SmartHRの156億円調達。ユニコーン誕生のその裏側

配信者のTwitterアカウント:矢本氏, 宮田氏
 
矢本 真丈氏(以下、矢本):おはようございます。ゼロトピックです。今日はSmartHRの宮田さんに来てもらいました。よろしくお願いします。
 
宮田 昇始氏(以下、宮田):よろしくお願いします。
 

目次

 

SmartHRの事業特性にフィットしたファイナンス

 
矢本:なんですか、あの資金調達額は?
 
宮田:一体何円なんだって自分たちでも分からなくなります(笑)
 
矢本:今日は宮田さんにSmartHRのシリーズDファイナンスの裏側を聞くっていうテーマで、僕が考えてきた質問をぶつけさせてもらいたいなと思っているので、答えられる範囲でお話してもらえると嬉しいなと思います。
 
今回のファイナンスは改めてどういう位置づけだったり、どういう狙いで行ったかみたいなところを始めにお聞きしてもいいですか?
 
宮田:質問にストレートに答えていない感じになるかもしれませんが、なんかうちの会社ってこういうファイナンスが得意というか、これまでもずっとやってきたんですよね。ニュースとかで今回のマルチプルは高いみたいな話が出てたじゃないですか。具体的には言えないですけど、まあまあマルチプル高いんですよね。ただ、過去にはもっと高いマルチプルがあったんですよ。例えば、シリーズAのファイナンスの時って、MRRで100万円くらいしかなかったんですね。ARRで1,000万円くらい。その時にプレ15億円、ポスト20億円とかでファイナンスしてるんですよ。なので、マルチプルで言うと200倍ぐらいだった。
 
当時から高すぎるとはすごい言われてたんですけど、とはいえその額で出してくれる人たちがいて、その結果ちゃんと先行投資をした。人材やマーケティングに当時の規模からするとかなり突っ込んだと思うんですよね。人もたくさん採ってましたし、ARR1億円いってないタイミングぐらいでテレビCMも打ってるんですよ。
 
なので身の丈以上のファイナンスをして、それを事業にしっかり投資して会社を大きくしていくというのはこれまでもやってきたんです。なのでその延長線というか、これまでつけてきた実績を基にレバレッジをかけたファイナンスをして、それを今後も事業に投資して、どんどんどんどんマーケットを開拓していくみたいな感じですね。
 
矢本:前々から宮田さんにはファイナンスの相談をいろいろさせてもらいましたが、SmartHRはものすごくリスクマネーの性質に合ってるというか、レバレッジをかけるというところにすごい特化したファイナンスをしていて、見習うところが多い。
 
宮田:そうですね。ビジネス特性みたいなものが結構合ってるなと思ってて。SaaSにも色々あるじゃないですか。Salesforceみたいに単価が1万円以上するものもあれば、我々みたいに1ユーザー単価は1,000円弱ぐらいのものもあれば、Marketoみたいに対象顧客が少ないものもある。逆に僕たちはめちゃくちゃ広いんですよね。日本全国の法人が対象になりうるサービスだと思っていますし。あとチャーンレートがめっちゃ低いんですよ。多分これは僕らだけじゃなくて、競合製品もそれなりに低いと思ってまして、まだまだ乗り換え先が少ないんで、お客さん側に選択肢が少ないんですよね。だからチャーンレートは低くなりやすいなと思っていて。
 
単価がそんなに高くない、対象顧客が多い、チャーンレートが低いっていうジャンルだとめちゃくちゃ先行逃げ切り型の市場になるんですよね。対象顧客が多いので、ある程度お客さんが勝手に製品を選んでくれたり、勝手に使い始められるくらい良いプロダクトじゃないといけないんですよ。なので良いプロダクトを作ることに先行投資し、それをいち早く広めるためにマーケティングにも突っ込むっていうのが合ってるビジネスなんですね。SaaSのなかでも特に。なのでファイナンスを大きくドンみたいなのは合ってる気がしますね。
 
矢本:そうですよね。toB SaaSですけど、マーケティングがすごい重要な領域になっているということも特殊っていうか、そういうジャンルだなって感じですね。僕らもバーティカルSaaSみたいな言われ方を最近はしますけど、対象顧客そんな多くないし、CM打ってもそんなに変わらなくて、どっちかって言うとトップセールスみたいなことの方が重要なんで、SaaSと一口に言ってもジャンルってありますね。
 
今回ユニコーンだとすごい騒がれてますが、いつぐらいからユニコーンを目指してらっしゃったんでしょうか?
 

