【後編】事を成すための誓約と制約の覚悟 | Luup 岡井 大輝氏
この番組は、East Venturesの村上さんとスタタイのコラボ番組です。
East Venturesの村上です。いま最前線で戦うスタートアップの創業者をゲストに迎え、創業のインサイドストーリーやスタートアップを立ち上げ・経営する上での考え方を語っていただくPodcast番組「The Founders」の書き起こしです。今回は記事のみをお届けします。
今回のFounder
岡井 大輝氏(Luup)
電動キックボードなどマイクロモビリティのシェアリング事業「LUUP」の運営 / BizDevやPdMなどのポジションはもちろん、特にエンジニアを積極採用中
目次
圧倒的スピード感を可能にするものはなにかステークホルダーとの接し方で心掛けていることミッションファーストがクリアになった瞬間OYOリテシュからの学び自己研鑽はしない。会社にとって最適なことを常に実行する創業以来やって良かったこと
圧倒的スピード感を可能にするものはなにか
LUUPを始めて1年の間に協議会設立やシェアサイクル事業など打ち手の数やスピードが多くて早いなという印象があるんですが、どんなエグゼキューションや意思決定がそれを可能にしているのか?
2つあって、まずは死ぬほど働くことです。僕だけじゃないですよ、全社員が労働時間など定められたルールの中で死ぬほど働くことが一番大事だと思っています。
シェアオフィスのGMBに創業のときに入らせていただいたのですが、他の会社と比べると結構差があったと思うんです。今から考えるとリモートの可能性もあるのですが、いつでも誰かしらがずっといる会社の人とあまりいない会社の人と。長距離走と短距離走で性質が違うものの、僕らはあくまでも実現までは絶対短距離走だったので、みんなが頑張ってくれたというのが1つです。
もう1つ特に大事だなと思ったのが、できないことをやらないことです。
みなさんの頑張りは8割頑張ってくれているんですよ、これを100%にするのには20%しか差がないので必要であるけれども、本質的じゃなくて。
みなさんの頑張りは8割頑張ってくれているんですよ、これを100%にするのには20%しか差がないので必要であるけれども、本質的じゃなくて。
たとえば、僕はプロダクトを作ることとか一般的な営業は得意じゃないんです。業界の中で一番得意ではない。でも多分関係省庁/自治体などの複雑なステークホルダーとの協議や広報だったら業界で得意な自信があります。なのでそれらは僕がやるし、0→1フェーズのアライアンスや営業は元Uberの佐々木が一番得意だと思ったんでやってもらうっていう話で。一番できる人を連れてきて全部任せることですね。
「最適な人をちゃんと連れてきて最適に渡すこと」がこのスピードを可能にするのかなと思っています。
経営者は全部やろうとするんですよ最初。それも1つ正しいんですけど、僕らの場合はこうしたっていう感じです。
大前提として、岡井が株式のほとんどを保有している株式会社として大きくなることを捨てたので。それは会社が大きくなることよりもミッションが一番優先な事業だからですね。
LUUPに関わる人全員が業界の中で一番最適な人であり続けて欲しいですね。なので結果として結構外資系っぽい社風にはなると思っています。結果として、うちは自分と役員陣で経営と執行をロールとして分けているっていうのがあります。
スタートアップではあるんですけどワンマンではないんです。何か超重要な意思決定の時、たとえば経営陣の次の採用の際は、全経営陣が○を出さないと確定できません。僕だけが採用したいと言ったとしてもダメ。何故かというと、僕はあくまで執行というレイヤーでは広報と省庁との協議しかです。あくまで経営陣をまとめる議長でしかないというのが自分のロールです。結果としてそちらの方が(事業の展開スピードが)速くなりました。
ステークホルダーとの接し方で心掛けていること
ステークホルダーの話をお伺いします。LUUPはステークホルダーが多くて、しかも結構多様なのかなと思うのですが、どう仲間に加わってもらったのか、どう関係をワークさせているのか、心掛けていることはありますか?
全部ちゃんと開示することに尽きます。結局ビジネスって約束の積み重ねでしかないと思います。
1つ言えるとすると、ステークホルダーが多いので、それぞれに違う約束をしないことです。僕らは良いインフラを作るというミッションを約束の最上段に置くので、それ以外の約束をしないことです。可能な限り約束をシンプルにして、ちゃんとそれを守ることかなと思っています。
とにかく首尾一貫させると。
そうしないと成立しませんからね(笑)
ステークホルダーが多いので、(複雑にしてしまったら)何を約束したかも忘れてしまいます。そこをシンプルにすることを無意識に決めてるかもしれないです。あと、結局のところ分からないじゃないですか。約束が成功するかしないかも。だからそこはもう、人生賭けてやっているということを目の前の相手にどう証明するかという気がします。
ミッションファーストがクリアになった瞬間
創業初期と現在で、価値観だったり考え方を大きく変えたことはありますか?
