業者をゲストに迎え、創業のインサイドストーリーやスタートアップを立ち上げ・経営する上での考え方を語っていただくPodcast番組「The Founders」の書き起こしです。
この記事は【後編】です。前編をまだご覧になっていない方は、ぜひ以下のリンクからどうぞ。
目次
新興産業での資金調達
村上:今でこそVRもある程度ホットな領域として認知されるようになってきたと思うんですけど、当時ビジネスモデルも確立されてない中で、どうやってお金を集めたりとかしたんですか?
加藤:笑い話じゃないけど、クラスターは奇跡の会社だみたいなことを結構言われるんですけど。なんで売上ないのにファイナンスできてるんだみたいな(笑)
1番難しかったのは2億円ファイナンスをした時ですかね。2017年、それこそ正式版出る直前にファイナンスしてるんですけど。その時以外は結構バーチャルYouTuberの波とかがあって、結構ライブとかでも投げ銭されてっていう時代になっていったのでファイナンスしやすかった。その前とかはそれこそシードラウンドとかプレシリーズAラウンドなので、初期の盛り上がりみたいなのが作れてからの5,000万とかで(調達)しやすかったんですけどね。
僕の当時を思い返すと謎の自信があった。熱量とユーザーがあったので謎の自信があったのと、あとファイナンスするときのロジックとしても、当時イベント産業をすごい調べていたので、イベント産業をインターネットに載せるということができさえすれば、これくらいの売上規模になるはずで、そこでちゃんと独占し続けさえすれば、これくらいの規模感まで膨れ上がるよねっていう夢はちゃんと描いていた。
それをビジネスを転用するんだとしたら、イベント産業をバーチャル上に載せるというデジタルフォーメーションだと。今の言葉で言うならDXだと。こういうシンプルさがあったからこそというのはあると思いますね。
当時の資料とかも、リアルのイベント産業との比較。リアルのイベントでこれだけのお金がこう動いて、そのなかでバーチャルの体験っていうのはユーザーの反応としてこうなってると。じゃあ最初は売上少ないかもしれないけど、徐々に何パーセントずつみたいな感じで。
でも1%でもリアル産業から引っ張ることができたらすごい売上ですからね。1兆円を超えるような産業ですから。というのが基本的にあったので、ファイナンスもできたし、それを信じてくれる投資家のみなさんがそのときにいたという感じですね。感謝してもしきれないなと思うんですけど、その2億ファイナンスした時が1番のアレでしたね。何もないなかでの2億ファイナンスだったので、もう信じてくれというような感じでした。
DAU、継続率ではなくユーザーの熱量に投資をする

村上:過去のツイートでも、C向けのサービスで安易にDAUとか継続率を追わずに、ユーザーの熱量を最重要KPIにして、さらに燃え上がるように投資するみたいなことを書かれていたと思うんですけど、そこをもうちょっと詳しく教えていただけませんか?かなり定性的だと思うんですけど。
加藤:定性的だけど定量化しないといけないんですよね。難しいんですよ。しかもサービス形態によると思っていて。どこまでいっても先行指標と後からついてくる遅行指標の話だと思っていて、何がサービスを伸ばすときの先行指標になってくるかっていうふうに考えると、どこまでいってもユーザーの熱量が先に盛り上がって、それがサービス全体のグロースに跳ね返ってくるっていうのがあるんで。
結局のところユーザー数と、そのユーザーがどれだけお金を落としてくれるかと、継続率みたいなところの掛け算だと思うんですけれども、本質的にはやっぱりそのプロダクトというものを熱狂的にどれだけ使ってくれるか。そのユーザーの世界観とか生活をどれだけ変えたかというところがプロダクトの価値だというのが僕の最初からの価値観です。
特にコミュニティーサービスだと熱量ですよね。どんだけそこに時間を使っているかとか。毎日使ってるユーザーとか、どんだけ時間を費やしてるか、どれだけコミットしてくれてるのかみたいなエンゲージメントをすごい重要視していて。カジュアルに遊びに来て帰るみたいなユーザーの方はほぼ一切見てない。
村上:なるほど。かなり深く遊び込んでいるというか、使い込んでいるユーザーがいるかどうかみたいな。
加藤:そうなんですよね。結局のところ、これはUser Generated Contents(UGC)のサービスは特に顕著だと思うんですけれども、すごい熱量高いクリエーターのピラミッドをどう作っていくかっていうのが、すごい大事だというのがありますね。
YouTubeってすごいピラミッドがちゃんと形成されていると思って。このピラミッドの大きさがそのプロダクトの価値の源泉だし、価値の大きさになる。でもその時に、どうやってこのピラミッドできるんだっけとなると、いきなりTop of Topのクリエイターを引っ張ってきたからといってこのピラミッドはできあがらない。
そうではなくて、どうやってC向けサービスって伸びていくのかというと、熱量高いユーザーが熱量高くないユーザーの熱量を高く転換していくことによってピラミッドは形成されていくはず。複利のかかり方ってこうなはずなんですよ。