ユニコーンを目指すと決めた時

 
宮田:昔は全然考えてなかったんですよね。そんなに会社が大事になるとは思ってなかったので。ユニコーン企業みたいなのを意識し始めたタイミングが2017年の終わりぐらいなんですよね。
 
ユニコーン企業を目指してたって言うと、人によっては変な触れられ方をする部分があるかと思うので、時価総額を上げてストックオプションで儲けようとしてるみたいには思われたくないなと思っているので、ちょっと丁寧に喋ろうと思います。
 
エピソードとしては3つあって。
 
1つ目はですね、とある経営者の方に言われた事があるんですけど、当時シリーズAのファイナンスが終わってシリーズBが控えてるぐらいのタイミングで会社のバリエーションいくらかって言われると、シリーズAのポスト20億円が会社の評価額だったんですよね。
 
その時ぐらいに、1,000億円(の評価額が)無い会社は存在してないのは一緒だって言ってる経営者の人がいたんですよ。当時の僕らとしては「は?」みたいな気持ちになるじゃないですか。「そんな言い方なくない?」みたいに思ったんですけど、その人の話を聞いてみてなるほどなと思ったのが、「時価総額とか未上場企業の評価額っていうのは、世の中にどれだけインパクトを与えているかの通知表みたいなものです」みたいなことを言われたんですよね。
 
その時に時価総額1,000億円の会社ってどんな感じなのかなってインターネットに出てる情報で調べてみたんですけど、1,000億円でもこれくらいなんだって感じたんですよ。
 
例えば、特定の地域に根ざした交通系の会社さんとか、食品系の会社でも月1回か2回もしかしたら食べるかもなってぐらいで。何て言うんでしょう、この会社さんがなくて自分が生活できないかというとそうでもないっていう会社さんがやっぱり並んでるんですよね。1,000億円でもそんな感じだったんですよ。だから僕らのポスト20億円ぐらいだと本当に何も影響を与えないのと同じなんだなって確かに思ったんですよね。スタートアップって「世の中を変えたい」とか、「社会にインパクトを与えたい」と思ってみんな始めるじゃないですか。なのに、こんなに自分たちがやってることは小さいんだと感じまして。
 
じゃあ世の中を変えたり、便利なサービス作りましたって言えるようになるにはそれくらいの規模を目指すのが良いんだろうなと思ったんですよね。それが1つ目。
 
2つ目は、株主たちが自分たち以上に自分たちのことを信じてくれたというのがありまして。これは千葉孝太郎さんとジェームスの話が2つあるんですよね。千葉さんで言うと、当たり前のように「みんなはユニコーン企業になるんだから」みたいなことをおっしゃってたんですよ。当時そんな規模感は全然なかったんですよ。「本気で言ってる?」みたいな。でも明らかに本気で言ってるというか、当たり前じゃんみたいなテンションで言ってるんですよ。なので「そうなのかな、もしかしていけるのかな」ってその気になってしまったというのが1個。
 
あとシリーズBのファイナンスの時にSPVというちょっと変わったファイナンスをして。ジェームスたちに、500 Startups(現Coral Capital)が僕らの代わりにSmartHR専用のファンドを作って、そこに僕らの代わりにお金を集めてくるっていうのをやったんですよ。それでジェームスからタームシートをもらったんですよね。びっくりしたんですけど、タームシートの評価額の欄が空欄だったんですよ。「好きな金額書いてください」だったんですよね。「ええっ」と思って。
 
 
その直前ぐらいまでは、ジェームスたちは既存株主だったので次のファイナンスのバリュエーションどうしようかみたいな話をしてたんですよ。40億円でも高すぎるんじゃないかというのが彼らの意見でしたし、他の株主もそんな感じだったんですよね。そんな話をした後に「僕たちが代わりに集めてくるよ。金額は任せるよ」と。
 
彼は結構ハードネゴシエイターなので評価額は交渉になるかなと思ってたんですけど、「合わせます」と。SmartHRは絶対ユニコーンになるって信じてるんで、40億円だろうが60億円だろうが、その規模になったら誤差ですみたいな感じだったんですよね。「マジか」と思って。
 
僕らはユニコーンになれたら嬉しいなみたいな感じだったんですけど、この人は本気でうちの会社がユニコーンになると本当に思ってるんだっていうのを感じまして。これは目指していこうと思ったのが、3年半前ぐらいですね。2017年。
 
矢本:今回のラウンドは派手なラウンドになったと思うんですけど、会社の中の反応はどうですか?
 
