【後編】組織もプロダクトもN1に泥臭く向き合う | mikan 髙岡 和正氏
公開日
2021/07/01
著者
East Venturesの村上です。いま最前線で戦うスタートアップの創業者をゲストに迎え、創業のインサイドストーリーやスタートアップを立ち上げ・経営する上での考え方を語っていただくPodcast番組「The Founders」の書き起こしです。
目次
既存のサービスから拡張していくにあたってユーザーの声をどうプロダクトに反映していくか持続的に価値を届けるための会社の価値観会社と一個人としてのコンフリクトと「向き合い」の哲学今がイケてる状態ではないことへの自覚
既存のサービスから拡張していくにあたって
教育というマーケットにおいて事業を拡張する上で、何を軸に選択してるんですか?
教育はチャーンが大きいみたいなのはよく言われるんですよね。できるようになったらチャーンするのでプロダクトを良くすることと相反するのですが、それはもうどうしようもないと思っていて、それに抗って無理やり長く使ってもらうというのはプロダクトが良くならないので、mikanとしてはそれが一定の水準までしか上がりきらないのは承知の上で無料のユーザーさんを増やしています。
その先の話としては、僕らは基本的にミッションで動いてるので「本質的なテクノロジー活用であらゆる人の英語学習によりそい、人生の可能性を広げる。」という軸に沿って、あとは先ほど言ったように自分たちの解像度が高かったりとか、自分たちの強みのあるところでやっていく。
タイミングみたいなのはどうですか?
それもめちゃくちゃ難しくて、何度かコケてます。基本的には採用の進捗次第っていう感じではあるかなというところなんですけど、タイミングは難しいですね。始めること自体はできるんですけど、実際にフルでリソースを突っ込めないと事業を立ち上げるのは非常に難しいので、どうしても既存の事業に引っ張られてしまうというか。既存の事業も潤沢なリソースで回してるわけではないので、どうしてもそっちに引っ張られちゃうので、今は採用とかmikanの事業基盤を整えるみたいなところにフォーカスしています。
ミッションに沿うとしても、一方で非連続的な意思決定が必要になりますよね。そうすると、ユーザーからのフィードバックだけでは限界があるような気がしていて、拡張先のアイデアみたいなのはどうしているんですか?
アイデア自体はいくつか持ってるという感じで、解像度を上げていけるのかみたいな話と自分たちの得意とか広義のアセットみたいな、ユーザーの声を吸い上げられるようなチーム体制みたいなことも含めた広義のアセットが活かせるのかみたいなところ。
今だと英語教育のプロダクトってどこも一定のプロダクトがあったりするんですが、これはあんまりmikanを立ち上げた時には考えてなかったことで、2014年って英単語アプリとか英語アプリがほとんどなかったんですよね。あんまり競合を意識しすぎるのは僕はあんまり良くないかなと思ってるんですけど、とはいえmikanとしてやる意義とか、なぜわざわざこのプレイヤーがいるのにmikanでやるのかみたいなことの理由をちゃんと自分たちとしては定義していけるというのを考えていきたいなと思っています。
少なくとも何かしらベン図としては被ってしまうところが出てくると思うので、まるっきり誰もいないところというのは、それはそれで何かしらの理由があってそうなってるんでしょうし(笑)
ある程度は被ってしまうので、そこに自分たちの理由というか、mikanとしてやる意義が少なくとも社内としては持ちたい。競合の動きとかもあって外部環境がどんどん変わっていく中でしっかりやり続けられるかっていう意義は社内で持ってないといけない。市場が良いからと言って入っていって、外部環境が変わったから止めましょうみたいになるのは結構社内としてもしんどいし、その意思決定は良かったんだっけとなるので自分たちとして意思を持ってやっていく。
ユーザーの声をどうプロダクトに反映していくか
ユーザーさんと向き合う時に何か意識していることはありますか?
よく言われることですけど、ユーザーさんに言われたことをそのまま実装することはしませんね。今だと1週間に150〜200件ぐらい問い合わせを頂くんですが、いろんな要望があって。それを1個1個作っているととんでもないプロダクトが出来上がってしまう。
自分たちとしては圧倒的に早く覚えられるというのがあって、そのためのサブイシューを並べて、マッチした教材が出てくることとか、単位時間当たりの学習量や質みたいなものが担保されていることとか。また、そもそも勉強が続かないと早く覚えても意味ないので継続できることも。
こうやってイシューを分解して、ユーザーさんの声は実際どういうイシューにぶら下がっているんだっけというふうに、ユーザーさんの声をイシューで整理していく感じですね。
それは素早く実装するんですか?それとも結構吟味してからなんでしょうか?