変えた自覚はないんですが、ミッションファーストがよりクリアになりました。創業時はこんなにミッションファーストとは言ってなかったです。
僕は、事業がちゃんと決まる前にミッションを決めるのには正直反対なんです。なので事業ができるまでミッションとかバリューも決めてなかったんです。
今この事業がよりクリアになって、僕らはこういうインフラを作るんだなというのが分かったタイミングで、「ということは、LUUPだけじゃなくて業界全体を盛り上げないといけないじゃん」と思って、その上で「その中で一番良いインフラを作るのが大事だな」と思ったので、ミッションを「街じゅうを"駅前化"するインフラをつくる」に定義しました。
ミッションファーストというところをよりちゃんと言語化できたことが自分の中で大きかったかなと思います。あらゆる意思決定に迷わなくなりました。
インフラって一番規模が大きいものがコストが少ないんですよ、圧倒的に。だから規模は圧倒的なものを目指します。なのでベンチャーキャピタリストとかLUUPにエクイティで入れる方々とも基本的には利益が相反しないんです。
ほとんどのVCが思ってるような一定額以上のイグジットは絶対目指すんです。ユーザーにとって最適なインフラを最終的に作るために。LUUPって今目指しているものがちゃんと実現できるくらい大きくなったら、1人1回数十円とかで乗せれる自信があるんです。なので、結果的に規模化を目指し、ベンチャーキャピタリストや投資してくれる方にも反することにはならないので、そういう意味で「ミッションファースト」にいろんなインセンティブ構造を収斂させたのは良かったかなと思っています。
「ミッション作ろう」みたいなタイミングやきっかけはあったんですか?
どんなインフラを作っていくかがよりクリアになったタイミングです。たとえば創業期とかにもっと時間を作れば考えられたような気もしなくはないです。
もし時間を戻せるなら創業段階でミッションを作っていますか?
いえ、これ以上早くは作れなかったような気がします。結局密度をたくさん置いたらユーザーが使ってくれるかとか、シェアサイクルの場合は何が課題で何がユーザーにとって良いかとか、自治体は何を大事にしているかとかも事業が進んでから初めてわかったことなので、どんなインフラが良いかもわかるのはその後なんです。
なので、(プロダクトができたくらいの)創業期から1回ミッションを作るのは賛成です。仮説って絶対あった方がいいので。それをPDCA回して仮説をアップデートさせることにこそ重心があると思うので、何か作るのは賛成なんですけど、ミッションはあまり変えると良くないじゃないですか。会社の存在意義なので。
そこを変えていいというアラインが創業メンバーで取れているなら1回作るのは賛成なんですけど、そのコミュニケーションは大変なので一定の自信が出来てから作るので良いんじゃないかなと自分は思います。
ただそもそも、創業の理由とかが結構人によるじゃないですか。僕の場合は良いインフラを作りたいから創業してますけど、そうじゃない場合もあるので、ものによってはミッションが最初からあってもいいと思います。
ミッションって抽象度が高ければ何とでも言えます。「インフラを作る」だけだったら創業したときに作れたと思うんです。ただ「街中を"駅前化する"インフラを作る」というミッションは多分1年くらいしてからじゃないと作れなかったなと思っていて。
ミッションというのは具体的でないと効力を発揮しないんです。HUNTER×HUNTERで言うところの誓約と制約だと思うんですけど、各意思決定の時にブレるからですね。
「こういうのもインフラだしこういうのもインフラだよね」ってなったら各自が意思決定できなかったりするんですよ。そういうのも含めて可能な限り普遍的なものを作る必要があるので、情報が出揃ってからが良いんじゃないかなと思います。
OYOリテシュからの学び
ミッションを社内に浸透させる努力はしましたか?