宮田:うちのSlackってエゴサーチチャンネルがあるんですよ。SmartHRという単語とか関連するURLがツイッターに投稿されるとそれが流れてくるチャンネルで、この数日はまあすごかったですね。会社の中としてはお祭りじゃないですけど、自分たちの会社って今すごい勢いがあるよねというか、こういう風に評価されてるんだみたいなのが結構流れてくるので、ある意味ハッピーなお祭りみたいな感じにこの数日はなってましたね。
 
Twitterって良いことだけじゃなくて、悪いことも書かれるじゃないですか。だから今回も結構叩かれるんじゃないかなと思ってたんですよね。「またスタートアップが未上場でこんな価格でファイナンスして」みたいなツイートがいっぱい流れてくるんだろうなと思ってたんですが、今回全然なかったんですよ。今回初めてARRとか開示して、フェアバリューだねって言ってくれるVCの人だったりとかが多くて。今までにない何か変な感じがありますね。なんでしょう。世の中から受け入れられる感じ(笑)
 

衝撃を呼んだARRと成長率

 
矢本:ねじ伏せた感じはありますよね。宮田さんが貼ったあの4枚のチャート(笑)
 

矢本:特にあの4枚のチャートだとARRの開示って、内部的にも結構議論があったんじゃないかと思うんですけど、そこはいかがでしたか?
 
宮田:ありましたね。僕はARR10億円を超えたくらいから出していいんじゃないって言ってたんですよ。「オープンな社風という割には1番肝心なとこ出してなくない?」っていうような気持ち悪さがあってそう言ってたんですけど、社内では反対派が結構多かったんですよね。
 
というのも、お客さんによってはそれぐらいの売上規模って感じると、交渉で足元を見られる可能性があるっていうようなリスクもあるなと思いましたし、もうちょっと、大きな規模になってからの方がいいんじゃないみたいなのがあって。それもいろいろ理由を聞いてみると確かになって思うところがあったので、もうちょっと待とうかという議論をしました。
 
1年に1回くらい僕が「まだですか?」みたいに言ってまして、今回初めて、そろそろいいかもしれないですねとなったというのがありましたね。最近やっぱりSaaSの上場企業増えてきてて、みんなのARRとか成長率みたいなのが、すごく情報として整理されるようになったじゃないですか。
 
なのでSmartHRも結構良い伸びを見せてるなって思ってもらえるような環境が整ったっていうのがあるなと思いましたし、水準としても結構いい水準だと思ってるんですね。ARR45億円、プラス成長率100%というのは。良いなって自分たちでも思うので、そろそろ出しましょうかという感じでしたね。
 

海外の機関投資家はSmartHRに何を見たのか

 
矢本:今回錚々たる投資家が出揃っていますが、どういう問いを立ててきたりとか、どういう点をSmartHRに見出して投資をされているのかがすごい気になります。
 
宮田:実際、投資家の人たちと具体的に話してるのって僕じゃなくて、CFOの玉木さんとか、もっと言うと今回はIRの森さんっていう人がいるんですけど、ほぼ彼らがやっていて。なので僕自身は投資家の方たちとそんなに話してないんですよね。最後の1回、出資する前にミーティングがセットされて質問に答えるぐらいって感じだったので、突っ込んだ質問はもう終わってたんですよね。
正確には分からないという回答になると思いますが、SaaSビジネスの良いところで、やっぱり指標が全世界共通というのがあるので、コミュニケーションしやすいなというのは前提にあると思いますね。その上で彼らが気にするのって、日本の市場のこと。例えば「競争そんなに緩いの?」みたいなことをよく聞かれるんですよね。「嘘でしょ。競合もっといるでしょう。隠してない?」みたいな。いやいやこんな感じなんですよというのがあったりとか。
 
あとは、上場投資家の人たちって数字数字ってイメージが昔はあったんですよ。だけど、意外と質問されることって定性的なことが多くて、「なんで創業したんですか?」とか「10年後、この市場ってどうなってると思います?」とか、そういう結構抽象的な話も多くて、良い意味でギャップがあるというか、面白いなと思うことがありますね。
 
矢本:なるほど。
 
宮田さんのツイートに引っ掛けて、ヤプリの庵原さんがArenaの創業者の方と面白いディスカッションをしたというツイートをされてたじゃないですか。あんな感じの印象的なディスカッションでありますか?
 