実装は早くて感じですね。まあどこまで行っても仮説なので、それがN1の声にしかなってないとかは結局はやってみないと分からない。あとはインタビューをしているのでその主観や、定量で分析できるところはして、優先度決めて検証回していく。
mikanはローンチから結構な年月が経っているのにかなりシンプルに保たれていますよね。捨てている、削ぎ落としている部分もかなり多かったりするんですか?
そうですね。かなり意識しています。やっぱり要望がどんどん増えていくので、いかにシンプルで早く覚えられるか。サクサク動いて使い方がすぐ分かるというところがコアな価値として存在してるので、そこを崩さずにいかに維持しながら困りごとを解決していくかっていうところですね。
ある機能を削ったときに、ユーザーから消さないでという声はないんですか?
めっちゃあります(笑)
なのでそういう機能は戻すこともあります。UIの調整はしてからという感じですけど、なぜこの機能が消えて欲しくないのかなと考えたときに確かにこういう困りごとがあったと社内で整理できたら、どう調整して戻そうかという話をしますね。
去年もリデザインということでトップ画面を直したりしたんですけど、その時にはやっぱりトップ画面だけあっていろんな声が届きました。もちろんすべてに答えるわけではないんですけど、たくさん声が届く部分には何かしら理由があるはずだというので、整理して実装やり直すみたいな感じです。
持続的に価値を届けるための会社の価値観
経営についてお聞きします。mikan創業時は共同創業者という立ち位置で、そこからCEOに役割が変化したと思うんですけど、変わったこととかありますか?
適応中という感じではあるんですけど、最初は全然意識してなかったです。肩書きが変わるだけで別に何も変わることはないだろうと思ってて。もともと事業責任者みたいなことをやっていたので、プロダクトをどうしていくか、チームでどうやって動いていくかっていう話は変わらずそのままやっていた感じです。
だったんですが、2019年にCEOになってからチームをガッとリファラルで増やしていって、2019年の後半は結構チームがバラバラな感じでした。採用基準は本当に僕の感覚みたいなところでしかやっていなくて、そうなると僕とは良くてもチームとしてはみんないろんなところ向いちゃってるみたいな状態になってしまって。崩壊まではいかないですけど、組織の失敗。
人も結構やめていっちゃうみたいなタイミングがあって、プロダクトをやってチームをうまく動かすみたいなのだけではダメだなというのが、1年ぐらいでの手痛い失敗からの学びです。
会社の価値観をしっかり持って、その上でプロダクトを運営するという形でやっていかないと社会に持続的な価値を届けるのは無理なんだなとそこから気づき、ミッション・バリューを作ったりと、見るところが変わっていった感じですね。
では失敗の乗り越え方としては、ミッション・バリューを策定したことが1番大きかったんですか?
そうですね。1番最初にとったアクションとしてはそれで、実際に策定すると決めたのは、色んな人に相談をした結果です。
ミッション・バリューに関しては前から議題にはなっていたんですが、「この人数でいるか?」と話してました。でも採用基準を定めていなかったことからバラバラになってきて、採用基準を作ろうとなったのですが、採用基準の基準ってなんだっけという話になり、ミッション・バリューに立ち戻っていきました。
リファラルで入社してもらった後から策定しているので、「これに合わなかったらお互い中長期ではハッピーになれないので申し訳ありませんが、一緒にやって行くのは難しいです。」というのを言わないといけない。ミッション・バリューを定めるに当たってここまでがセットだと思っていたので、当時いたメンバーに感謝と申し訳なさがあるんですけど、そういう覚悟も持ってやったので、今のチームが作れているという感じですね。
相当ドラスティックな変化ですよね。
そうですね。
辞める方とのコミュニケーションは率直に告げるしかないという感じでしたか?
率直に言うしかないですね。コロナ前までの人は直接ご飯食べに行ったりとかして、「こういう風にやっていて、ここが合わないと思っているのですがどうですか?」みたいな話をしていきました。
リモートになってからは機微が伝わりにくいですし、相手もそんな話を1人で受けてしんどいだろうなとは思いつつ。でもだからと言って後回しにするっていうのは短期的には楽で傷つきもしないんですけど、時間軸を伸ばせば伸ばすだけ(会社と人材が)合わなくなるので、一人一人しっかり話していきました。
会社と一個人としてのコンフリクトと「向き合い」の哲学
入社エントリなどを見ていると、髙岡さんはメンバーや周囲の方からの信頼が厚い印象を受けたのですが、人との向き合い方やコミュニケーションで心掛けていることはありますか?
