【前編】VC大競争時代にどうすればベンチャーキャピタリストは育つのか?

スタートアップが注目を集める中で、「ベンチャーキャピタリスト(VC)」にも注目が集まっています。W ventures 代表パートナー東がグロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)時代にメンターであった、現GCP代表パートナーの高宮慎一氏とその師弟関係を振り返り、2人の出会い、採用からキャピタリストの育成について対談した内容をお届けします。
 
 

ご飯を奢ってくれるおじさんにVCに誘われたのが、投資家人生のきっかけ

 
高宮東さんと出会ったのは、東さんがGREEのソーシャルゲーム部門にて投資先やサードパーティーの支援をやっていた時で、投資先の資本、業務提携の支援を通じて仕事でご一緒しました。当時のGCPでは、コンサル出身者のロールモデルはいて、その育成方法もだいたい型化できているフェーズでした。ファウンダーの1人の仮さん(仮屋薗さん)がコンサル出身で、次の世代のパートナーが今野さんと僕というコンサル出身者でした。
 
そういう状況の中、ちょっと違うバックグラウンドから、違う形で投資先に価値を提供できる・支援ができる人も増やしたいと思っていました。ベンチャーに近い事業会社出身者で誰かいないかと考えた時に、「VCに向いてそうな東さんがいるじゃん」と。
 
実は高宮さんに出会った時、僕はVCが何をしているのかよく分かっていませんでした。高宮さんがたまに声をかけてくださってご飯を奢ってくれてありがたいなと思う反面、高宮さんは何の仕事をしているんだろう?とずっと疑問に感じていました。
 
高宮ご飯を奢ってくれるおじさんですね(笑)。
 
はい(笑)。当時、高宮さん以外のVCの方々からも結構ヒアリングを受けていたんですね。その中で、VCは当時の僕がやっていた仕事のうち、ベンチャーに出資をしてサポートすることを専業の仕事にしている人たちのことを指すらしいということがわかりました。だから、高宮さんに声をかけてもらった時はとても嬉しかったんですよ。当時の僕にとってはベンチャー支援はいくつかある仕事の1つだったんですが、専業でやれるのならすごく良さそうだと思い、GCPに入れて頂きました。ちなみに、VC採用時のポイントという観点で、僕はどういうポイントを見られていたのでしょうか?
 

ハードスキルよりもソフトスキル。VCに重要な特性とは

 
高宮よく「VCはファイナンスや戦略、マーケティングなどのハードスキルが必要ですよね?」と質問されます。でも僕は、ハードスキルはいくらでも後から学べるから、あまり重要ではないと考えています。それよりもむしろ、起業家が好きで、スタートアップの人が好きで、コミュニケーション能力が高くて、好奇心や成長意欲が旺盛で、スタートアップの経営者とシンパシーを感じ合える仲になれる、といった特性の方がものすごく大事だと思っています。東さんには、その素養があったと思います。実際のところ、事業会社の中でのパートナー支援からVCへの転換はどうでしたか?
 
「深さと広さ」において違いがあるなと感じましたね。投資サイドの方が視野の広さがあると思っています。一方で、(投資サイドに来たら、)事業会社の時みたいにプロダクトの深い部分まで関われるかと言うと、そこは本人次第なところがありますね。投資家はとにかく広く見ることができるので、それをどう上手く活用していくかが肝だなと感じています。
 
高宮東さんがGCPに入ってから最初の案件は、ランサーズに一緒に投資したことですよね。ランサーズについては、先方に東さんの席も用意してもらうくらい足繫く会社に通って深くコミットしていましたよね。実際、VCは自分が投資先に深く入っていこうと思えば入っていけるんですよね。そのあたりの自由度はすごくやりがいがあります。
 
それはそうですね。深さは本人次第で、広さはデフォルトという感じです。
 
高宮東さんはのスタイルは深く入ることでしたよね。最近のスタイルはどうですか?
 