複利って数学的にどうやるとエクスポネンシャルになるかというと、
積分するとエクスポネンシャルになるということは、その規模に対して成長率が大きくなっていくというのがエクスポネンシャルになるはずだというふうに考えると、新規サービスにおける熱とそれが成長に寄与するってなにかというと、純粋にユーザーの熱なんですよ。つまりMAUが大きいからといって成長率は大きくならないんですよ。
ユーザーの熱は、熱量を持ってないユーザーを熱量あるユーザーに転換するんですよ。この熱の飛び火がC向けサービスの本質だと僕は思っていて。だから熱量高いユーザーが大きければ大きいほど転換の量が大きくなっていく。だから積分するとエクスポネンシャルになるんですね。
というのが複利のきく構造の基本で。となると、本質的には広告回してユーザーがどんだけ流入してるかみたいなものっていうのは複利的な成長には一切効いてこない。複利が効く指標って何かというと熱量のあるユーザー。だからどこまで行っても、複利を効かせながらエクスポネンシャルに伸ばしたいのであれば、熱量あるユーザーに投資しまくるっていうのが唯一の解だと思います。
村上:それ、どうやって計測しているんですか?計測はできない?
加藤:まあシークレットといえばシークレットなんですけど(笑)まあ純粋に、どれだけ週次とかで毎日使っているか、やっぱり週1回だけ使ってますみたいなのはすごいカジュアルなサービス。これはクラスターっていうサービスの特性なんですが、クラスターはやっぱり毎日使ってなんぼのサービス。SNS・ソーシャルサービスなので、どれだけ毎日使ってるか、どれだけ時間を使ってくれているか。
本質的に理想の指標はクラスターのことを考えてくれている時間っていうのを(データが)とることができるんだとしたら、それが理想のKPIなんですよね。全ユーザーがクラスターのことに思いを寄せてくれている時間。ただそれはとれないので、それに近似するような指標っていうのをKPIにしながら、そこが伸びるようにしている。どれだけクラスターのことに思いを寄せてコミットしているか。
村上:めっちゃ面白いですね。最初の火をつける瞬間っていうのが多分1番大変なんじゃないかと思うんですけど、1人目とか初期のとき、それはどうしたんですか?
加藤:それを見つけるためにプロダクトを作っては捨て、作っては捨てしてたと思いますね。なんか数人でいいんですよね。たぶん最初の数人とか、最初の数十人でいいと思う。数十人だけでいいと思うんですけど、もう毎日毎日そのことだけ考え続けてくれている、このプロダクトのことばかり考えてくれて、このプロダクトをすごい布教してくれる。エバンジェリスト、宣教師になってくれるユーザーですよね。
そういうサービスを1番最初にどう作るかですよね。本当にこればかりは分からない(笑)狙ってそこを生み出すのって難しいと思うので、もうとにかく手数を打つしかないと思うんですよね。
村上:逆に言うと、本当にニーズのあるサービスだったらリリースしたくらいには熱量のあるユーザーが1人かもしれないけどいるっていうことになるんですかね?
加藤:いるんだと思いますね。だからそこが0人なんだとしたら多分作り直した方が良いんだろうなっていう。プロダクトとか市場とかコミュニケーションの仕方に問題があるのかなと。
新興産業では、自分の張っている未来を信じ続ける
村上:こういう新興産業でスタートアップを立ち上げてきて、最大の教訓って何かありますか?
加藤:最大の教訓かあ。1番難しいなって思うところは、結局のところ、新興なので0から作らないといけないじゃないですか。要はジャングルを切り拓く感じなので、メンバーが疲弊するんですよね。クラスター社は人にだいぶ恵まれたし、組織に恵まれたと思っていて、組織崩壊が1回も起こってないんですよ。
ただ、組織崩壊になり得るような不穏な空気みたいなのはやっぱりあった。当たるまではギスギスしちゃったりとか。でも崩壊しなかったですよ。今も結構初期のメンバーとか残ってくれて、すごいバリバリ活躍して下さっていて感謝しかないんですけど。
まあそこですよね。新興って、どこまで行っても本当にあるのかないのかわからない。何を信じればいいのか分からないみたいなのがあって。グラつき始めるみたいなのって。結局のところ社長が信じられなくなったタイミングかなと思うんですよ。僕自身がちょっと揺れて大丈夫かなと思い始めると、ちょっとなんか全体の空気が悪くなってくる。自信持てなくなってくる。言葉にしなくても空気が伝わるんでしょうね。それでも残ってくれてついてきてくださっているメンバー大感謝ですね。
「こういうビジネスモデルがある」とわかりやすければ、なかなかブレにくいと思うし、社員とかメンバーもみんな信じやすいと思って。社長が信じられなくてもその市場構造をちゃんと理解して信じられるみたいな。
でも新興市場って社長を信じる以外、誰も信じれないので。社長の信念とか信じている所に集まってくれているという観点に尽きるかなあと。教訓というと。
村上:加藤さんは揺らがなかったんですか?