 
宮田:Ferozさんやばい人ですよね(笑)
 
どんな人かと言うと、最近すごく話題のTiger Globalで10年以上ファンドマネージャーやってた人で、Forbesの投資家ランキングに載ってたような人なんですよね。それで独立して自分でやってみたいな感じなんですけど。まあなんでしょうねえ。なんかですね。すごいですよ。もう笑っちゃうくらい(笑)
 
これもジェームスと似た感じかもしれないですけど、僕らの成功を確信してるみたいな感じなんですよね。「もっといこう、もっといこう」みたいな。ポジショントークもあると思うんですけど、ここで何百億円調達して投資しないでどうするんだみたいなことをずっと言ってくるんですよね。いつも笑っちゃってます(笑)
 

ユニコーンSaaSを間近で見てきた海外投資家ならではの視点


矢本:他に印象的だったディスカッションはありますか?
 
宮田:今回はリードがLight Street Capitalなんですけど、僕らはシリーズCのときからちょっと入ってもらってるんですね。そのときのミーティングがいまだに印象的です。
 
ネットリテンションレートのスライドを当時ファイナンスの資料の中に入れてたんですよ。そのネットリテンションレートのスライドを見た瞬間に、「これはアップセルも入ってる?」と聞かれて、「いえ、アップセルは考慮してない純粋なリテンションレートです」と言ったら「ダメだ。お前らは投資が足りてない。もっと投資しなきゃ駄目だ」みたいな感じの議論が始まったんですよね。会って15分でそんなネットリテンションレートの突っ込んだ話をするなんて経験したことがなくて。
 
SaaSへの理解度が高いなというのはもちろん感じたんですけど、それって国内の投資家たちもSaaSへの理解度って今だとすごい高いと思うんですよね。違うなと感じたのは、やっぱり彼らは海外のユニコーンSaaSに実際に投資をしていて、その経験があるということ。情報として理解できるというのと、実体験として向こうのユニコーン企業たちの激しい競争を間近で見てきた人のコメントって見てる観点がちょっと違うなと感じたんですよね。それがなんかすごい印象的でしたね。指摘されて「確かに」と思うところがある話が多くて。
 
矢本:SmartHRの既存プロダクトのNRR(Net Retention Rate)だけでも、国内のVCだったら割と良いねってなりそうな印象もありますもんね。
 
宮田:ですし、話題がなんかそこじゃないというか。もう少し分かりやすい、いつ利益がとかいつ黒字になるのかとかそういう議論が多かったんですけど、いきなりネットリテンションレートのそんなところ突っ込んでくるのかみたいな感じだったんで、凄いなと思いましたね。
 
矢本:確かに言語が共通化されているのは素晴らしいですね。
 
逆にSmartHR側はどうやって投資家を評価したり、タップしたりしたんですかね?
 
宮田:それはもう完全に森さんの仕事ですね(笑)あんまり年齢のことは言いたくないんですけど、27歳なんですよね。若いからどうのっていうのは個人的にあまり好きじゃないんですけど、でも言及せざるを得ないぐらいすごいなって思うときがあるんですよね。
 
僕はやっぱり上場投資家のこととか詳しくないんですよね。森さんは専門家なので、基本は彼の意見に任せようと思っています。ただ彼の一存だけで決めると間違っている可能性があるとか、より良い選択肢を見過ごす可能性があるので、取締役会とかにも出てもらって、取締役の人たちとか株主の人たちとディスカッションしてもらったりしたんですよね。彼らの方が詳しいので。本当にそれだけでいいのかみたいな。
 
その場でも森さんすごいねとなるんですよね。森さん27歳なんですよねって言うと株主がめっちゃびっくりするんですよね。「人生何回目?」みたいなそんな感じなんですよね。本当に凄いなと思いますね。実際に本当に彼がメインだったんで、もうちょっと前に出て欲しいなと思ってたんですけど「自分は裏方なんで」って感じで出たがらないんですよ。かっこいいですよね。
 

SmartHRはコロナ特需だという根拠のない噂

 
矢本:ありがとうございます。ファイナンス周りはそんなところで。コロナの影響で飲食店が軒並み営業停止になりましたが、元々SmartHRにとっては大きいセグメントだったんですよね?
 