表面的なところと、深く大事にしたいところというので2つありますね。
表面的っていうか、癖みたいなもので、最初は聞く、理解する、肯定するというステップを必ず入れるようにしてて、その上でディスカッションなり自分の意見を言うなりしています。癖ではあるんですが、相手をまず受け入れるようにしています。
そういうふうになってる方が相手としても話しやすいし、その後のコミュニケーションを受け入れやすくなるので、表面的と言いますか、コミュニケーションの方法として持ってるところですね。
大事にしてるところとしては、「向き合う」のは自分が生きていく上で大事にしたいと思っています。自分自身が大学とか就職とかで偏差値主義人間みたいに生きてきて、その中で宇佐美とあって、「お前どうしたいんだっけ?」って彼がずっと向き合って話してくれたから、当時の意思決定を変えられた。だから自分自身もそういう風になりたい。そこに全力でいれば後悔のない形で自分の人生を送れるかなと思っています。
会社として「残ってくれたらいいな」という視点と自分個人として「この人応援したいな」という視点は結構コンフリクトして難しいので、そこはどっちに転んでも応援できるよう納得いくまで話すことは意識しています。
コンフリクトしたときは率直にそのまま伝えるんですか?
そのまま伝えますね。自分の中でアウフヘーベンするのは難しくて、立場がほぼ別人だと思っているので、法人と個人としてでは。なのでそのまま伝える。
ただ法人としてだとあまり長い時間軸でヒトに対しての判断がまだできてないかもしれなくて、個人としての方が対ヒトのためを思って話せている感覚があるので、結論としては個人に寄っていくことが多いですね。
今がイケてる状態ではないことへの自覚
行動量の最大化や行動速度の最速化のために意識しているポイントはありますか?
「自分たちは不完全である」とはかなり思っているかもしれませんね。不完全とか、明確に足りてないとことか。実際そうだと思うんですけど。今がイケてる状態では全然ないってどれだけ改善しても思っているので次のアクションが速くなっているのかなと思いますね。
やっぱり頭の中で良いと考えていたことと実際にやって学べることって、組織においてもプロダクトにおいても結構異なることが多いので、それならばどんどん試していきましょうっていうのが基本のマインドセットですね。
優先度についてはどうですか?リソースは有限だと思うのですが。
プロダクトについてはイシューで切って、定量化しながら優先度をつける形でやっていて、組織の方は2つ大きくあって、プロダクトを開発するのと採用を頑張ることの2つに紐づいているイシューを優先しています。逆に言うとそれ以外のことはあんまりやっていない。例えば、人が増えてきてるので評価をどうするかみたいな話とか出てくるんですけど、今はそれは横に置いている。
今だったら基本全員のことを見れるって僕は思っているので、その前提でそれは一旦置いておいて、今フォーカスできるところにフォーカスするというふうに優先順位を決めているという感じです。もちろん変わっていきますけどね。人が増えてくると評価も1つの重要なイシューになってくると思います。
創業してここまでを振り返って実行して1番良かったと思うことと、こうした方が良かったと思うことを1つずつ教えてください。
やっぱり最初の全国行脚はめっちゃ良かったなと思いますね。泥臭く行動するというのを体で学んだ。あれより大変なことってまだないんですよね。夜行バスで全国巡って、ファミレスで時間つぶして、友達のワンルームの家に4人で泊まらせてもらって、みたいのが本当に大変で。泥臭さの最たるものを体験できた。
直接ユーザーさんが触っているのを見て、自分たちの描いてるプロダクトと実際に使われるときの動きってやっぱり違うんだなっていうのを体験できたし、結果的に数字としてもマーケティングの成果として返ってきて、成功体験としても良かったのでやってよかったなと思っています。
こうしておけばよかったことでいくと、これも全国行脚かもしれないですね(笑)
1,000人は東京・神奈川・千葉で集めることできたなって今だったら思いますね(笑)1,000人集めようと思ったら東京・神奈川・千葉でビラ配り行ったり大学で勧誘したりとか結構泥臭いことはすると思うので、今だったらもっと上手くやれるかというのも全国行脚なんですよね。
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