引き続き「餅は餅屋」で、僕は深く入り込みたいんですよ。それが差別化だと思っているので。一方で、担当の企業も増えているので、どう上手く運用していくかが課題ですね。
 

新米VCが陥りがちな罠

 
GCPに入社したての頃まで時間を巻き戻すと、正直言って大変でしたね。
 
最近、VCに入社してすぐが大変だと若手から相談を受けるんですよ。僕の振り返りをしつつ、高宮さんからは僕はどう見えていたのかをお聞きしたいです。僕の立ち上がりは、完全にパートナーの皆さんの「丁稚奉公」から始めました。最初、僕は生意気だったので、自分で投資先をソーシングできると思っていました。ネットワークもちょっとあるし、投資のサポートもやったことあるし。
 
でも実は、空振りというか、肩透かし感があって全然仕事ができませんでした。そこで一旦、パートナーの皆さんが抱えていた投資先に対して、僕ができる価値貢献をしてみようと決意しました。一種のパラダイムシフトです。さっきお話しいただいたランサーズなどの投資先に対してしっかり価値を生み出そうと思いました。
 
ランサーズ社長の秋好さんは同学年で、なんとなく僕のことをまだあまり認めてくれていなさそうだったから(笑)、まずは認めてもらうところから始めました。のちに、秋好さんに認めてもらえたと思った瞬間があって、これからは頑張れると自信を持ってソーシングを始めたんですよね。
 

自分の力を過信せず、若手はパートナーを上手く使え

 
高宮東さんが仰るとおりで、「自分でソーシングして自分でして自分で価値を提供してイグジットを作る」というのは最終形として目指す姿ではあるのですが、いきなり最初からそれをやろうと力んでも空回りしちゃうことが多いですよね。僕も最初そうでした。多くのVCになりたての人が陥る「あるある」だと思います。特に、金余りの時代だと、完全にVCは「起業家に選んでいただく」側なのでなおさらだと思います。上手いこと、パートナーを使いながら自分の案件を作る発想の方が良いと思っています。
 
僕も考え方を転換して良かったです。パートナーの人脈を使わせてもらう。使えるものは何でも使って、目の前の起業家のために頑張ろうという考え方に切り替えた時、物事が一気に上手く回り始めた気がします。これは普遍的な真理なんですかね?
 
高宮そんな気がします。VCは個人で動くことも多いので、各人がどういう動き方をしているか、今何で悩んでいるかがファーム内で見えにくいところもあります。VCはすごく職人芸な仕事なので、シャドーイング的に親方の技を盗む機会を作ることが大事だと思っています。
 
東さんの時もそうでしたが、僕は新メンバーが入った時、意識的に自分がソーシングした案件をパスして1年〜1年半ぐらい一緒に動くようにしています。投資前も投資後も、投資に至る過程のすべてで一緒に過ごす時間を意識的に増やしています。
 
一方で、型の伝承が大体できたら、あとは自分で「守破離」の「破離」をしてね、とパスを減らすタイミングを作り、自分で走り込めるスペースを空けてあげるように意識しています。べったりとは一緒に動かないけれど何でも相談してね、と半歩だけ離れて必要な時には声をかけて的なスタンスにメンタリングを変えています。東さんは気づいていましたかね?(笑)そういうスタンスはやりやすかったですか?
 
たぶん気づいていなかったです。入社してしばらくは1〜2週間に1回必ず、メンタリングをしてもらっていましたよね。そういえば、いつの間にかなくなったタイミングがありました。
 
高宮見捨てたのではないですよ(笑)。僕はどちらかと言うと、スペースを開けて自分でいろいろ工夫しながら、自由にやらせて欲しい派なので、それがありがたいのかなぁと思っています。僕がジュニアの時は、パートナーの仮さんが放置系というか(笑)、ものすごいスペースを空けてくれて自由にやらせてくれました。すごく動きやすかったし、信頼してもらってエンパワーしてもらっていると感じました。もちろんこちらから頼むと何でもやってくれるのだけど。僕にはそれがありがたかったですね。一方で、子離れ、親離れをどのタイミングでするのが適切か。どう放すのか。今でも正解がない問いで、難しいなぁと思っていますが、東さんはどう感じていますか?
 
受ける人のタイプにもよりますよね。僕は、割と高宮さんに似ていると思います。結果を出すので自由に演技させてください、みたいなタイプなんです。ただ、最近は環境も変わってきていますよね。VC自体の競争環境の激化もあるので、それが個人の育成プランとどう紐付けられるのかは変化しているかもしれません。当時の僕にはすごく良かったですね。
 

ファーム内のキャピタリストのタイプにもダイバーシティを

 
高宮一方で、僕は起業家に対しては割と面倒を見たがる感じで、「ティッシュ持った?」「ハンカチ持った?」みたいに何でも心配になって、いろいろと言ったり、やってあげたくなるタイプです。これが果たして良いのかどうか?
 