宮田:そうなんです。僕らは飲食チェーン店さんとか、小売チェーン店さんとかがメインのお客さんだったんですよ。ニーズもドンピシャにはまってて。彼らの中でマーケットリーダーになっているという感覚も自分のなかではあり、どんどん広めていきたいと思ってた矢先のコロナだったんですよね。
 
飲食・小売・宿泊業とかもそうなんですけど、コロナで大打撃を受けている状態というのがSmartHRのお客さんの4割ぐらいを占めていたんですよ。新規契約に関して言いますとやっぱり僕らも見通しが悪くなったんですよ。コロナ始まって、リーマンショックの時のこととかもいろんな記事が回ってくるじゃないですか。(それによると)やっぱり会社が何をやっていたかよりも、その会社のお客さんがどこだったかというのが業績にかなり影響してしまったらしくて。僕らもこのままだと結構やばいなと思って焦ったのを覚えていますね。
 
実際に一部の株主は初めて焦ってて。基本放任の会社だったんですけど、初めて緊急ミーティングが開催されたりですとか、この辺うまくいってないっぽいけど、課題はどこにあるんだろうみたいなのをマネージャーたちに個別にヒアリングしたりとか。なので彼らとしても結構焦ってただろうなと思いましたね。僕らも焦ってましたし、それで何か糸口が見つかるんだったら、もう全然やってほしいくらいの感じでした。
 
よくコロナ特需と言われたりするんですよ。SmartHRはコロナ特需で羨ましいなみたいな。それは実態とは違うぞとは言っておきたいですね。
 

コロナ禍で真価を発揮した「自律駆動」というバリュー

 
矢本:コロナのタイミングで(SmartHRの)施策の量がすごく増えたっていうのは感じてて。何かいろんなところにSmartHRが出るようになったじゃないですか。CM等も含めて。あの辺りは経営陣はどんな感じで考えて対処したのかとか、経営陣はどんな焦り具合だったのかとか、生々しいやつください(笑)
 
宮田:そうですね(笑)
 
施策に関して言うと、本当にすごくみんな上手くやってくれてるなって感覚なんですよね。うちの会社はバリューに自律駆動っていうのがあって、自分で会社の課題を見つけて、それを自分で解いていく。「自分を律して駆動する」と書くんですけど、それを本当に体現してくれています。
 
「広告のコピーをリモートワークが来るからそれに寄せよう」ですとか、あとはTSグループっていうお客さんがいて、その人たちが3日後に新卒が入社してくると。入社式はZoomでできるけど、入社手続きだけはどうしても出社してもらわなきゃいけないと。緊急事態宣言出てるから何とかなりませんみたいな相談を受けたんですよね。それを非常に早いスピードでCSの人たちが頑張って導入してくれて、入札手続きも上手くいって、この人たちに出てもらってテレビCMを作ろうみたいなところまでバーッと進んでいって。導入の相談を受けたのは3月の終わりぐらいなんですよね。で、TSグループさんに出てもらったZoomで撮ったCMが公開されたのって4月の末くらいなんですよ。このスピード感はえぐいなと思ってて。それを僕たちがやってって言ったからやってるんじゃなくて、そういうのが出るって後から知るんですよね。
 
なので彼らの動きに関しては心配することは全然なくて、むしろすごく頼もしかったですね。営業の人たちも、じゃあ他にニーズが高くなっている業者はないのかっていうのをめちゃくちゃ調べてくれたりとかして。会社全体で自律駆動して動いてるなって感じがありました。
 
で、実際に僕はどんな感じだったかって言うと、やっぱですね、「あっ、やべえ」みたいな感じで思考停止する感覚がありましたね。結構な人たちの人生背負ってしまってるじゃないですか。例えばSmartHRの社員の人たちだったら、あの会社にいたよっていうので転職できるかもしれないですけど、株主、それこそジェームスとかだとうちが死んだら多分ジェームスも死ぬと思うんですよね(笑)投資の張り具合とかで言うと。
 
あとシニフィアンさんも2,3社くらいしか投資してないんで、僕らが終わるなら彼らも終わると思うんですよ。利害が人生と紐づいている人がめちゃくちゃ多いんで、「これこのまま落ちていったら大変なことになるぞ」とはすごい思いましたね。
 
矢本:いつもチャーミングな笑顔な倉橋さんは、そういうときにどんな感じの反応するんですか?
 