浸透させるという努力をする時点でそれは適切なミッションではないような気がします。本当に必要なら勝手に浸透するのではないかと。以前OYOの代表の方と何人かでランチした不思議な機会がありまして、(彼曰く)「ミッションやバリューは作らない。結局会社が各人をどう評価してどうやって採用してどうやってファイヤーするか以外に会社と社員の関係性なんかない」と。
なので自分としては浸透のための努力は特にしてないです。バリューの言語化はもちろんしましたが、でも本当にそのミッションが会社にとって適切な指針だったら全員勝手に言うはずなんです。それを表現するはずなんです。なのでいつのまにか浸透していたような気がしますね。
ミッションはうちでは結構浸透してる気がします。あと採用の時もそこに合うかどうかは確実に見ています。
ミッションファーストって結構厳しいんですよ。各人のキャリアよりもミッションを優先する、ということなので、例えばキャリアアップしたい、みたいな人には厳しいと思っています。ミッションのためならば、めちゃくちゃ頑張っててもその人より最適な人がいれば入れ替えるってことを言っていますから。ミッションファースト・個人のキャリアセカンドなんです。
うちに入るのをためらう方も多いと思うんですよ。逆に言うと、これにいいねって思ってくれる方が入ってくれるので、意思が固い、しっかり考えてくれた方が入ってくるケースがLUUPの場合は多いと実感しています。
なので、LUUPは楽しいよとか言うつもりは全くないです。とてもきついですよ。
バリューの浸透はもっと違う気がします。バリューってミッションの実現のために短期とか長期とか個人とか組織とかいろんな観点に合わせると思うんですけど、これに関してはものによってはすごく親しみやすいものと親しみにくいもの、つまり創業したメンバーの中にはすでにあるバリューと、今後のLUUPにとって必要なものがバリューに入っていた場合、何かしらのアクションをしないと今の人たちにはインプットできないじゃないですか。なのでそれはまたちょっと別のやり方があるかなと思うんですが、ミッションの浸透という意味ではそんな感じですね。
自己研鑽はしない。会社にとって最適なことを常に実行する
自分自身が成長するためにしていることだったり、意識していることってありますか?
ないですね。24時間をミッションのためにあてています。
例えば1日の、もしくは1週間の内の一定時間を自分の成長のためにあてる、といったことはしません。ミッションのためにやっていると、会社が成長してるうちは結果的により大きい責任を負うので、(CEOの)席に固執する、という発想がありません
会社にとって最適なことを常に実行するという感じです。
とはいえ、目の前のことばっかやれとは思ってないんです。たとえばエンジニアは、新しい技術を使い学んで、自分の持っているスキルをフル稼働で使って、さらに新しい技術を使い学んで、それを使う、というサイクルじゃないですか。なので長期で考えてミッションの実現のために最適なら良いと思ってます。ずっと会社のプロダクトのコードを書けって意味では全くありません。
「中長期的にLUUPってこういうことが必要になる可能性があるからこの勉強します」ならそれは全く問題ないと思います。むしろ業務中にどんどんやって欲しいです。
会社が成長して行くと会社の成長スピードに自分の能力が追い付いてこないみたいな話がありますが、それは特に感じたことはないのですか?
同時に成長しているという感覚です。追いついてないと思ったことはないですね。
まあ短期的にちょっとストレッチしなければという瞬間はもちろん常々あるんですけど、そういう時に新しく勉強するじゃないですか。その時々に新しいCFOをポンっと入れてたら多分僕よりパフォーマンスしないんですよ、その観点においては。なので自分がストレッチして成長した方がミッションにとって最適なんです。会社の方が成長は早いのでストレッチをしている感覚は常にあります。
でもまだまだシードベンチャーなので、(追いつけないと感じるのは)これからなんじゃないですかね。ただ、今のポジションにこだわるつもりはないです。
海外だと創業社長が去るのは結構普通じゃないですか。大きい物を作りたいんだったら当然起こるべき取捨選択かなと思うので。「時価総額3,000億円でほどほどのインフラ作って上場企業の社長であり続けること」と、「時価総額3兆円規模になって大きなインフラにはなったけど、創業社長としてはとっくにクビになってしまっていること」ってどっちが死ぬときに後悔しないんだっけ、みたいな話だと思うんです。
創業以来やって良かったこと
創業してここまでを振り返って、実行して1番良かったことって何ですか?
ミッションをちゃんと作ってそれに合わせて動けるようにしたことです。
その結果何ができたかというと、良い意味でも悪い意味でも社内の人がそういうマインドになってくれたし、そういう人を集めるべきだなと感じました。組織面の方向性が決まったし、会社の運営の仕方とかもすごい優秀な人を連れてきて彼らに任せきるみたいなやり方になったのもまさにそこです。
前編はこちら。
LUUPはBizDevやPdMなどのポジションはもちろん、特にエンジニアを積極採用中!