【前編】前代未聞のBIGチャレンジの序章 | Luup 岡井 大輝氏
公開日
2021/07/02
著者
この番組は、East Venturesの村上さんとスタタイのコラボ番組です。
East Venturesの村上です。いま最前線で戦うスタートアップの創業者をゲストに迎え、創業のインサイドストーリーやスタートアップを立ち上げ・経営する上での考え方を語っていただくPodcast番組「The Founders」の書き起こしです。今回は記事のみをお届けします。
今回のFounder
岡井 大輝氏(Luup)
電動キックボードなどマイクロモビリティのシェアリング事業「LUUP」の運営 / BizDevやPdMなどのポジションはもちろん、特にエンジニアを積極採用中
目次
創業の経緯
スタートアップを起業する経緯について教えてください。
結論から言うと、そんなに他の人ほど欲しい物がないんです。家も車も時計も別にいらないなという感じで。
東京に親がいて弟も堅実に優秀なタイプなので、最低限食っていく分には何とかなるだろうと漠然と思い、じゃあ残りの人生で何をするんだろうかと考えたときに、せっかく生きるなら人類の前進に貢献することをしたいと考えたのが一番最初になります。
何をもって人類の前進なのかと言うと、この10年20年でいろいろと技術が進化して、そのままの指数関数で行くとシンギュラリティも見えるみたいなことが言われたり言われなかったりする中で、その時間軸でいくと僕らの世代か、僕らの次の世代ぐらいがシンギュラリティに当たると思ってるんです。
それを僕らの次の世代にやってほしくないんです。自分が生きてるうちにやって欲しいですよね。せっかく生きるなら。なので可能な限り人類全体が前進することにコミットして、それで死ぬときにそれでも至らなかったとなると、笑って死ねるかなと。そこにいかに貢献できるかというときに、マジで何もないただのクソガキだった自分が取り得る選択肢の中だと、多くの人の信用を借りて事業を行うスタートアップという手法が当時においては最適だったと。
でもすぐに学生起業したわけではないですよね?
そうなんです。もともと大学2年生くらいのときに起業しようとなって、いろいろ事業案を考えて、それこそ調達も考えたんですけど、数千万円くらいしか集まりそうになくて。スケールするような事業が作れる感覚がなかったんですよね。
先ほど述べたようなロジックで起業したので、今考えればそうじゃなかった部分もあったかなと思うんですけど、当時は国内で起業する以外だと自分には難しいと思っていたので、せっかくなら日本のインフラを作りましょうと。
日本で生きる上でいかにみんなの生活を前進させるようなものが作れるかを考えた時に、日本で今何かやるならば、30年後の日本で「これがなかったらヤバかったね」というインフラを作るべきだと思ってるんです。なので30年後ぐらいの本当にやばくなってしまった日本において何ができるか。これこそ、わざわざ日本で起業するメリットかなと思ってます。
例えば、世界の先進国に先立って人口が減っていくのは日本くらいなわけです。
この規模で人口が減っていく国は他にはあまり無いんです。しかも東南アジアとかアフリカは今でこそ人口伸びてますけど、どこかで頭打ちになるはず。そして昔ほどは出生率が高くなくなっていく中でどこかで頭打ちがくるので、どこかで地球全体の人口が減っていくわけなんですよ。
そうした時に、人口減少から生まれる課題に一部でも寄与できるものを作れていれば、僕らがグローバルで求められる可能性もあるんじゃないかなと思っていて。日本で創業する意味、もしくは僕らが人生を賭けて何か意味があることをするとしたらそこかなと。
そしてインフラを作ろうとなった時に、全然大学生じゃダメじゃんという考えがありまして。どのインフラにするかとかは考えが至らなかったんですけど、このままじゃダメだみたいなのがあって。
元々5人で創業しようとしたんですけど、結果として30歳ぐらいになったらもう1回集まって起業しようとなって。その後のことは端折りますが、2年ぐらい経って再度集まって同じ2,3人で作ったのがLUUPとなっています。
修行期間みたいなものがあったんですね。
そうなんです。そのときに代表取締役やエンジニアといった役割を決めてました。合流しなかった二人は今は有名な外資系コンサル🍟と有名な外資系ファンド🪨にいます。また人生のどこかで集まると思っています。
LUUPという事業にした理由
インフラを作るという目的で起業して、最初はLUUPではない複数の事業をやられていたと思います。LUUPとの違いや、LUUPで勝負することに決めた要因などはあるんでしょうか?