加藤:いや〜、でも揺らいでましたよ。冬の時代とかは(笑)
まあでも大きく揺らいだことはないなという感じですね。大きく揺らいで大きくピボットしたりとかはしなかったので。やっぱり揺らぎますよね。これ大丈夫なのかなあ...みたいな(笑)これお金にできるのかなあ...みたいなところは揺らいだりしてたんで、自戒を込めつつ(教訓にしている)っていう感じですね。自分の張っている未来、自分だけの仮説とかを信じるというところですね。
創業以来、実行して1番良かったこと
村上:ありがとうございます。最後の質問なんですけど、創業してここまでを振り返って、実行して1番良かったなって思うことを教えていただきたいです。
加藤:多分、採用のハードルをめっちゃ上げたこと。ちょっと言い方悪いですけど、最初の頃、採用ちょっとザルだったんですよ。その時に問題が発生して辞める社員がいたりとかあったんですけど。
手が足りなくて人を入れるみたいなのをやめようと。めちゃくちゃ採用ハードルを上げて、人足りない足りないって言いながらでもやろうっていうふうに意思決定したときがあって。社員に体験入社をしてもらったりするし、みんなの合意のもと、誰か1人でも首かしげるんだとしたらダメみたいなぐらいのすごいハードルを設けて。平均値を上げていくような採用をしていこうみたいなことをやり始めたんですけど。
会社やってて思うのは、会社ってどこまで行っても人なので。その人を選ぶ際に、クラスターのカルチャー・バリューに沿ってるか。どんなに優秀でもそこに沿ってない人っていうのはとらないし。というように採用ハードルをすごく上げたことですね。
村上:足りない方がマシっていう感じなんですね。
加藤:これは新興市場やってるからというのもあるかなと思っていて。もしかしたらフェーズが変わって、採用の基準が変わるタイミングがあると思うんですよ。あると思うんですけど、それこそやっぱり信じてくれないといけない。社長が今やってることだったりとか、切り拓いていることに対して信じてくれないといけない。信じられないといけないし、だからやっぱすごいハードですね。ハードなのでギスギスしちゃうところをなんとかリスペクトを持ち合いながら動かないと仕事にならないし。
性善説で動けるかとか、情報をオープンにできるかとか、そういうのがないと一瞬で崩壊しますよね。新興市場ほど。特にC向け新興市場なんてすごいもう柔らかい飴細工(笑)
鋼のメンタルなんて持ってないので、たまには「これやべえな」とか思っちゃうときとかあるんですけど、それを一緒に乗り越えてくれるメンバーの中に1人でも駄目な人が混ざっちゃうと、周りを巻き込んで組織が一緒に崩壊するというのがあるので、採用ハードルをすごい上げるという意思決定をして取り組んできたっていうのはやってよかったですね。
村上:わかりました。最後に、もし採用など告知があればぜひお願いします。
加藤:採用ハードルめっちゃ上げたって言った後なんですけど、採用してます(笑)
クラスター社はエンジニアとかデザイナーばかりの会社なんじゃないのって言われる事あるんですが、そんなこともなくてですね。結構イベントの方で、ビジネスをやっている部署が半分くらいを占めてまして。営業だったりとかも結構いますし、イベントって広告産業でもあるので、広告代理店出身の方だったりとか、そういうビジネスサイドの方も募集しております。結構オールジャンル募集してます。
今、社員数が非常勤も含めると55人から60人くらいなんですけど、もう100人まで増やすぞって言いながらやってるので。さっきのに相反するかと思いきや、採用ハードルは上げつつ、100人まで増やそうという目標を立てているので、みなさんぜひ。
村上:本当に日本初でグローバルを狙えるプラットフォーム作りにチャレンジできる機会はそうそうないと思うので、ぜひご興味のある方は説明欄にリンクあると思うので、そこからお話ししてみてください。
それでは、クラスターの加藤さんをお迎えした今回のThe Foundersは以上となります。本日はありがとうございました。
※情報開示:今回のインタビュー先のクラスターはEast Venturesの出資先です。