宮田:彼は人間らしいところがあるので「やべえ」みたいな感じでしたけど、どうやったらここを乗り越えられるかをすごく考えてくれてて。ちょっと具体的には言えないんですけど、彼が考える、緊急事態宣言が出た去年の上半期を戦い抜く秘策みたいなのがあって、それがめっちゃはまったんですよね。結構ヤバイかもと思ったんですけど、去年の上半期終わりぐらいには予算の8割ぐらいまでは行けててすごいなと思いましたね。
 

業種が変わればPMFは一気に遠ざかる

 
矢本:最後の方になりましたが、エンプラの比率が上がったみたいなのがあったじゃないですか。エンプラ比率が上がっていく中で、プロダクトとして大変だったことはありますか?
 
宮田:うちの初期って、IT系のなかでもさらにスタートアップ向けのサービスだったんですね。MAXでも数百名規模ぐらいのスタートアップが使ってくれる製品で、数百名規模の会社で、かつITリテラシーが高い従業員が多い会社においてはPMFしたっていうのは結構初期で感じてたんですよね。なんですけど、これが大きめの会社さん、2,000名ぐらいの全国に店舗が点在する飲食チェーン店さんでパートの方、アルバイトの方が従業員の大半を占めていて、ITリテラシーもそこまで高くないお客さんに製品を持っていった瞬間にPMFが一気に遠くなるんですよ。
 
70点くらいの製品にはなってきたねと思ったけど、違う業種に持っていくといきなり30点の製品に戻っちゃうみたいな。なんかそんな感じなんですよね。それをずっと繰り返しているという感覚です。
 
これまで導入できなかった規模のお客さんのところに行くたびにPMFが遠のいて、そこに合わせてガンガン作っていって、何とか対応していけるレベルになったと思ったら、違うお客さんから声がかかってさらに遠のくみたいな。それをずっと繰り返している感覚がありますね。
 
矢本:じゃあ今はついに、エンプラの人にも使ってもらいやすい状態にPMFさせられた状態という感じなんですかね?
 
宮田:そうですね。1年前ぐらいに会社の部門の人たちに今のSmartHRのプロダクトは何点くらいだと思いますかって聞いたことがあるんですよ。ブログにも書いてて今それを開いてるんですけど、各部門の責任者聞いたんですね。エンジニアは35点、プロダクトデザインは30点。PdM25点、QA40点、サポート40点、PMM40点、セールス40点、カスタマーサクセス40点、人事労務研究所45点なんですよね。
 
50点すら誰も超えてねえみたいな感じで、お客さんのところに持って行くたびにPMFが遠のいて、そこに近づいていったらまた違うお客さんに使ってもらえるようになってまた遠のくみたいなのをずっとやってる。
 

SmartHRのプラットフォーム化構想

 
矢本:なるほど。じゃあ常に遠いなっていう気持ちが会社の中にはあり続けるけど、それは良いストレッチという感じですね。僕らはエンプラばっかりで小さい会社ってほとんどいないのでイメージがちょっとつかないんですけど、例えばエンプラ側に寄せるって、機能を追加するとか、UIも含めて体験を改善するとか、そうやってプロダクトをフィットさせたときに今までフィットしてた人たちがフィットしなくなるって問題って起きないんですか?それともそのジレンマも解消しながらやるみたいな感じなんですか?
 
宮田:まずそういうジレンマが生まれないものでいくと、分かりやすいところではパフォーマンスとかなんですよね。300名以内の会社さんの従業員一覧のリストを出すとかって、そんなにパフォーマンス難しくないというか。でもこれが10数万人の会社さんに入った瞬間にやばくなるんですよね。CSVデータのアップロード/ダウンロードとかもものすごい量が入ってるんで、何時間かかるんだみたいなパフォーマンスになっちゃったりするんですけど。
 
大きいお客さんを想定して作ってなかったんですよそもそも。10名未満ぐらいの会社が使うかなと思って最初の頃作ってたんで、初期の想定していなかったこととか、昔の仕様の技術的負債みたいなのを、頑張ってエンジニアのみんなが返していってくれている。
 