2つあります。
1つは、そもそも30年後のインフラになるほどの必要性とスケーラビリティが担保できるかっていう話。
もう1つが、それを作るに当たって僕らが最適なポジションを築けるか。
この2つの観点からピボットしてきたんですよ。LUUPならその2つがもしかしたら満たせるかも知れないと思ったことが、それまでに検討してきた他の事業との違いかなと思ってます。
たとえばトヨタが作った方がいいなら、トヨタが作った方がいいという話ですね。医療系のほとんどの事業はエムスリーが作るのが最適ではないでしょうか。でも、中にはあるはずなんですよ。小さい組織じゃないと作れないものが。
ピボット前の事業もそんなに長くはやっていなくて、ユーザーとかにぶつけていくなかで、2つのうちどちらかの条件を満たせなかったら「これはダメだ。次行こう。」みたいなのを繰り返した感じです。
恥ずかしながら当時は明確な撤退基準というのはありませんでした。だからピボットに迷いました。「もうちょっとこれ続けた方がいいんじゃない」とか「一応ニーズはあるよ」みたいな。
ピーター・ティールが言うような「小さい市場の独占」とかありますけど、その小さい市場が大きく拡張していくスケーラビリティがあるかどうかの方が重要で。小さい市場の独占自体は、その言葉どおりの意味だったら比較的楽なはずなんです。
まあ言うほどにはスパッとラインが満たせてたわけではないんですけど、その2つの軸をもとにいろいろ試行錯誤したということです。
そうした撤退の意思決定をする際には、外部からのフィードバックで決めるのか、内省的に決めるのか、どちらなのでしょうか?
基本的には内省です。重要な意思決定ほど外の意見をアテにしませんでした。
ファクトとしてのアドバイスは結構得られると思うんですけど、こんなの誰もわかんないじゃないですか正直。なので最終的には自分で考えるしかないと思うんです。
一応みんなで決めるんですが、議論のリードは自分がやるような形で。複雑度が高い論点は人数が多ければ完成度が上がるというものじゃないはずなので、怖いですがそうしています。正直この時期が一番きつかったです。
だって事業が変わるんですから。しかも予め決めていたチェックポイントではない論点で変わっていくので、当然会社の中では「お前何言ってるの?」みたいな空気になります。めっちゃお金もなくなりますし。
それでメンバーが離れることはなかったんですか?
結果的にはなかったです。創業から2年半ぐらい経つまでは業務委託含めて1人も辞めなかったんです。なので周りの人が優しかったんだと思います。ありがたいことに、ついてきてくれました。
なぜ挑戦に踏み切れたのか
そこからLUUPになっていくんですね。普通に考えると、規制も多く資本も必要で参入に踏み切れない感覚があるんですけど、そんななかでなぜ参入を決められたのでしょうか?
まずは需要の話があると思っていて。国内ではdocomoバイクシェア、海外でいくとBirdとLimeを目の当たりにして、ラストワンマイルの新しいインフラの需要があると感じました。端的に言うと。
当時難しいだろうなと思っていたことは「本当に法律は変わるのか。そして法律が変わったとして、こんなにBSが重たくて、新しく作って、それを安全の保証もして、安全性を街中で理解してもらって提供することができるのか」という点です。
普通に販売した方がきっと楽じゃないですか。スタートアップ3,4個分の大変なことをやらなきゃいけないのにどうやったら僕たちにできるのか。
規制の適正化に関しては可能性があると考えました。これまで達成されたものもダメになったものをいろいろ見てきて、僕らは可能性がある方に該当すると思ったから。
事業の方はもう根拠のない自信ですね。絶対にできるだろう、と信じ込んだ感じです。今考えれば、想像の100倍ぐらい大変だったのですが。
僕らのこの事業はこれまでのものと違って、資本がついてくるかどうかが大きな論点だったんです、いかに優秀な人がいてもお金が初期に集まらなかったら意味ないんです。
なのでそれこそ、このLUUPだけはいろんなVCがお金を出してくれるという確信を持った上で始める必要があったんです。過去の事業はエクイティでファイナンスしてないんです。僕がコンサルやってた時に貯めてたお金を切り崩し、消費者金融からもお金を借りながらやってたので。
LUUPのみ、エンジェルやVCといったスタートアップの方々が(お金を)入れたいってなってくれるんだったらやろうと思ってました。そしてありがたいことにOKをもらえたという感じです。
シードラウンドの資本が集まるからといってシリーズA,Bもついてくるわけではないので、今考えると死ぬほど甘いなと思います(笑)
やっぱりシードラウンドだけは特殊じゃないですか。特に国内では。(今の国内エクイティ市場だと)シリーズA,Bあたりにおそらく死の谷がある気がしていて。なので考えが甘いにもほどがあるのですが、当時バカの頭なりに考えたという感じです。
初期の資金調達で妥当性をどう示したか
こういう法律を変えていく事業で、与信のない初期の起業家がどうやって投資家を説得したのかが気になります。何をもって自分ならできると説得したのですか?