それは完全に僕に受け継がれています。僕も後輩や起業家に対してコミュニケーションするときには「ハンカチ持ちました?」と聞いてしまう。それがいいのか悪いのか分からないけれど、完全に芸風は僕に受け継がれています(笑)。
 
高宮難しいですよね。一方で、例えばGCPだと今野さんは基本的に口数少なめで、本当に大事なところでビシッと言ったりしますよね。
 
僕は完全に高宮さんの流れを汲んで育ってしまいました(笑)。
 
高宮だからファームで言うと、さまざまなタイプのキャピタリストで構成されているポートフォリオが大事。起業家の受け側によっては、色々言ってくるのが鬱陶しいという人もいれば、どんどん言ってほしいという人もいると思います。ファームとしては、いろんなタイプの良い起業家を逃さないために、さまざまなタイプのキャピタリストがいるというダイバーシティが大事だと思っています。
 
僕は、ジュニアの後半、今野さんとご一緒することが多くなりました。多分、良い感じで役割分担ができたのかなと思います。
 
高宮東さんは、チーム全体の最適化を図る中で、自分の役割を見つけて、スポッとはまってバリューを出すのがうまい。自分のタイプと違う人と組んだ方が、チームとしては効率が良かった気がします。
 
ありがとうございます!素直に嬉しいです。チームには、タイプの違う人が必要というのは、ファームだけではなく、どの業界にも通じる気がしますよね。
 
 
.....後編はこちら。
 
<師弟対談> グロービス 高宮氏、W ventures 東 がメンター/メンティー時代を振り返る 後編 : VC大競争時代にベンチャーキャピタリストはどうやって育つのか? 『ハードシングスを乗り越えてこそ良いVCになる』
 
若手VCから中堅ベテランになり、WventuresのGP(代表)になった東が同じ目線で、師匠グロービスの高宮さんとVC大競走時代に「若手VCはどうすればいいのか」を本音で語り尽くします。
 
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W venturesとGlobis Capital Partnersでは、現在キャピタリスト採用を行っています。以下のプロフィールに記載のTwitter宛にご連絡をお待ちしております。
 
東 明宏|W ventures 代表パートナー(@pigashi
2012年よりグロービス・キャピタル・パートナーズにてベンチャー投資に従事。6社で社外取締役を務めた。主な投資実績としてはクリーマ(2020年IPO)、ランサーズ(2019年IPO)、ホープ(2016年IPO)、エブリー、リノべる、アソビュー等がある。
 
2017年Forbesが発表した「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家BEST10」で7位にランキングされる。 日本ベンチャーキャピタル協会「Most Valuable Young VC賞」、Japan VentureAward2017「ベンチャーキャピタリスト奨励賞」等受賞。それ以前は、グリー株式会社にてプラットフォーム事業の立ち上げ/ゲーム会社への投資、セプテーニ・ホールディングスにて子会社役員を務めた。早稲田大学第一文学部卒/多摩美術大学クリエイティブリーダーシッププログラム修了。旅行とスイーツが好き。少し太ってしまったので、しっかり運動もしたい。
 
高宮 慎一|グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー(@s1kun
GCPではデジタル領域およびヘルスケア領域の投資を担当。投資先に対して社外役員で参画し、ハンズオンで支援。戦略コンサルティングファーム アーサー・D・リトルを経てGCPに参画。東京大学経済学部卒、ハーバード大学経営大学院MBA。Forbes Japan’s  Midas List 日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング 2018年1位、2015年7位、2020年10位。
 
実績には、IPOにアイスタイル、オークファン、カヤック、ピクスタ、メルカリ、ランサーズ、M&Aにしまうまプリントシステム(CCCグループ入り)、ナナピ(KDDIグループ入り)、クービック(heyグループ入り)などがある。現在支援先には、ビーバー、タイマーズ、ミラティブ、ファストドクター、グラシア、アル、MyDearest、want.jpなどがある。