ジレンマが発生するものでいくと、明らかに大企業しか使わないとか、特定の業種しか使わないみたいなものは基本的になるべく組み込まないという方針でやってますね。ただそれだけだとエンタープライズの人が一生使えないとか一生便利にならないってなってしまうので、それを解決するために、プラットフォーム化みたいなのを今粛々と進めてるんですよね。
 
これが何かというと、分かりやすいのはChromeのエクステンションとかイメージしやすいと思うんですけど、ブラウザってデフォルトの状態でも結構便利じゃないですか。でも、より便利に使おうと思った時にエクステンションとかを入れると、自分に合った良い使い方ができるようになるみたいなものをSmartHRでもやりたくて。SmartHR本体はデフォルトでも充分使えるんだけど、特定の業種とフィットしないという時に、特定の業種向けのミニアプリみたいなのを並べて、それをインストールすると使いやすくなるというので、ジレンマを生まないようなやり方っていうのを考えてやってますね。
 
その考え方自体は、もうSmartHRの初期の初期、5年前、6年前ぐらいからありまして。実際に準備をし始めたのが3年前ぐらいで、この半年くらいでやっと具体的なアクションがとれ始めているみたいな感じですね。
 
プラットフォーム化はずっとやりたいなと思ってたんですけど、シリーズAかBくらいのタイミングでアレン・マイナーさんに投資してもらえませんかって言ったことがあるんですよ。投資の話は流れちゃったんですけど、その時言われたことですごく覚えてることがあって、プラットフォーム化構想は良いと思うけど、まだ全然早いよって当時言われたんですよね。当時のARR2億円とか3億円ぐらいだったかな。そろそろプラットフォーム化準備しようと思ってるんですと言うと全然早いと。
 
結局、僕らのプラットフォームって自分たちだけじゃなくていろんなサードパーティーの人たちにアプリケーションを作って欲しいなと思ってるんですよね。そうなるとARR50億円とか100億円ぐらいになってから初めてやり始めるくらいで全然良いよみたいな。今だとインパクト小さすぎて誰も乗っかってくれないからみたいな話だったんですね。
 
確かにと思ってなかなか動かさなかったのもあるんですけど、やっとそれをやる意義があるぐらいの規模になってきたので、それを実際にやっていきたいなと今思ってるタイミングですね。
 
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アレン・マイナー 1987年から日本オラクルの初代代表として同社の立ち上げに貢献し、今日の記録的成長の礎を築きあげる。99年に自らの資金で設立した株式会社サンブリッジの代表取締役として、数多くのベンチャー企業への投資に加え、Salesforceをはじめとする海外クラウドベンダーの日本におけるJVの設立にも携わる。2007年には、米国フォーブス誌のベンチャーの企業価値向上に顕著な貢献をしたと見なされるベンチャーキャピタリストおよびエンジェル投資家のリストである『Midas List』に、日本を中心に活動するベンチャーキャピタリストとして初めて選出される。 参照:https://school.nikkei.co.jp/lecturer/article?tid=NBSJFV
 
矢本:ありがとうございました。せっかくこれだけ話していただいたので、最後に何かあれば。
 
宮田:我々エンジニア採用に3年おきぐらいで苦労する会社でして。ちょっと前まで調子が良かったはずなんですけど、最近すごい苦労してるんですよね。なので、皆さんぜひSmartHRに興味を持ってほしいなと思ってるんです。
 
僕が喋るよりも、実際にエンジニアのリーダーたちが書いたコメントみたいなのを読んでほしくて、「156億円で何するの?エンジニアリーダーたちに聞いてみた」っていうブログが今ですね、これめちゃくちゃ良い内容だなって自分の会社ながら思ったんですよね。
 
 
宮田:これをぜひ読んでほしいなと思っています。それで興味がなかったら、もうSmartHRのことは忘れてもらってもいいんですけど、「頼む、このブログだけは読んでくれ」という気持ちです。
 
矢本:わかりました。じゃあそのブログ貼っておくので、それを読んで興味なかったら10Xの採用ページにそのままジャンプして頂ければ(笑)
 
本日はSmartHRの宮田さんに来ていただきました。ありがとうございました。
 
※この記事は配信者の許可を得て公開するものです。