2つあります。この議論ってよくあるじゃないですか。最初どうやって説得するかという話。
「プロトタイプを持っていけ」型の意見と、「ちゃんとロジカルに説明しろ」型の意見があると思っていて。自分は結論から言うと「両方やろうよ」っていう感じです。
なので、East Venturesの金子さんとかANRIの中路さんとか投資家に会う時は必ずキックボードを持っていってたんです。あらゆるアポに。今はやらないですけど。(みんな機体のことは知ってるので)
会食では、やっぱり入り口で止められるんですよ。そこを無理やり部屋まで持っていかせてもらって(笑)でもそれを見せるのが1番早くて。それ以外にプロトタイプがなかったので。
今僕らの渋谷のシェアサイクルのマップを見てもらっても、去年の時点で50個程度しかなかったポートと今の時点で5倍ぐらいの密度になったポートは別の事業なんです。ここからさらに250ポート、500ポート、1,000ポートとかになったらさらにまた別の事業ですね。
鉄道とかでも、渋谷と吉祥寺しか行けない電車と、その間の20個の駅全部に停まれる電車はもう別の事業なんです多分。
それと一緒で、密度とかスケールによって価値が変わっちゃうので、プロトタイピングで機体を作る以上のことは難しかったと判断しました。
なので投資家にどうプレゼンするかというと、機体を持って行ってましたっていう話と、もう1つが「何で僕たちが勝てるのか」っていうのを可能な限り(論点の)解像度を高めてそれぞれ潰していくってことです。ここではわざわざ言わないですけど、「規制の適正化とは何か」も解像度を高めて、少なくともこのぐらいの仮説は持ってますっていう仮説の解像度で示したっていう感じです。
競合に勝てるのかとか、法律が変わるのかとか、高いBSの初期のブレイクスルーをどうするかとか。あとは街の関係者にどうやって受け入れられるかとか。それぞれの論点で全部解消するような資料を持っていってたので結構分厚くなりました。
結構リスクが大きい事業だと思うんです。なぜかというとPMFをしっかり見れないから。SaaSとかだったらプロトタイプを作って法人に持っていって契約決まったら行けると判断される可能性が高そうに思えるじゃないですか。もっと実際は難関があるとは思いますけどね。
僕の場合それすらできなかったので、逆に言うとめちゃくちゃ老獪な方はこの市場に入ってこないと思ったんですね。僕が40歳でもうちょっとキャリア積んでたらこの事業はやらなかったですね。あまりにも先が見えないので。なので「難しい」というのが1つ大事だったというのが僕の中にはあります。
難しい事業をやるときにその反対に絶対大事なのは完成したら100%使ってもらえるようなニーズを見つけること。僕らの場合は移動ですね。それこそイーロンマスクのThe Boring Companyみたいな。
PMFの検証ができないので確実にニーズがあるものを探した。
とはいえ怖いです。日本には非常に便利な鉄道があるので。なので海外の事例とかをよく見ながら可能な限りロジックを詰めていきました。
アメリカに行って400人ぐらいにユーザーヒアリングしました。LimeとかBirdに乗っているユーザーを街中で無理やり止めて、ちょっと5分話聞かせてくださいと。「なんで(半分以下の単価のシェアサイクルや、追加100円くらいで乗れるUberなどの)他じゃなくてこれなの?」とか聞いて、ニーズが普遍的なものかを確認してました。
可能な限りの腹落ちはしましたが、残り30%とか40%とかは「もうこれ以上は作ってみないと無理だ」という確信がありました。残りの30%が考えても埋まらないものだからといって、70%埋めないというわけではなく、70%埋めた上で、その先ははわからないのでやるしかないよねっていう。
複雑性の高い事業でどうスタートを切ったか
事業はどこから取りかかったのですか?
創業時は自転車で参入するつもりはなかったんですよね。創業当時は電動キックボードの機体の製造と関係省庁との協議がメインでした。
機体の製造も今でこそ海外の工場を使ってますけど、当時は「機体なんかどうやって作るの」ってなってたんです。国内で買って、自分で無理やり改造しようとすらしていた時期がありますね。
さらに言うと、一番最初はキックボードとも決めてなかったんです。短距離移動とは決めてたんですが。なので車なのかミニカーなのか、電動自転車なのか電動じゃないのか、電動キックボードなのか電動じゃないのか、10種類ぐらい検証したんです。
機体すら決めてなかったのは、法律がどういう方向でOKになるのか分からなかったからです。キックボードの改造版なのか原付バイクの改造版なのかどっちの方が日本で受け入れられるかわからなかったので。
なので、僕らの場合は関係省庁との協議が一番最初に先行しました。
ただ今から考えるとその考え方は良くないですね。先に事業を作って市場にどうやって受け入れられるかを見てくるのが一番優先度高いなと思ったので、結局、機体の方ではなく、高密度のシェアというモデルの方の検証から先に入りました。
僕らのシェアサイクルってキックボードと同じ横幅で作られてるんです。将来的にキックボードになる代わりとして市場に入っているので、これでPMFを見ようとしました。
だいぶ遠回りしてしまったとは思うんですが、ただ僕らがシェアサイクルやりたいんですって一番最初に投資家を回ったらみなさんOKしてくれなかったような気もするんですよね。(不思議ですね)
ロビイングについて
ロビイングはどう進めたのですか?
できる限り関係者に会いまくることです。たとえば友達の紹介とかでも、その人より先輩を紹介してもらうことのハードルって高いじゃないですか。その人より後輩だったら簡単に紹介してもらえますみたいな話で。
圧倒的に日本に必要だと思ってもらえることが大事なのかなと。もともと僕らにはツテとかなかったので、会いまくって紹介してもらいまくったという感じです。
後編はこちら。
BizDevやPdMなどのポジションはもちろん、特にエンジニアを積極採用中!